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第69話(謀)

 呪鉱石たちの、あまりにもぞんざいな扱いを知って、思わず拳に力が入る。

 悲惨な現実に納得できなくてオッチャンを見ると、大きく首を振ってくる。


「オレも色々あって、この国に来てよ。色んな鉱石が集まるってことで店を開いたんだが、この扱いだ。ま、この国の程度ってモンが分かるってことよ」

「元々、呪力を帯びた鉱石は貴重なのに。値段だって、この十倍以上するはずなのに」

「そんだけ、コイツらの使い方と使い道を理解しようとしねえヤツラが多いってこった。しかし正規の価格も理解してるたあ、兄ちゃんタダモンじゃねえな?」

「そんなことないって。僕はさ、ほら、色んな町とか村とか回ってたから、そういう話も聞いてただけで…」

「イヤイヤ、謙遜すんなって! 立派なモンだぞ? 一体どこでそんな知識仕入れたんだ?」

「あはははは…まあ、色々と」


 哀愁漂う表情から一転して、大袈裟なまでに感心してみせるオッチャン。ううむ、反応に困る。

 なにせ僕の場合、色んなところで、色々やって、色んな人のお世話になって。その関係で、偶々呪鉱石についても知ってただけ、っていうのが真相だし。


 つまり、偶然知ってたってことでゴザイマス。一歩違えばこの国のお方たちと同じ扱いをした可能性だってあるワケだから…やっぱり反応に困る。

 取りあえず笑って誤魔化そう、そうしよう。 


「ところで、いいかな? あのさ、これと、この鉱石、あとこれの実物、見せて欲しいんだけど」

「ん? どれも魔法師が使うには重くなるが? それなら兄ちゃん、これなんかどうよ? 軽くてそこそこの呪力を蓄積したモンだが…」


 直感で選んだ鉱石たちを並べてみせると、オッチャンは違う鉱石を棚から出そうとする。


「あ、いいよいいよ」

「そうか?」


 慌てて止めて、床に並べた色とりどりの、禍々しい呪鉱石たちを指し示す。


「こっちの方が、杖に形成した時破壊力が出る、よね?」

「……おお! そういや威力第一だったな! そんなら……飛び切りのが…確かこっちに……」


 満面の笑顔を浮かべた僕の要望を受けて、棚を漁り始めるオッチャン。

 すぐさま、ほれ、と軽い調子で渡された、漆黒の呪鉱石。

 

 どれどれ……


「……お? おおおおおっ?」


 途端、僕の手のひらから重い重い淀んだ空気と、空間を歪ませるほどの呪力が迸る。

 僕は魔法師じゃないから、呪力や魔力っていうのを視認することは出来ない。はずなんけど、そんな僕でも目に見えるほどの力が放出されている。

 よくよく見ると、オッチャンが漁ってた棚には注意書きが一つ。


『体調が優れない方、心臓に持病を抱えた方は近づかないで下さい』


「こ、これは……っ」


 僕の手にあったのは、色々吸い込んじゃいけないものを溜め過ぎた、光すら吸い込みそうな、間違った方向に祝福された鉱石だった。


「呪鉱石にしちゃあ軽くはないが…見ての通り、呪力じゃ群を抜いてる。硬度も中々のモンだ。とはいえ、価値が分からねえヤツラにとっちゃあ『クズ石』だが、な!」

「なにこれ……なんか、すんごく引き付けらて……むむむむ……む…」

「だろう? どうよ?」

「オッチャン、最高だよ……で、値段は……?」

「ああ。これでどうよ」

「ええええええっ?」


 気になるお値段は? とオッチャンが指で示した値段が、尋常じゃない。

 

 尋常じゃないほどの安値。す、捨て値?

 

 見間違えじゃないのか、と呪鉱石とオッチャンの指を何度も往復してると、小さな指が左右に振られる。


「予想以上に高い、だって? ははん、兄ちゃん言うじゃねえか。なんならもっと安くしてやっか?」

「え、えええっ? ほ、本当にっ?」

「嘘だと思うなら…」

「い、いえっ! それでどうか! どうかオネガイシマス!」

「うっし、商談成立! 今、現物持ってくるからちょいと待ってろ」

「うん!」

「いい返事だ!」


 一発目の鉱石店で、この大当たり。オッチャンが格好良すぎて、眩しすぎてマトモに目を向けられない。

 そして、このお店を調べてくれたクラヴィアさん、素敵過ぎる。一方的に苦手意識持ってごめんなさい。後で謝っておこう。


「やったよフリギア! どんな杖になるか、楽しみだね!」

「あの場所にいて、元気だな。しかし、もう決まったのか」


 これ以上ないほどの掘り出し物を買うことができて、足取りも軽い。気分が高揚したまま、カウンターへと向かう。

 でもって、ずっとそこにいたらしい、手持ち無沙汰なフリギアに並んでオッチャンが戻ってくるのを待つ。


「フリギア、会計頼むよ!」

「いやにあっさり決めたな。選びきれん、全部買う、など言うかと思っていたが」

「それがさ、聞いてよ! オッチャンがいい鉱石を紹介してくれてさ! フリギアも絶対分かるって! あの呪鉱石凄いって! っていうか、こっち来れば良かったのに」

「それは遠慮しておく」

「どうして?」

「あの場所は危険に過ぎる」

「危険? 何の話?」

「………ああ、お前にとってはそうだろうな。気にするな、独り言だ」

「え? あ、うん」


 良く分からない独り言だったけど、フリギアは真剣な表情で空間が歪んだ、瘴気漂う一角に顔を向けていた。

 そして、滅多に見られない貴重な光景を、その鋭い目に焼き付けている。

 僕も、他の場所では見ることができない光景に目をむけ、近い将来に思いを馳せる。


「むふふふふ。とってもいい子に会えて良かったあ……そうとなれば、杖の色は変えずに、あの漆黒でいこうかな」


 一切を反射しない、全てを飲み込む漆黒の杖! っていうのもいいなあ。どんな形でも、あの鉱石の色だけで攻撃力があるように見えるし。

 そりゃあ一番重要なのは使い勝手だけど、やっぱ見た目も大事だし。


「形はどうしようかなあ……ああ、また夢が膨らんでいく…」

「おう兄ちゃん待たせたな! これだ!」

「待て店主よ。それは本当に売り物…」

「買った!」


 それ以外に、言うことなんてあるだろうか?


「即答するのか…」


 唸るフリギアが何を言っていたのかは聞こえなかったり。

 それよりも、目の前に置かれた呪鉱石の存在感が凄い。向こうの棚に陳列されてたものより禍々しさが二乗されて、さらにいい具合に熟成されていた。

 店内のお客さんたちの目も、カウンタに置かれた、一抱えもある呪鉱石に釘付けになってたり。

 全員が真剣な顔をして、唸っている。中にはその存在感に圧倒されて、後ずさる人までいたり。お店全体が惹きつけられる、そんな一品。


「まいどっ! 全部持って帰るか?」

「その量なら割らなくてもいいよ。じゃあフリギア、支払い」

「………」

「フリギア?」

「分かっている……が、しかし」

「いいから。決めたんだから、早く払って」

「………」


 さすがのフリギアも、眼前の圧力から目を離すことが出来ないみたいで、僕の声に対しても反応が鈍い。

 のろのろと、疲れた様子でお財布を取り出すフリギアを横目に、オッチャンと雑談。


「で兄ちゃん、加工はどうする。オレの方でもできるが、他所にツテでもあるか?」

「あ。それなら心配ないよ。僕、鉱石の加工はできるから、このままで」

「ほお。見る目がある上に器用。いい客じゃねえか」

「どうもどうも。ところでさオッチャン、この子さ、杖の形に削りだすんじゃなくて、圧縮して杖にすれば……呪力が凝縮されてさ良い感じになると思わない?」

「ひひひひ……兄ちゃん、分かってるねえ」

「店主、会計を頼む」


 ニヤリ、と笑ったオッチャン、フリギアに気付いてはっとした様子で顔を持ち上げる。


「毎度……ん? そういやどこかで見たと……まさか旦那…」

「どうしたの? フリギアと知り合い?」

「残念だが初対面だ。ところでシアムよ、この鉱石、どうするのだ。大分邪魔だが」


 あっさりと否定したフリギア。持ち運びに邪魔だと、呪鉱石を指し示す。


「大丈夫大丈夫。この子軽いから台車でも借りてさ、僕が持っていくよ」

「そうか」

「……それに、僕の物だし」

「………」

「ぐふふふふふふふ……」


 これでこの子は僕の物! 

 一抱えある漆黒の鉱石を持ち上げれば、その重さは剣一振り分もない。さすが呪鉱石! 他の鉱石とは全く性質が違う。


「………」


 呪鉱石に頬ずりしてると、フリギアは僕から距離を置く。

 他方、オッチャンは台車を用意しながらも、フリギアの方へ寄って行く。


「なるほどな。あの兄ちゃん、『専門』だったのか。道理で店開かないわけだ」

「いや、それは全く関係ない。この男は別口だ」

「分かってら分かってら! バレちゃ大変だもんな!」

「だから別口だと…」

「いやあよ、ただの鉱石屋のオレが言うのもなんだが、この兄ちゃん、見所があるぞ」

「…ああ。残念だが、そのことは理解している」


 オッチャンから釣銭と台車を受け取りつつ、小声で会話しているフリギア。

 上機嫌なオッチャンとは正反対の顔をして、僕を見下ろしてくる。


「なにさ?」

「一度戻らないか?」


 突然の提案に、呪鉱石から顔を離して問いかける。


「台車も借りれるし、戻る必要はないと思うけど」

「お前にとってはそうかもしれんが…」

「あ、もしかして僕を気遣ってくれたり? なら大丈夫だよ! 重そうに見えるけど、この子とっても軽いし!」

「いや、しかしだな、周囲に迷惑…」

「なんだ、他にも寄る所があるのか?」


 僕らの会話を聞いて、オッチャンが軽く目を見張る。


「うん! この後、精霊石も買いに行くからね」

「ほう。店の当てはあるのか?」

「ええと、紹介状書いてもらったから……」


 レガートさんが紹介状を書いてくれたお店の名前を言ってみると、オッチャンは楽しそうに笑い始める。

 ほどほどに入ってきたお客さんたちが再度こっちを見てくるけど、オッチャンは気にした様子もなく、上機嫌で僕の背中を叩く。


「兄ちゃん、ホント何モンよ! 眼が肥えてて怖いじゃねえか!」

「いや、これは他の人に教えてもらって…て、どゆこと?」


 聞けば、オッチャンは背中を叩くのを止めて、そりゃもう嬉しそうに答えてくれる。


「いやよ、ウチはドワーフばかりだが、アッチは妖精ばかりだ。イイモン、揃ってるぜ」

「妖精! そりゃ凄い!」

「外れなんてないしな。ま、値段はそれに比例してるが」


 妖精と言えば、大部分の人には見えない精霊と、人間を繋ぐ役目を持っている存在。

 で、当然精霊と会話も出来る。だから、その妖精がお店を開いているというのなら、精霊石の質は保障されたもの。


 ……こんな幸運、続いていいのかな?


「それじゃ益々戻ってられないじゃん! フリギア、早く行こう!」

「……仕方あるまい。帰れと言ったところで、その様子では聞きもせんか」

「うん!」


 この呪鉱石を、この子を貰えただけでも幸運なのに、次行くお店では良質の精霊石が保障されている。

 うう…僕、こんなに幸せでいいのかな……いいんだよね? 


 散々酷い扱いを受けてきたけど、ホント、フリギアたちに付いて行って良かった!


「オッチャン、じゃあね! また寄るから!」

「おう! また来い! 兄ちゃんなら大歓迎よ!」


 そうして、周囲の空間を捻じ曲げるほどの瘴気を漂わせる、素敵な漆黒の呪鉱石を手に、お店を後にしたのであったとさ。

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