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第68話(謀)

 久しぶりに和やかな朝食を過ごした後、ようやく待ちに待った杖の材料探し!

 服もミノアに用意してもらったのを着て、フリギアと二人で城下町へと……やはり没落貴族だな、とか散々言われたけどね!


「鉱石店と…精霊石を扱う店か。どちらから行くか?」

「まず鉱石だよ、フリギア。精霊石の方は紹介状があるから、多少は無理が利くしね」

「分かった。付いて来い」


 道案内を兼ねて前にいるフリギアは、なにやら地図っぽい紙に目を落としつつ歩いている。多分地図だろうけど。

 武器屋はともかく、武器になる材料を扱うお店に心当たりなさそうだったけど…どうやら昨日の今日で目星をつけてくれたみたいだ。


 これで僕を騙したり、拉致したり、囮にしなければ、フリギアってすんごく良い人なんだけどなあ。


「あっ。でもそれだとフリギアじゃないのか」

「何か言ったか?」

「へっ? あ、えっと! そそそそう! 杖の話をしてから、あんまり日が経ってないのに、よくお店見つけられたなあって!」

「………」

「あ、あははは! さっすがフリギア! 凄いなあ!」


 つい心の声が漏れたような気がしたけど、フリギアは確信に満ちかけた胡乱な目を向けてきた。けど、すぐ地図っぽい紙へと戻す。

 ふう…危ない危ない。


「一体何時の間に調べてきたのさ」

「昨日クラヴィアに頼んだのでな。礼はクラヴィアに言え」

「んん?」


 許婚でしょクラヴィアさん。なのにに頼んで? 調べてもらった?

 あのクラヴィアさんが地道に調査する、だなんて想像もつかないんだけど。

 むしろ、『そんなことすら分からないの? 私に聞く前に自分で調べなさいな』って返されそうなんだけど。


「どゆこと?」

「どうもこうもない。クラヴィアは調べ物が得意なのでな、頼んだだけだ」

「調べ者が得意? お貴族様の伝手、とか?」

「まあそうだな」


 顔を持ち上げたフリギアは、首を左右に向けた後、道を曲がっていく。

 それにしても、朝食を摂ってからそう時間は経ってないんだけど、やっぱり人が多い。

 僕が最初来た時から、人通りの多さだけは全く変わってないような気がする。


 朝だというのに所々で市場みたいなのが開いてて、とっても活気がある。

 ちょっと気になって、フリギアに置いてかれないよう盗み見してみると…新鮮な果物から肉、魚、生活用品、果ては魔道具まである。驚愕の品揃えだ。


「って、朝市に武器……?」


 武器特価也! だななんてデカデカと書かれた看板を目にしたら、見に行くしかない!

 爽やかな朝の陽光を受けて、禍々しく輝く刃たち。ずらりと並べられたその箇所だけは、重々しい雰囲気に満ちている。

 だけども当然、普通にお客がいて真剣に武器を手に取り、吟味をしている……左右の、野菜と軽食を取り扱ってるお店目当ての奥様方に混ざっている、厳つい方々。


「時間帯は関係あるまい、売れれば良いのだろう。それでどうだ? お前の見立ては」


 僕も遠慮なく立ち止まると、フリギアも道案内を止めて楽しそうに訊いてくる。


「全体的にいい出来だと思うよ。あ、でもあのフレイルは強度に難ありだね」 

「ほう」


 足の長さほどの金属の柄に金属の鎖を繋げた、その先端に棘が付いた鉄球が装着されたフレイル。

 それを指差せば、フリギアは興味を引かれた様子で目を向ける。


 柄を振り回し、鎖に繋がれた鉄球で相手を攻撃する武器だけど、持ち手が長いコレは魔物や対騎兵用のものっぽい。ちなみに持ち手が短いフレイルは馬上で、片手で扱う物だったり。

 簡単に言えば、敵へ向けて力任せに振り回すだけのお手軽武器だから、あんまり戦闘に慣れてない人にもお勧めの一品。


 …なんだけど、コレはちょっと柄と鎖部分の接合が雑で、下手すると鉄球が飛ぶ。

 そういう武器があったら楽しいと思うけど、一応フレイルとして売ってるっぽいから、お勧め出来ない。


「逆に、お前が勧める武器はどれだ?」

「あの戦斧かな? 結構お買い得だよ。フリギアも一振りどう?」

「戦斧か。どれ…」


 人の身長よりも高い柄を持り、先端にかけて腕の長さほどもある湾曲した刃が付いた戦斧。

 普通に出来が良いけど、特に刃の部分が精霊石と鉱石を合わせた魔鉱石なのが高評価。


「詳しく見ないと分からないけど、刃の部分も属性がしっかり出てるし、相当の腕を持った人が作ったものだと思うよ」

「なるほどな」

「あっ、あの短剣とか面白い形してるなあ…へえ……」

 

 全体的に完成度がバラバラだけど、やっぱり武器は見てて楽しくなってくる。

 どうやらこのお店、売れればいいや、って感じらしく、値段も捨て値からやや高い物まで一通り揃ってたりする。

 かなり珍しい形をした剣も複数あったりして、種類だけは多い。


 ただ、やっぱり精霊石をそのまま加工したような剣はない。

 宝玉を埋め込んだ、擬似的に魔法を使うことが出来る、魔法剣みたいのはあるけど。 


 しばらく適当に会話してると、フリギアが普段使ってる剣を叩いてみせる。


「なるほどな。では、この剣はどうだ」

「あのさ、それ、嫌味? 銘入りの一振りでしょ? 強度や切れ味が悪いわけないし」

「そうか。見なくても分かるか」

「そうだよ。見なくても分かるよ」


 自然と声が平坦になる。だって、見なくても分かることだし。誰でも分かることだし。

 だけど、フリギアは楽しそうに目を細める。


「何度も思うが、武器に関しては優れた観察眼を持っているな」

「…最後に自分の武器を評価させて、そう言われてもなあ。しかも、なんか褒められた気がしない」

「安心しろ、俺は褒めている」

「ホントに?」


 そもそも、フリギアみたいな権力ありそうな暴力騎士っぽい人間が、そこらで売ってる武器を引っさげてるわけがないし。

 じいっとフリギアを見上げてると、向こうは唇を吊り上げて余裕の表情。


「どうした」

「なんでもないよ。そろそろ行こうよ」

「ああ」


 そのまま武器屋を後にして、歩くこと数分。


「シアム待て。ここだ」

「おととと…」


 フリギアが立ち止まったのは人気疎らな、静かで落ち着いた店舗群にあるお店の一つ。

 周囲のお店が開店準備を始めてる中、一つだけ既に準備万端とばかり、道端に何か書かれた板が置かれてたり。

 なんとなしに目を向け……動きが止まる。


「金、銅……方解石? 孔雀石? え? 魔鉱石に呪鉱石までっ? なにこれっ?」

「どうした」

「ちょっと見てよフリギア! この値段! おかしいって! 相場の半値近くってどういうことっ?」

「すまんが、相場が分からん」

「とにかく安いんだって! 安すぎる!」

「そうか」

「そうだよ!」


 特売品と書かれた鉱物名と、その値段。明らかに値段の付け方がおかしい。涎が出るほど異常な安値。

 ああどうしよう! すんごく、中が気になってきたぞ!


「店先で興奮しているところ悪いが、さっさと中へ行け。買い物を済ませるぞ」

「す、凄い! 凄いよフリギア! なんなの、このお店! 早く入ろう! でもって沢山買おう!」

「…無駄な買い物はせんようにな」

「そうだよね! 万が一のこともあるしさ、フリギアも沢山買っときなよ! 絶対損しないって! 転売しても儲かるよ!」

「お前は俺に何をさせようとしているのだ?」


 期待して絶対に損をしないお店を前に、嬉し過ぎて胸の動悸が激しく…じゃなくて、胸が高鳴って仕方ない。

 よっし! それじゃあ気合入れて行こう! 


「じゃあ、お財布、じゃなくてフリギア、行こう!」

「財布?」

「いいから入る! とっとと中入る!」

「ああ…」


 突然、なんでか腰が引け気味になったフリギアを押しつつ、入店する……ってもしかして、フリギアったら初めて鉱石店行くから緊張してたり?

 やっだなあ、そんな緊張するような場所でもないのに。


「失礼するよ」


 鉱石店らしく、頑強な加工を施された扉を開いて中へ。


「らっしゃいよ、っと」


 と、すぐさま目に付くのは、小柄な体躯に立派な白髭を生やした、ドワーフ種のオッチャン。

 ご存知の通り、ドワーフ種は小柄で体格がいいのが見た目の特徴。結構長生きだったりもする。

 でもってその小柄さと頑強さを活かして鉱山で鉱石採掘してみたり、手先の器用さを活かして細工職人になったりしてる。


 エルフほどじゃないけど尖った耳を持ったオッチャンの足元には、鉱石が詰め込まれた籠が置いてある…どうやら、近くの棚に商品の鉱石を並べてたっぽい。

 僕らに気づいたオッチャンは、手に持っていた鉱石を丁寧に籠へと戻して中腰の姿勢から立ち上がる。それでも僕の胸辺りまでしかない。


「おうおう、見ない顔だが、兄ちゃんよ、何かご注文でもあるのか?」


 僕らが見慣れない客だからか若干警戒した様子で、綺麗に鉱石から宝石から精霊石から陳列された棚を横目に、訊いてくる。

 そんな、簡素な棚に置かれた鉱石たちに目が引き寄せられ、思わず手を伸ばしかけ涎が……


「…おい兄ちゃん? 話聞いてるか?」


 じゃなくて!


「ご、ごめん! あのさオッチャン、突然で悪いんだけど、禍々しい呪力を持った呪鉱石ない? 頑丈で軽いのがいいんだけどさ」


 はっ、と我に返り、慌てて両手を合わせてオッチャンに用件を伝える。


「禍々しい? 呪力? おいシアム、お前は一体何を…」

「おうおう! 兄ちゃん運がいいな!」


 僕が何を求めてるのか、一瞬で完全に理解してくれたらしいオッチャン。猜疑の視線もどこへやら。ニヤリと口元を吊り上げて歩き出す。

 一方、僕の背後で呟いてたフリギアは信じられん、と驚いた様子で首を振っている。

 どうも、色とりどり種類も様々な鉱石が並んでる光景に圧倒されてるっぽい。僕らにとっては普通の光景なんだけどなあ。


「あるのか…いや、そもそもそれを杖の材料にして良いのか……?」

「ちょっと待ってろ! いや、こっちこい!」

「うん! あ、種類があるなら、持ち人が死ぬぐらいの呪力を持った鉱石がいいんだけど!」


 僕の結構我侭な要望を耳にした途端、オッチャンは豪快に笑う。それこそ、お店が揺れるほどに。


「はははははっ! 兄ちゃん分かってるじゃねえか! こっちにこいや!」

「さっすがオッチャン! 期待していいんだよね?」

「当然よ! 腰抜かすなよ?」


 オッチャンはえっちらおっちら、淀んだ空気溢れる一角へ向かう。僕もうきうきしながら付いていく。

 なにせ、同じ店内にも関わらず、そこだけ空気が停滞し、外は快晴だというのにどことなく薄暗い。


 ……最高の場所だ。


「ここまで瘴気に満ちた空気を出せるなんて…オッチャンやるねえ」

「褒めてくれるな! おうそうだ、兄ちゃん何作るつもりだ? 呪力持ちの鉱石が必要なら剣か、魔法反射の鎧か?」

「違う違う。杖を作ろうと思ってるんだけど、攻撃魔法だけ撃てればいいからさ。だから、ね」

「ははっ! そりゃいい! ますますいい! 面白いじゃねえか!」

「でっしょう? だから、いい感じの鉱石が欲しいんだよ」

「分かってら! ほらよ。ここにお探しの相手がいるだろよ!」


 オッチャンが嬉しそうに手を向けた棚。そこに並べられた、色とりどりの鉱石たち。

 一目見て、思わずため息が零れる。


「はあ…最高……こんなによく集めたね!」

「集めたも何も、ここらじゃよく採れるもんよ」

「え? だって呪鉱石だよ? そんなごろごろ落ちてるような物じゃあ…」


 驚く僕へ、当然だという表情をした後、気づいたように何度も頷くオッチャン。


「当たり前の話だが…兄ちゃんアレか、新参か」

「そうそう。ただ、ここで商売するつもりはないけど」

「見る目あるってのに、そりゃあ残念なこった。まあいいさ、ほれ、お探しの一品を見つけてくれ!」

「ありがと!」


 とても人が良いオッチャンの前で、遠慮なく見本として置かれてる鉱石を一個一個手にとって確認し始める。


「ううむ……これ…いや、でも…あ、こっちも…」


 しかし迷う。どの鉱石も周囲に瘴気を撒き散らし、重く淀んだ空気を形成してくれる。

 どれもこれも、いい呪われ具合をしていて本当にに悩んで仕方ない。

 できれば全部買って帰りたい。全部僕のにしたい。


「呪力の割合が高いのがこっちで、魔力の割合が高い鉱石はこの棚だ。ああ、あと精霊石や宝石と融合した変り種はあっちだぜ兄ちゃん」

「うん……数が多くて悩む……オッチャンも、これだけの数、よく集めたよ」


 一つ見ては、棚へ戻し、次の禍々しい鉱石を手にする。

 他の棚は違うかもしれないけど、この棚に置いてあるのは全部、元の鉱石から一部を削った見本。

 だから、本物はもっと量があって、もっと陰鬱として、負の力を発してるんだろう…本当に全部持って帰れないかなあ。


「むむむむ…ねえ、フリギアはどれがいいと……あれ? フリギア?」


 緑と紫、二つの呪鉱石を手にして振り返ると、いるはずのフリギアがいない。どこ行ったのかと探す、間もなくカウンター前で立ってるのを発見。

 確か、そっちには普通の鉱石と宝石が並んでたような? もしかして、クラヴィアさんに何かお土産でも考えてるのかな?

 あ、でもお土産なら、この呪鉱石でもいいと思うんだけど。貴重なものだし、あの広いお屋敷の調度品にもぴったりじゃん。


「………」

「どうした兄ちゃん」

「なんでもないよ。今まで色んな鉱石店見てきたけど、ここまで呪鉱石が揃ってるのは初めてだよ」

「そりゃそうよ。実はよ、ここらに住んでる奴等、この鉱石たちの価値がまるで分かってねえのよ。つうことで、オレはそれを良心価格で買い叩…買い取ってるってワケよ!」


 鉱石について説明する傍らで放たれた言葉に、凝視してた鉱石から目を離す。


「えっ? この鉱石の価値が…?」

「そうよ。あいつ等、こいつら見てなんつったか知ってるか?」


 『こんなクズ石、とっとと捨てちまえ』だってよ! と豪快に笑うオッチャン。


「嘘でしょう?」

「いや、本気も本気よ。本気で処分しようとしやがった!」

「いやいやいや! 冗談じゃない!」


 信じられない。ここまで素敵具合な呪鉱石を価値がないだなんて!

 驚く僕へ、オッチャンは笑いながらわざとらしく肩をすくめてみせる。


「客も客でよ、どうしてこんな不吉な石を置いてるんだ? だなんて言いやがる。ようやく見る目ある客が来たってコッチも嬉しいこった」

「結構使い道あると思うんだけどなあ。オッチャンも、苦労してるねえ」


 そんな理由で売れ残っているらしい呪鉱石たち。とても可哀想になってきて、涙が出てきた。


 …よし! 杖の件が終わったら、僕が、沢山買ってあげるからね!

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