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第65話(謀)

「ええぇぇえっ? こ、これがフリギアの家っ? うっそだあ!」

「一々お前は大げさだな」


 大したものではないだろうが、と言ってのけるフリギアは本気の真顔だったりする。


 まず目に入るのが正面に聳え立つ漆黒の門。

 単なる門じゃなくて、植物っぽい装飾までされてる無駄に御洒落な門だ。こんな誰も気付かないような装飾、やる必要があるの?


 そんな御洒落門を超えた先に続くのが、木や花が左右対称に植えられた庭。中央に石畳の道が、馬車一台余裕で通れるぐらいの幅で続いてる。

 これを全力疾走して十数秒先の距離にあるのが、巨大なお屋敷。


 年季が入った、けれど手入れが行き届いた屋敷。本館と、左右に通路があってそれぞれ別館に続いてたり。

 マンドラさんのお屋敷よりは規模が小さいけど、本当に大きいお屋敷で…無数にある窓が夕日の光を反射して、とっても眩しい。

 目がちかちかしてきてお屋敷から顔を背ける。


「フリギアって本当に凄い人だったんだねえ…ふう」

「何をそこまで驚いているのだ? 周囲を見てみろ」

「ああうん…」


 良く分かる、真顔のフリギアが言いたいことは良く分かる。


 だって、周り全部、フリギアの家以上に巨大なお屋敷ばっかだし。特に両側のお屋敷が大きすぎて、フリギアのお屋敷が若干隠れてるし。

 でも、どれもこれも豪華だけど、違うんだよなあ。


「確かにさ、周りも大きなお屋敷ばっかだけど、やっぱり知ってる人がこう、実際に住んでるって思うとさあ」

「空き部屋ばかりで、維持する手間がかかるだけだぞ」

「でも、やっぱりお屋敷もってるって凄いと思うよ」

「そうか」


 ミノアにあげる杖の材料費、金額も聞かずに全部出すとか躊躇なく言うからさ、何となく分かってたけど。


 フリギアは、本当にお金持ちだった。


 ………うん。


「ならば明日にでも好きなだけ見学すればよい。行くぞ」

「あ、うん……えっ?」


 頷きかけてふと横を見ると、自分の家に帰ってきたっていうのに、何故かフリギアは臨戦態勢を取ってたり。

 青色の柄に手をかけたフリギアは、慎重に音を立てないように門を開いて、庭へと入っていく。


 あんれ? おっかしいなあ。フリギア、ここ、自分の家って…言ったはずなんだけど?

 傍から見ると、このお屋敷に忍び込もうとしてるようにしか見えないんだけど。

 ええと……本当に、ここ、フリギアの家で合ってマスカ?


「突然なに…」

「シアム、門を閉めろ。静かにな」

「も、門? あ、うん分かった……よい、しょっと」


 冗談じゃなく、本気で戦闘前っぽいフリギアを前に首を傾げながらも、見た目通り重い門をゆっくり閉めて、さらに指示されたから閂をかけておく。

 門が開かないことを確認して振り返ると、夜闇に覆われつつある庭が目に入る。


「結構留守にしてたのに、綺麗な庭だよね。もしかして使用人とかいたりする?」

「まあな……俺が留守の間、定期的に手入れしておくよう…指示を出していたのでな…」

「そうなんだ、って、そのさ、なんで剣の柄持ったままなのさ?」

「………」


 僕の問いかけに答えることなく、フリギアはゆっくりと前進しつつ、左右どころか上空まで全方位を警戒してるんですけど。

 何? 何か罠でも張ってあるの? それとも、僕ら誰かに狙われててどっかから襲撃されるの? もう囮は結構なんだけど。


 それに、僕に出来ることって、後ろからこっそり付いて、フリギアを応援するだけなんだけども。


「………」

「………」


 つまり、僕に出来ることはないってことだ、うん。

 ということで、僕は僕で左右の闇に沈んでいく景色に目を向ける。

 見通しが良い庭に、色んな木が並んでいる様は結構壮観だ。

 天気がいい日とか、あそこら辺の芝生で昼寝とかすると絶対に気持ちだろうなあ。


 なんて僕は暢気に想像してるけど、一方で、やっぱり先行くフリギアは何かを警戒してるみたいだし。

 だけど、何事もなく立派な扉に辿り着く。ううむ、入り口から改めて見ても、やっぱり立派なお屋敷だ。


 二度感心する僕、の前で警戒を解くことないフリギアは、今までにないほど険しい表情を浮かべて、扉を親の敵か何かのように睨み付けている。


「シアム」

「なに?」


 その声色も、表情も、雰囲気も、真剣そのもの。


「下がっていろ」

「どうして?」

「危険だからだ」

「ふうん、きけん…………えっ?」


 そんなフリギアが、訳分からない言葉を放ったような気がするんだけど。


「危険? フリギア、ここ、君の家だよね?」

「だからこそ、だ」

「だからこそ…? ううん、よく分からないけど、分かった、下がってるよ」

「ああ…」


 冗談言ってるように見えないし、ここは大人しくフリギアの言うことを聞いてよう。

 というわけで扉から身体を離して、フリギアが良しと言うまで距離を置いて見守ることにする……ていうか本当にフリギアの家なの、ここ? 信じられなくなってきたんだけど。


「………」

「うう……寒い」


 数十秒、フリギアは動かず前方を注視したまま。僕は寒くなってきて、腕をさすってる。

 と、突然完全に抜刀までしちゃったフリギアが扉を素早く開いて中へ飛び込んでいく。

 瞬間、扉の隙間からフリギアに向かって数条の煌きが襲い掛かる!


 ってええぇぇっ?


「うわっ? な、なにっ?」

「………っ」


 一体何なのさ!

 反射的に後ずさりする僕の前で、無言のまま、瞬時に青色の刀身でそれらを切り落とし、さらに屋敷の中へ身を滑らせるフリギア。


「フリギア! 今のなに……って」


 でもって、僕が事情を聞く前に扉が乱暴に閉まった。

 結構重量ありそうな扉だったんだけど、フリギア、足で蹴り閉めてたような。

 いいのかな、あんな乱暴な扱いして。


 しかも、完全に襲撃されたっていうか待ち伏せされてたっぽいんだけど……賊にでも入られてたの?

 それにしては、フリギアがやけに確信的な動き方をしてたんだよなあ。


「なんだろう、フリギアの家独自の風習、とか? 熱烈な歓迎、とか?」


 完全に僕の理解の範囲外だけど、取り敢えずフリギアは無事なようで、お屋敷の内部で凄い音がしてたり。

 相手も武器を持っていたのか、フリギアの剣と打ち合う音がよく響いて聞こえる。あ、相手の剣が折れたかな?


「うんうん、やっぱいい切れ味だ。さすが僕」


 フリギアもいい腕をしているし、あの子もフリギアを気に入ってるから、つい武器を折っちゃう威力になるんだろうね。

 数秒、人が走り抜ける音がしたと思えば、再度打ち合いが続く。音も大きくなったり小さくなったりと、結構激しい感じだ。


 とはいえ、僕はお屋敷の中に入るな、そこで待ってろ、って言われたから、やることないんだよねえ。

 分厚い扉を盾代わりにして、地面に座って星空を眺めて、音だけで中の様子を想像することしかない。

 むむっ、相手様、今度の剣は材質が違うっぽい。中々折れないなあ。あ、あの星の並びが、食べ物に見える。そういえばお腹減ったなあ。


「……っ?」

「………! …………!」

「……! ……」


 フリギアの怒鳴り声と、女性の感極まった声がたまに聞こえてくる。

 どうやら、フリギアに攻撃をしかけたのは女性らしい。あ、また何かが折れた音が。


「ふあぁぁ…」


 こうやって空を眺めてるのも、たまにはいいかも。なんていうか…心が洗われる?


 背後じゃ結構激しい戦闘をしてるわけだけど。


「……………ッ!」

「……!」


 そしてさらに数分。どうやらちょっとした戦闘、というか賊の撃退は終わったらしい。

 両者怒鳴り合ってはいるものの、剣撃の音が聞こえてこない。初めにフリギアの声が聞こえなくなって、次に女性の声が小さくなって、完全に沈黙する。


 結構時間かかったなあ、と思ってると足音が扉に近づいてくる。多分、フリギアだ。

 立ち上がって振り向くと、ちょうど扉が開いていく。そこから現れたのは予想通りフリギア。


「待たせたなシアム」

「ううん、別に。お疲れ様」


 服の汚れを落としながら見上げると、フリギアはなんだか疲れたような、呆れたようなそんな微妙な表情を浮かべてたり。

 賊を撃退したっていうんだから、もうちょっと誇らしげにしてもいいと思うんだけど?


「フリギア、やっぱりいい腕してるよ。二本折ったでしょ?」

「…聞いていたのか。外は冷えてくる、さっさと入って来い」

「うん。お邪魔しま…」


 言う通り、日が落ちて一気に冷え込んでくる。それじゃあ、と遠慮なく中に入らせてもらう。

 僕が中に入ったのを確認してフリギアが扉を閉め、入り込んでくる冷たい風を完全に遮断する。


「って、うわぁ……」


 お屋敷の顔、広間。自然に言葉が零れる。

 フリギアも僕が何に気をとられてるのか分かってるみたいで、苦笑しながらわざとらしく上品に頭を下げてみせる。


「ようこそシアム。これが俺の家だ。歓迎しよう」

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