第62話(謀)
「シアム君」
一瞬見えた、レガートさんの表情。
許可なく貴重そうな杖の宝玉を改造しちゃったことに対して怒られるのかと、覚悟したけど…
「いや、その…本当にすいません!」
「あの杖の宝玉を、解析したのかい?」
「………へっ?」
「正直に答えてくれないかい?」
恐る恐るレガートさんに目を向けると、怒ってる様子はない。むしろ、目がとっても輝いてて生き生きしてるような気がする。
けど、ここではっきり肯定することなんて、僕にはとても出来ない。
だって借り物の杖、それも出所が危ない杖を勝手に弄くって、挙句勝手に宝玉の解析までしたとか!
絶対、絶対に首が飛ぶじゃん! 技術盗んだとか言われて、物理的に僕の首が!
「あ、う…」
いくら正直に、と言われても困る。
口を開け閉め、言い淀む僕を前にレガートさんは即座に察したらしく、大丈夫だから、と少しだけ声を潜める。
更に、ちら、と横目で仏頂面のフリギアを見て口を開く。
「ここにはフリギアと私しかいない。揚げ足取りに一生懸命なお偉方や、他人の弱みを握ろうとする詰らない人間もいない。だからシアム君、本当のことを言っても平気だよ」
「……それ、なら…」
なら、いい、のかな? ここまで言ってくれるってことは、レガートさんがあの杖について個人的に知りたいってことでいい、よね?
まさか、僕が本当のことを言った途端、なんと恐れ多いことを! 斬首だ! とか、言わないよね……? 僕、まだ死にたくないんだけど。
「その…」
ええい、悩んでも仕方ない!
覚悟決め、気合を入れて……畏まる。
「時間が無くて、完全には解析できてないんですけど」
「構わないよ、続けて」
「あ、はい! あの杖ですが、魔法師なら誰が使っても不自由ないように工夫されていました。多分、製作者は魔法だけでなくて、魔法師自体の研究もしてたのかなあ、と思う次第で」
「工夫とは、どういうことかい?」
よ、よし、怒ってない! 逆に、嬉しそうに聞いてくれてる。これなら…
「宝玉はとにかく制御に特化していて、一から十まで宝玉が制御することによって全てを均一にしていたみたいです。レガートさんも知っての通り、魔法師には属性や魔法の種類によって得意不得意があります」
「うん、そうだね」
「そうです、それをですね、魔法の属性や種類に関係なく宝玉が調整することで、暴発や失敗する確率を減少させることが出来るんですよ! 凄い技術だと思いませんっ?」
「成程、そういう仕組みだったとは……ところで、その機構の解析はできたのかな?」
「ごめんなさい、それは時間が足りなくて…ただそういう仕組みだってところまでしか」
「残念だ。原理さえ分かれば、流用することが出来たのに」
「ご、ごめんなさい!」
「あ、いや、全く気にしていないよ。むしろ解析できた君を称賛したい。続けてくれないかな?」
「うん!」
凄く楽しくなってきた!
フリギアが頼りない返事しかしてくれないから、尚更ちゃんと話を聞いてくれる人がいて嬉しい。
…ミノアの杖を、ミノアの魔法をずっと見てき人が、欠片も理解してくれなかったのは信じられないけど。
「次に、杖自体の話になるんだけど。主要素材は白金だけど、強度を上げるために精霊石を混ぜ合わせてるんだよね。だから白金単体の杖に比べて光沢が少ないんだけど、強度は数倍になっててさ。精霊石の比率とかは分からなかったけど、一見して金属製にしか見えないぐらい丁寧な加工されてるし、やっぱり熟練の鍛冶が作ったんだろうなあって」
「精霊石との…それで強度を上げる…」
「お陰で軽いし強度あるし、おまけに魔法の補助効果が付いてくる! ほとんどの魔法師にとってあれ、理想的な杖だろうね!」
「なるほど。他には?」
「他、他には…そうだ! 杖だよ杖! あの杖、相当な年数が経ってるのに性能が衰えてないことに驚いたよ! 保管状況が良かったのかな? それとも杖自体に何かあるのかな? ううむ…宝玉、杖両方とも劣化がほとんどないんだよなあ。手入れされた様子もないし、ミノアも杖で僕を突くだけで、手入れしたところ見たことないし」
「製作者が製作者だから、何かしらの機構が働いてるとみていいと思うよ。それにしても、私が気になるのは、やはり宝玉についてだ。シアム君、他に分かっていること、推測があれば教えて欲しい」
相槌を打ち、目を輝かせて僕の話を聞いてくれるレガートさんは、本当にいい人だ!
僕、あの杖改造してたけど…もういいよね! レガートさん怒ってないし! 話したくてしかたないし、止まらないし!
「宝玉だけど、ちょっと前に精霊石を足して戻した…あ、ナンデモナイデス……宝玉自体は属性融合と制御に特化してて、威力の増強についてはあまり考慮されてなかったよ。だから、結果として能力が平均的になったみたいだね」
「つまり、あの杖本来の持ち主は、威力補助が必要ないぐらいの魔法師だったということかな?」
「あ、その可能性もあるね! 僕は、元々儀礼用で使うものだと思ってたから、威力よりも精度に特化させたのかなって考えてたけど」
「儀礼用! 確かに、国の祭事では儀礼用の魔法を使用するものも幾つかある…」
「なるほどなるほど。あの杖が作られた当時は、儀式の失敗で処刑されることもあっただろうし、って考えたんだけど」
「文献では…そのような記述も幾つかあったね。儀式、特に神事の失敗は神への冒涜として、その命を捧げる、と」
「ふむふむ。ただ、レガートさんが言うように保有魔力、魔力効率が高い魔法師が杖の製作を頼んだ可能性もあるよね。むしろ、その可能性の方が高いんじゃないのかな?」
「いや、恐らくシアム君の説が正しいと思うよ。あの杖だけども、実は城の宝物庫に長らく置かれていたものなんだ。数年前、発見されるまでは他の道具と共に埃を被っていたらしい」
「勿体無い! って、城の…宝物庫?」
「そう。だからこそ実戦、というより儀礼用に製作された可能性が高い。一緒に保管されていた武具も儀式に関連したものが殆ど、と聞いた記憶があるから、尚更」
「国宝級の杖! うわあ、やっぱりそうだったんだ! それなら、もうちょっと見ておけば良かったあ!」
国の宝物庫、なんていかにもな場所に置かれてた杖が、ただの杖なわけないよね!
もう一生目に、というか手に出来るものじゃないだろうし、ミノアからもう少し借りておけば…借りておけばよかったあ!
「ううう…難しいしやったことないけど……作ることは出来るけど、やっぱりあの宝玉、欲しい。駄目だって分かってるけど、分かってるけど…諦めきれない…うう」
「再現……だって?」
宝玉自体も滅多に見ないほど上質なものだったけど、組み込まれていた精霊石も、長い年月を経て相当力を蓄積してたし。
長い年月をかけて、互いにいい影響を与えながら成長してきた精霊石と宝玉の詰め合わせ。ああ、やっぱり欲しい!
「元になった宝玉も手作りだし、僕ができないことはない! はず」
「あれが、作られた宝玉…」
「知識はあるから宝玉の作り方は分かるけど…第一僕は宝玉なんて一度も作ったことないし、あくまでも鍛冶だし…」
困ってふと見れば、フリギアは部屋の窓から外の景色を眺めていた。
ずっと黙ってたからどうしたのかと思ったけど、どうやら僕らの話より天気が気になる様子。
というのは置いといて。
「でもあの宝玉、謎の技術で均衡が取れてはいるけど、やっぱりミノアには足りないんだよなあ。といっても、あれに匹敵する宝玉なんてあるのかなあ」
「匹敵する宝玉……シアム君」
「いくらここがナントカ国でも、あの等級の宝玉がごろごろ転がってるわけないし。でも、作るからには破壊力抜群の杖をあげたい…」
「シアム君!」
「あ、はいっ! なんでございますか!」
そ、そうだった! レガートさん忘れてた!
振り向けば、レガートさんは急に僕の手を取って、痛いぐらいきつく握り締めてくる。
加えてミノアと同じ色の目が、僕を射抜いてきて……怖いんですけど。なんか命の危機を感じる怖さなんですけども。
「レ、レガート、さん…?」
「シアム君、制御の宝玉が必要なのだね?」
「う、うん。ミノアが使うことを考えたら、かなりの一品が」
かなり、どころかどんな魔法師でも涎出しそうなぐらいの宝玉が欲しいデス。
でも、そんな良質の宝玉なんて道端に落ちてるものじゃない。
どうしたものか、と悩む僕に、レガートさんが質問してくる。
「宝玉だけども、多少の傷があったとしても、平気かな?」
「うん! 少しぐらいなら僕が修復するから大丈夫! ああ、どっかに落ちてないかなあ…」
「それならば…」
「え? それ、ならば…?」
それならば、だって? もしかして…もしかするっ?
突然の言葉に、心臓が高鳴る。レガートさんに期待の眼差しを向けることが止められない。
そして、興奮で手が震えてるのは、僕なのか、レガートさんなのか。
「シアム君」
「レガートさん」
お互いにがっちり目を合わせて、確信した。
「もんの凄い一品…持ってますね?」
「………」
返ってきたのは、言葉じゃなくて、力強い頷きが一つ。
期待、していいんだよね? どっかのフリギアじゃないし、期待、していいんだよね?
という僕の視線を受けて、もう一度、レガートさんははっきり、間違いなく首を縦に…振った。
「それも…」
「それも?」
「私たちでも匙を投げた、曰くつきの一品が」
「なんですとぉっ? 何年ものですかっ?」
「少なくとも百年以上は。あの宝玉よりは新しいけれども、かなりの年月が経っているものが、一つ」
「ひゃ、ひゃく……」
な、なんと……! 百年もの、だって?
宝玉単体で、百年ものが残ってるだなんて……それがレガートさんの手元に?
奇跡だ、奇跡に違いない!
あまりの衝撃で言葉もでない僕に、レガートさんは止めとばかり、嬉しい追い撃ちをかけてくる。
「かなり前に、鉱石に紛れて採掘されたものでね。研究用で預かっていたのだけども…あまりにも複雑で、未だに半分も解析できずにいてね」
「おおおぉぉぉっ! それ! それだぁぁぁっ! レガートさん! 是非! 是非僕に下さい!」
「勿論」
力強い即答に、思わず握りしめていた手に力が篭る。
ついでに、感動しすぎて涙が零れてきた。自然に頭が下がる。
「あ、ありがとうございます! ほ、本当に、本当に…っ!」
「構わないよ。先日解析の中止命令も下りたから、私たちにとっては無用の長物。あの宝玉を解析できた君なら、使いこなせるだろう?」
「使いこなします! やったぁ! レガートさん、絶対いい杖作るよ! 作ってみせるよ!」
信じられない幸運に感激しすぎて、逆に力が入らなくなってくる。こんな幸せなことがあっていいんだろうか?
握手を解いて目元を拭ってると、頼もし過ぎる声が耳に入ってくる。
「シアム君、他に杖の製作で必要なものはあるかな?」
「えっと…各種強力な精霊石が置いてある店があれば、教えて欲しいかなあ、だなんて」
「精霊石だね。それなら私の馴染みの店を紹介しようか」
「ううう……有難うございます!」
喜ぶ僕に、レガートさんは笑みを見せるが、すぐさま陰る。
「いいや。ただ鉱石の方は私も専門外で、いかんとも」
「そこまでしてくれなくても! そんなのフリギアが何とかするから大丈夫!」
「おい、何故俺が」
「フリギア偉い人だよね? なら、それぐらい探して」
「シアム…?」
「嫌とか言うわけないよね?」
「あ、ああ…」
「頼むよ? フリギア」
「………」
窓から目を離したと思ったら、また外に目を向けるフリギア。そんなに天気が気になるの?
まあいいや。
杖の原料はフリギアに任せて! 宝玉も調達したし、精霊石も確保の目処が立ったし!
「ふふふ…」
「ふふ…」
レガートさんと目が合って、同種の笑みを浮かべる。こんな所に、同好の士がいた偶然に、もう言葉もない。
「…お前、いや、お前ら、か」
窓に向かって独り言を呟くフリギアは放置。鉱石店を探してくれれば、何やってくれても構わないし。
「早いほうがいいだろうし、今から紹介状を書いてくるよ」
「はい! お願いします!」
「うん」
レガートさんは一度頷いてから、小走りで部屋から出て行く。その後姿が神々しくて、直視できない。
「…やった、やったよフリギア! これで破壊力抜群の杖が作れる! ミノアが本気出さなくても、荒地が出来る杖にしようね!」
「………そうだな」
「あ、そういえばミノアってどんな杖が好きなんだろ? 杖自体を武器にすることはないようだし、装飾過多でも大丈夫だけど…むむむ」
単に杖と言っても、幅広い。
ただの木の棒だって杖だし、先端を尖らせた、杖自体が武器になるものもあれば、宝玉を随所に埋め込んだ切り替え式の杖まで、色んな杖がある。
加えて杖や宝玉に装飾を施すことを考えると、とてつもない種類の『杖』があるわけで。
「聞いとけば良かったなあ。どうしよう、あの杖と似た形状でいいのかなあ…っていうかあれ国宝だったんだね。僕、改造しちゃったけど…」
「……そうだな」
「ねえ、フリギアはどういう杖がいいと思う?」
「そうだな…」
振り返ると、ようやく窓から目を外したフリギアが僕を見下ろしてくる。
なんとなく草臥れてる…やさぐれてるように見えるけど、どうしたんだろ? 天気が悪くなってきたのかな?
そんなフリギアは、ため息を吐いてから僕の質問に答えてくれる。
「俺は杖に詳しくないからな、なんとも言えん。が、ミノアは機能性を重視する傾向がある」
「機能性。なるほどなるほど。豪奢な杖は好きじゃないってことだね」
「まあ、そうだな」
「ふむ、ふむむ」
ということは、下手に装飾が無い方が喜んでくれるのかな?
…ミノアの喜ぶ姿って想像もつかないけど。
ほとんど鉄壁の無表情だから、なんとなく嬉しいんだろうなあ、っていうぐらいしか僕には分からない。
それでも、やっぱり威力だけじゃなくて杖自体にも愛着持って欲しい。からには、ミノアの好みを抑えておくに越したことは無いよね。
「ううむ……むむ……よし決めた! とりあえずあの杖と同じで、短くしておけばいいね!」
「ミノアのことだ、破壊力さえ伴えば外観に文句は言わんだろう」
「そんなことない、と思うけど」
これで全ての方向性が決まった。万々歳。
「シアム君、待たせたね」
「いえいえ!」
しかも丁度良いタイミングで、笑顔のレガートさんがやってくる。
その手には赤い蝋印が押された白い封筒。それが僕の前に差し出される。
「これが紹介状だ。場所はフリギアに教えておくよ」
「うん! これが紹介状……レガートさん、有難うございます!」
「……それから……」
レガートさんは笑みを引っ込めると、突然小声になる。
どうしたんだろう? と顔を近づければ、若干真剣な目とぶつかる。
…本当に、どうしたんだろ?
「それから?」
「訳あってミノアは家族の中でも、この城内でも疎外されていてね。特に家族の中で彼女の味方は私と妹の、次女のレティシアだけなんだ。だから、私たちフォルツァンドの名を名乗った人間を、素直に信用しないで欲しい」
「ミノアが家族から…? 城内っていうのはなんとなく分かるけど」
偉そうなローブ姿の人に、知らない人、とか平気で言っちゃうぐらいだから、敵は多そうだけど。
「そうなんだ」
ただの一言だけど、とても重い一言。
「多分関わることはないと思うけど……分かった。レガートさんとレティシアさん? だけがミノアに意地悪しないってことだね?」
「その通り。色々と迷惑をかけるよ」
「とんでもない!」
お貴族様なら、家族同士の確執とか良くあることだろうし!
結構前に一人旅してたとき出会って、色々お世話になったお爺さんも、そういうこと言ってたからなあ。
確か、息子が二人いて、病弱の兄を当主の座に据えるために、しっかり者の弟を殺そうとする輩がいるとかなんとか…
それで、弟が兄を遠ざけようと色々画策してて……ってこれはちょっと違う?
まあ、いっか。
「お貴族様って、本当に大変だ」
「そうだね」
「あ、ごめんなさい」
僕の言葉に、レガートさんは困ったように笑う。
「気にしてないよ。ただねシアム君、貴族といっても全員が全員いがみ合っている訳ではないよ。仲良くやってる家もあるにはある」
「へえ…」
「そうだね? フリギア」
「へっ? そうなの? フリギアの家は仲がいいの?」
聞けば、軽く首肯される。
「他所に比べればな。誰かのように、考えなしに他人を巻き込んで問題を起こす奴がおらんからな」
「…嫌味?」
「気のせいだ」
ばっさりと切り捨てたフリギアは、僕を見て眉を顰める。
「しかしシアム、お前のせいで無駄な時間を食った。レガート、悪いな」
「いいや、色々話せて楽しかったよ。フリギア、頼んだよ」
「ああ」
と、フリギアとレガートさんが顔を合わせて、お互い頷いてたり。
若干真剣味を帯びた二人の顔は、すぐさま仏頂面と穏やかな表情に戻るけど…なんだろ?
首を傾げてると、ほほ笑んだレガートさんが僕に小さく頭を下げたから、頼もしく見えるように頷き返してみたり。
「シアム君、杖の件、頼んだよ」
「うん! レガートさん任せてね! 破壊力だけなら誰にも負けない杖を作るから!」
「調子良いことを…」
「絶対手を抜かないから! 紹介状とか、宝玉とか、本当に有難う!」
「力になれて良かったよ。二人とも、気をつけてね」
「ああ」
「じゃあね、レガートさん!」
そうして、レガートさんに別れを告げた僕らであったとさ。
ここまで目を通していただき、お疲れ様でした。超長文です。
久しぶり、二度目の三百行超えです。気づいたらこうなっていました。申し訳ない。
見辛い、目に痛い、内容が頭に入らない、長ったらしい等ありましたら一報お願いします。適当な箇所で区切りますので。
…区切るだけで、要約はしませんのでご了承をば。
そして毎度のことですが、一読、有難うございます。
引き続き不定期、もとい、気まぐれ更新ですが宜しくお願いします。
以上、やる気を出してみた本文と、燃え尽きた後書きでした。




