※夢中の人。
傷だらけの、よく日に焼けた褐色の肌。
実年齢を聞けば驚くほどキメの細かい肌は、見た目に反して、しっとりと手のひらに吸いついてくる。
うっすらと汗ばんでくれば、尚更で。
触り心地のいい肌を、飽きることなく丹念に撫で回す。
固すぎず、それでいて、しっかりと筋肉のついた身体。
しなやかで。
張りがあって。
柔らかい。
獣のソレ。
鍛えぬかれていながらも、不要な部分には重たくなるような筋肉は、いっさいついていない。
どちらかといえば、細身の。
この手の職業をしている人間にしては、小柄な肢体。
押さえつけて。
無理矢理穿てば、低い悲鳴が薄い唇からこぼれ落ちる。
「…………ッ……」
たぶん、この人にとっては……。
オレを受け入れるだけでも苦痛なのだろう。
それでいて。
悩ましげに寄せられた眉も。
きつく閉じられた目元も。
隠しきれない官能に染まっている。
「こ……とり、ちゃ……なァ……もっと……」
「ああ……足りませんか?」
「ちが……んんッ」
『ゆっくり』と言いたかったのであろう兎場さんの細い腰をつかみ、強引に奥の奥まで押し入る。
途端に跳ねるしなやかな身体を押さえ、更に奥へと身を沈めれば。
グッ、と内臓を押し上げる感覚があって――……。
兎場さんが、ヒュッと短く息を飲む。
肩をつかんだ手に力がこもり、オレを含んだ下肢が、いい具合に締まる。
ゾクゾク……っと、得も言われぬ快感が、一気に背筋を走りぬける。
脳天を突き抜けるような、その感覚が、もっと欲しくて。
小さく呻くだけでなんの抵抗も示さない兎場さんの中に身を埋めたまま、激しく揺さぶる。
「………ぅ……あッ……ァ……ン……っく……」
殺しきれなかったのだろう、小さな苦鳴。
きっといま、兎場さんにとっては、苦痛の方が大きいはずだ。
張りつめて、小刻みに震える四肢。
身に余るモノを根元まで押し込まれ、乱暴に揺すりたくられて、苦痛を感じないはずがない。
ふと、逃げを打つことすらしない、この人の。
本気の悲鳴が聞きたくなって――……。
芯の入りきっていない雄に指を絡め、性急にしごきたてる。
ビクン、と身をすくませて、なにか言おうとするのを許してやらず……。
薄い唇を塞ぎ、舌を差し入れ、思うさまに貪る。
もちろん、兎場さんの奥を穿つ勢いは、そのままに。
押し戻すくらいは、されるだろうと思った……のに。
後頭部に回された両手が、きつく……きつく。
オレの頭を抱きしめる。
ギョッとして身を引こうとすれば、腰に絡んだ足に引き戻されて。
口づけが、ねっとりとした深いものに変わる。
「……ン……ゥ……ッ…………ッは……と、り……ちゃ……」
鼻にかかった、甘ったるい声、と。
小さい苦鳴。
どう……しよう。
こんな。
自分のことより、オレを優先するような、こんなこと……されたら。
勘違い、しそうになる。
兎場さんも、オレを……なんてことが、あるはずもないのに。
状況につけ込んで、怪我人に酷いことをしているような、オレを。
優先してくれる、なんて。
こんなの、ヤバい。
いまよりもっと…………好きになる。
薄暗い間接照明では、少し離れれば、お互いの顔が半ば闇に溶けてしまう。
声を殺して、ベッドに顔を埋めようとしている兎場さんの顔は、特に。
舌を差し出せば、噛んで、吸いついて、深い深い口づけをくれる、し。
身勝手な穿ちようをしても、しがみついて、受け入れてくれる。
でも、それだけだ。
オレがどれだけ溺れても、兎場さんからは欲しがってくれない。
勘違いしてしまいたいのに。
ギリギリのところで、この人は。
するりとかわして逃げてしまう。
だったら、せめて。
欲しいだけ貪って、溺れてしまうが勝ちだ。
薄く開いた、含み笑う獣の瞳と目があって――……。
後はもう、夢中になって……包帯だらけの身体を貪りつくした。
結果、後でとんでもなく後悔する羽目になったのだけれど。
夜毎訪れる、夢中の人は…………。
今夜もまた、淫らがましい後悔の記憶へと、オレの意識を引きずり込んでゆく。
それでも、オレは――――……。
※ だから小鳥ちゃんは、兎場さんがスキンシップ過多な方ではないと、いい加減気がつけよというお話※