表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tea break  作者: ふゆき
5/30

※ 泡沫の情人。

男の無骨な手のひらが、ゆっくりと存在を確かめるように、肌の上を滑ってゆく。


肩に食いつく、熱い唇。


チュッと吸いあげて刻まれるのは、交わした情の痕跡だ。


うっかり鏡を見て一晩の慰めを欲した自分を思い知るのが嫌で、いつもなら止めさせる行為、なんだが。


手練手管を凝らした情婦のおねだりよりも……。


切羽詰まったコイツの吐息が、止めさせるのを躊躇わせるのはどうしてなんだかなぁ。



しかも、それを嫌だと感じていない自分にこっそり苦笑したら…………気づかれた。



「兎場、さん……?」



微かに息のあがった、うわずった声が。


追いつめられた抑揚で、オレの名を呼ぶ。



「うん?」



「兎場さん……。好きです」



甘い甘い……囁き。


なんだってこんなオッサンが欲しいんだかなぁ、コイツは。




――――……どうせすぐ、いなくなっちまうくせしてよ。




泡沫の、いまだけの関係に意味を持たせてみたって、先なんざまるでない。



コイツを可愛いと思うのならば、オレにつき合わせて死なせちまう前に手放してやるのが一番だ。



今回生き延びたのは、たまたま運がよかったからで。


次は、ふたり揃ってあの世行きなんてことにもなりかねないと、今回のことで身にしみた。



なまじ実力が抜きん出ているせいで、コイツはオレについて来ようとする。



それではダメだと、オレではきっと、教えてやれない。



オレとコイツじゃ、戦い方がまるで違う。



成り立つ基礎が違うんだ。



だからそれで当然なのだと、オレの側にいる限り、コイツにゃ理解できないままになる。



コイツが叩き込まれたのは、強化服ありきの戦い方で。



オレが仕込まれたのは、強化服なんてなかった頃の戦い方だ。




あんな動く棺桶。

とてもじゃないが、オレにゃ怖くて入れねえ。




空気の動きも匂いもなにもかも。


あんな機械人形に押し込められてりゃ、感じることができゃしねえ。




ピリピリと肌を刺す戦場の気配を全身で捉え、視界の外にあるもの全部を五感で拾って…………。




それでようやく、敵と向き合える、なんて感覚。


いまの若い連中にわかれったって無理な話だ。




死にたがりなんだとオレが思われているのはたぶん、その辺のギャップからだろう。




実際は、死の淵を覗いてきただけで、こんなにも怖い。




若い雄の、生命力溢れる息吹きを体で感じてホッとしたい、なんて。



生きてる感覚を実感したいがためだけに、コイツを利用しようだなんて。




オレもたいがい、浅ましい。




「…………んん……ッ」




体の奥をまさぐる指の、その感覚にビクリと身を竦める。


みっともねぇとこ見せたかねんだが、これは、ちょっと…………。



「痛い……、ですか?」



「……いゃ。痛くは……ッ……」



「ああ……ココ……?」



「う、わ……ッ。待て、待て待て……ッ。待て……って……」



ちくしょう。


可愛い顔して、なんでこんなに手慣れてやがんだよ。



イイ場所を絶妙な力加減で擦られて、押し殺し損ねた声が、ひっきりなしにこぼれでる。



この野郎……。


さっきまで遠慮してやがったくせしてッ!



中の感覚に翻弄されまいと歯を食いしばれば、全身をくまなく愛撫されて…………。




――――……結局は、オチた。




ああ、もういい。


どうせ最初で最後だ。



咬みつくようなキスを仕掛け、小鳥遊の余裕を、根こそぎ奪う。



オレばっかり振り回されるのは、性に合わない。



どうせなら、オマエも理性なんざ捨てちまえ。




口の中を犯すように舐めまわして。


絡んでくる舌を、思う存分貪る。



息継ぎももどかしいほど、深く、深く唇を合わせて…………。



「……ふ……ッ………ァ……」



性急に押し入ってくる灼熱を、含み笑いで受け入れる。


余裕なんぞまるでない小鳥遊の表情が。



傷の痛みすら忘れさせてオレを煽る。



痛いのも苦しいのも、生きてる証拠だ。


ぐるぐると体の奥で渦巻く、この熱も。



「……兎場さ……兎場さん……ッ」



自分のペースに持ち込もうとする小鳥遊を許してやらず、かといって、オレが主導権をとるでなし。



さんざん翻弄して。

溺れて。



途中からはもう、獣の交わりと大差ないほど、ただただ貪りあって…………。





死にかけるほどの怪我をしたその日の晩に、加減を忘れてサカったツケで。



次の日入院する羽目になっちまったのは、まあ、 ご愛嬌だ。






あの後ほっぽり出して来ちまったが…………。


ガキの興味なんざ、移ろいやすいもんだ。



妙に執着してやがったが、アイツもこれで……気が済んだだろう。





それをちぃとばっか寂しく感じてるたぁ、オレも年を取ったもんだよなぁ。












※ウサギさんはぼちぼち、正座して自分の気持ちと向き合いましょう、なお話※
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ