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tea break  作者: ふゆき
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ホワイトデーのお返しは

休日の兎場さんは、基本的にダメな大人である。


常日頃、最前線の命がけな現場にいるせいか、オフの日は、ひたすらボーッとしていたい、らしい。


くたっくたにならなきゃ寝られない、なんて言ってるくせして。



うなされて夜中に飛び起きるような、なにかを。



――――……休みの日は、ずっと反芻して過ごしている。



それもたぶん、無意識に。



眠れないのならオレが疲れさせてあげましょうか、なんて。


なにかの折りに軽口で言ってみたら、一瞬、真剣に考えるような間があって。



あわてて冗談にしたものの。


あれから、兎場さんの寝顔を見る時はほんの少し、緊張感を覚えるようになった。



泣きはらした顔だったりしたら、自分を抑える自信がない。



兎場さんがオレを相手にしてくれないのは、夢の中の、誰かのせいだ。



この人を泣かすだけの存在なんて、できればオレの手で抹消してしまいたいのだけれど。



それにはまず、この人の視野に入らなければ始まらない。



「と〜ばさん。朝ごはんできましたよ。いい加減起きてください」



しかも、その第一歩が餌付けだなんて。


我ながら、情けないにも程がある。



「あ〜? おま、まだ7時前じゃねぇかよ。休みなんだから、ゆっくり寝かせろって」



ぐずりぐずりと布団の中へ潜って行こうとするのをつかまえて。



「今日1日オレにくださるんでしょう?」



耳元で甘く囁く。


遠く離れた場所で引き金に指がかけられた気配がわかるくせして。


こんな近くで下心たっぷりに寝顔を覗き込む気配に無頓着でいられる神経が、いまいちよくわからない。


唇は遠慮して瞼へ、触れるだけの口づけを落とす。



「んー…」



むずがるように身動ぎしながら、しぶとく布団へ潜ろうとする兎場さんの、寝乱れた髪を指で絡める。


切らないなら括ればいいのにこの人は。


中途半端なまま放置された髪が無駄な色気をもたらしている、と。


少しは理解してくれないものだろうか。



「ザル豆腐の特製味噌かけ。鯛の湯葉巻き。カブのとろとろ煮くずあんかけと丸茄子の一夜漬け。ごはんは炊きたてあつあつです」



ベッドに腰掛け、囁くようにして今朝のメニューを告げてやる。


覚醒するのを拒否しているだけで、意識の半分はもう起きているのは知っている。



自堕落に惰眠を貪りたかっただけなのだろう。



モゾリと動いた兎場さんが、渋々といった様子で起きあがる。




「………………食う」




半分寝ているような、しゃっきりしない掠れた声音が。


ゾクゾクくるほどエロいなんて、さすがにちょっと、反則だろう…………ッ!



寝巻きかわりのシャツが、これでもかというほどはだけているのがまた…………。


誘っているのかと勘ぐりたくなってくるほどイヤらしい。



「もう。だらしのないかっこうしてないで、ちゃんと服着てくださいよ」



「小鳥ちゃん、細かい」



目の毒でしかないので衣服を直してやろうと伸ばした手を払われて。


こてん、とベッドの上へひっくり返される。


あれ?

この人いまどうやった?


手を払われたと思ったらもう、仰向けにされてたんだけど……。


うわ、むかつく。


寝惚けてる状態でも、オレなんか簡単にあしらえるってことか。



まだ寝足りなさそうに目をこすっている兎場さんの、むき出しの脇腹を手でまさぐる。


半裸で人の上に馬乗りになってるんだから、いいよな、このくらい。



自分がどんな体勢なのか、少しは自覚してもらわなければ理性が持たない。



「襲って欲しいのでしたら、いますぐにでもお相手しますよ?」



人をひっくり返して腹の上に座っておきながら、まだ睡眠に未練があるのか。


うつらうつらしたままだった兎場さんが、嫌そうに顔をしかめる。


脇腹の筋肉の流れを堪能してもまだ無反応でいる兎場さんの腰をつかんで、いつでもお相手できますよ、と若者の証拠を押しつけてやったせいだ。


そのまま下着の中へと手を滑らせてやれば、ようよう覚醒する気になったらしい。



「だーから。オッサンにセクハラすんなっつの。変なトコ触んな阿呆。今日どうすんだよ?」



ペン、と頭を叩かれて、腹に乗っていた重みが消える。



………………ちッ。



どうせなら、もうしばらく寝惚けていればいいものを。



こっちは性的な意味合いを込めて触ってたっていうのに、ぜんぜんわかってないんだもんな、この人。



「…………むぅ。またそうやって…………」



「あ?」



ガリガリと首をかきながら欠伸を噛み殺す、その色気のなさに。


ムッとするのはお門違いだとわかっていても、腹が立つ。


オレなんか、まったくもって眼中にないってことですか、そうですか。



ちょっとくらい、気にしてくれたっていいだろう。



なんでそう、無防備なままなんだよ!



いつもいつも人を子供扱いして…………。



そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。



「遊園地がいいです」



きぱっと言い切ってやれば、兎場さんがぎょっとしたように固まる。



ふん、だ。


人混み嫌いですもんね、兎場さん。



「………………オレ……と、おまえで……?」



恐る恐るといった態でオレを見下ろす兎場さんの表情に、こっそりと溜飲を下げる。



――――……ふぅん。



困るくらいはしてくれるんだ。



「買いものにつき合ってもらおうかと思ってましたが、気がかわりました」



「なんで機嫌悪くなってんだ、おまえ……」



本気でわかってないらしい、困りきった顔が。


年甲斐もなく可愛く見えて、小さく笑う。


興味がなければなんにでも無関心なこの人が、わがままを言われて困る程度には気にしてくれているとわかって。



「あなたの寝起きが悪いからですよ。朝食が冷めます」



不機嫌さを、冗談めかした台詞に変える。


この人相手に拗ねてみせたって、どうせ通じやしないのだ。


ならば今日は、不機嫌さが伝わっただけ上出来だ。


と、気を抜いたのがまずかった。



「…………ちぇッ。いーじゃねぇかよ。小鳥ちゃんの前でくらい、気ィ抜かせろっつの」



立ち上がろうとした背中にのし掛かられ、腹に腕を回されて。


後ろから抱っこされた状態で、兎場さんの顎がオレの肩にのっかる。



うっわ、最悪だこの人。


なんてあしらいを方してくれるんだ、もうッ!



「だから、あなたはそうやって……。ああもういいです。顔を洗って、ちゃんと服を着てから来てくださいよ。冷めないうちに!」



「へいへい。かぁいい顔して、なんでそう口煩いかねぇ」



人の肩に顎をのせたまま喋るな!


声がッ。

耳がッ。


こそばゆいだけじゃ済まなくなるッッ。


てゆーか、可愛いのはあなたの方だと、そろそろマジでわかってくれ!



離れ際、抗議のつもりなのかひょいと耳を引っ張られて。



「……………………ッ!!!」



どうしようもない激情に襲われる。



ああ、もう質の悪いッ。



いまにみてろ!




絶対絶対、チャンスみつけて犯してやるからなッッ!

















※小鳥ちゃんはそろそろ、ウサギさんがスキンシップ過多なタイプではないと気がつきましょう、なお話※


















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