我の夏祭り
我はただのしがない猫である。
だらだらと流れる汗の洪水で己が窒息死してしまうのではないか。
この暑さではそんなことも考えるのも無理はない。
このくそ暑いのに毛皮を脱ぐことは出来ぬ。全く不便なものである。
しかし、今日はなんと人通りが多いのだろう。
こんなにも人通りが多いから暑く感じるのだろうか。
光がチカチカと輝き、抑揚をつけた『どんどん』という音が響き渡り、
老若男女問わず騒いだり物を食ったりしている。
可愛いね、と言いながら我を油断させ、よくわからぬ機械を使い目眩ましをする奴等には辟易する。
まあ奴等は飯を勝手にくれるからその点はよいのだが。
「どこぉ……お母さん」
泣きぐずりながらさ迷うピンクの着物を着た小さな女子がいた。
困った子供がいれば助けるのはもはや我の習慣となっている。
なあに、ちょっとした暇潰しだ。ちょいと前足で女子の足の裾をつつく。
「ねこさん、どうしよう……迷子になっちゃったよう……」
我はついてこいとばかりに裾を軽く引っ張りながら歩く。
「連れていってくれるの?」
無垢純粋な女子の瞳はどんな勾玉にも真珠にも劣らぬ。
我はただひたすら歩く。母の居場所はわかる。
この女子と同じ匂いのする場所をたどってゆけばよいのだから。
「ああ、みちこ!」
「おかあさんっ!」
ほら、笑顔が見られる。
これだから……
最高の暇潰しなのだ。
END