第九十四話 秘湯混浴ツアー その2
今回の旅の途中、有名どころの神社や寺があれば立ち寄るようにしていた。
阿東藩にもそれなりの大きさの寺社があるものの、観光名所となり得るほどの規模ではなかった。
その意味では、少女たちが一時期世話になっていた『明炎大社』は別格の大きさだったのだが、今回の旅行の中でも、それに匹敵する規模の神社仏閣は存在していた。
凜さんを除く四人はそれぞれ『明炎大社』で働いていた時期があったし、凜さんにしても皆から話を聞いて『巫女』という職業に興味を持っていた。
寺社によって差はあるものの、白い小袖に赤や紫の袴という定番の服装で働く少女たち、清楚でかつ可愛らしく見える。
『明炎大社』で優やナツ達の姿を見たときも、元々美少女が揃っていたこと、また、巫女や巫女見習いと崇められた時期でもあったので、相当映えていたことを思い出した。
彼女たちも、それぞれの神社で一生懸命頑張っている巫女さん達を、ちょっと懐かしそうに見ているのが印象的だった。
また、それぞれ寺社で絵馬を奉納するのだが……俺が『みんな健康で幸せに暮らせますように』という内容を書いたのに対し、彼女たちは『子宝に恵まれますように』とか、『ご主人様がもっと私に興味を持ってくれますように』とか書いて、わざと俺に見せるように飾り付けていた……おそらく凜さんの指示による心理作戦だろう。
また、それだけ大きな規模の寺社ともなると、門前町が栄えていることが多い。
『明炎大社』では彼女たちは敷地の外に出ることができなかったので知らなかったようだが、テーマパークなど存在しないこの時代、有名寺社とその門前町はセットで一大観光名所となっているのだ。
街中のあちこちに鳥居のある風景、行き交う人々の賑やかさ、特色のある名物料理と、少女たちは旅の醍醐味を満喫しているようだった。
俺としては、例の『宝探し』の最中に彼女たちに怖い思いをさせてしまった償いと、阿東藩から出て、広い世界を見てもらいたかったという二つの願望を、ある程度果たせたようで嬉しかった。
そしてこの日の夜は、もう一つの(彼女たちにとっての?)楽しみ、温泉入浴だ。
今日の宿では前回と異なり、それなりに施設が整った露天風呂だ。
ちゃんと囲いがあり、現代の旅館にも劣らない大きな浴場。
浅い結桶に徳利の瓶とおちょこを乗せて湯に浮かべ、秋の三日月を見ながら美女とお酒を飲む……そんな幻想的な温泉が、本当に存在したのだ。
この温泉、男性は必ず女性一人以上と同伴することとなっていた。
この取り決めをなくすと、男ばっかりになって風情が失われる、とかで……それは一理あるかもしれない。
そしてこの日、仲むつまじく俺と入浴してお酒を次いでくれているのは、この日の嫁、凜さんだ。
俺は未成年なのでお酒はあんまり飲めないのだが、まあ外国に行けば国によっては飲酒しても問題ない歳だし、この時代ならばなおさらだ。
とはいえ、慣れていないこともあり、ほんの一口だけ唇をつける、という程度で、その風情を楽しむことにしていた。
俺も凜さんも全裸なのだが、もう耐性ができたというか、ちょっと見てしまったぐらいではいちいち反応しなくなっていた。
それでも、常に体を密着させてくる凜さんには若干ドキドキしてしまうのだが……。
周りには四,五組の男女(おそらく皆、夫婦)が存在しているが、全員自分達の世界に浸っているようだった。
そんなとき、出入り口の方から、男の『ガハハハッ!』という下品な笑い声と、何人かの女性の騒々しい声が聞こえてきた。
そして入ってきたのは、四十歳ぐらいの太った、それでいていかつい顔つきのおっさんと、二十五~三十歳ぐらいの女性三人。
当然、全員裸で、女性はお酒やら桶やらお盆やら、荷物を持っていた。
彼女たち、温泉に入るというのに化粧が濃い。
そしてかけ湯もせずに、バシャバシャと入浴してきた。
「ふむ……今夜は三日月か。湯加減もなかなか。風情があっていいもんだ。のう、お前達。ガハハッ!」
……いや、あんたが来たから風情が台無しだ。
「ふむ……ふふっ、おなごを三人もつれておるのは、ワシだけのようだのう」
「あら、長者様、それは仕方の無いことですわ」
「その通りですよ、長者様。贅沢がすぎますわ。こんな美女三人をはべらせるなんて」
「ガハハッ、自分のことを美女とぬかすか。その図々しさが気に入った!」
「さすが長者様、寛大でありますこと。ささっ、お一つどうぞ」
「お、そうだのう……うむ、美女に囲まれて、三日月を見ながらうまい酒を飲む、か。ガハハッ、貧乏人にはこれほどの悦楽は味わえんだろうなあ。まあ、分相応に連れ添った女房と二人で過ごすのも悪くは無かろう。ワシは女一人では満足でできんがのう。ガハハハッ!」
……最悪だ。
俺や凜さんだけじゃなく、周りの客達も眉をひそめている。
「……長者様、どこを触られているの? だめですわ、皆さん見ていますわ」
「ガハハッ、貧乏人に金持ちの遊びを見せてやればいいではないかっ!」
「まあ、長者様ったら……でも長者様、三人も女性をはべらせるなんて……素敵ですわ」
「ガハハハッ、そうか? ワシにとってはこれがあたり前だがな。ガハハハッ!」
自分の事を何度も『長者様』なんて呼ばせるなんて、たぶん成金なんだろうな……。
なんか、とっても不愉快な気分になっていたその時。
「……ご主人様っ、私たちももう入りたいですぅ。凜さん、そろそろいいですよね? くじが当たっていても、独り占めはずるいですよぉ」
そんな声と共に入り口からこちらに向かってくる、全裸の美少女四人。
温泉内の客全員が唖然とする中、彼女たちも桶や徳利、おちょこを持っており、全員かけ湯の後に温泉の中に入ってきて、俺の元へと集まった。
あっという間に完成した、俺一人に対して美少女五人というハーレム状態。
しかも彼女たち、比べたら悪いが、先程の女性三人よりずっと若く、それにかわいい。
例のおっさん、目が点になっている。
「私が」「いえ、私が」と、誰が俺に酒を注ぐか、徳利の取り合い。
それにあふれた別の娘も、俺の背中や腕に体を密着させている。
キャッキャ、ウフフと声を上げ、俺を弄ぶ美少女達。
ちらりとさっきのおっさんに目をやると、なんか顔を引きつらせ、怒りの表情でこちらを見つめている……ちょっと怖いが、ちょっと優越感。
「けしからん……風情が台無しだっ!」
おっさんは立ち上がり、拳を握ってこちらに近づいて来るではないかっ!
しかし、俺はまったく焦ることはない。
すぐに俺とおっさんの間に、三郎さんが入ってくれたからだ。
「……なんだ、貴様はっ!」
「俺はあの方の用心棒です……すいませんが、あの方に何かありましたら私の首が飛びますんでね、これ以上は近づかないでいただけますか?」
そう言って、三郎さんがおもむろに立ち上がる。
鍛えられた肉体に、数々の修羅場をくぐっている事を物語る、全身の傷跡。
「……用心棒、だとっ? 女を五人もはべらせた上、用心棒まで雇っているのか? ……一体、あいつは何者なんだっ?」
「詳しくは話せませんが……あの方は、一国の命運を左右させるほどの力を持った、やんごとなき身分のお方です。どうかお察しください」
……三郎さん、ハッタリが過ぎるんですけど……。
この三郎さんの言葉に、おっさんは
「ぐっ……」
と声を詰まらせた後、
「……なんか興ざめした。部屋で飲み直すぞっ!」
と、あわてて追いかける女性三人と共に、とっとと出て行ってしまった。
三郎さんはちょっとだけドヤ顔で、さっきまで一緒だったお蜜さんの元へと戻って、また仲良く二人で飲み始めた。
他の客達も、なんかすっとした表情で自分達の時間を過ごし始める。
そして俺も気分が晴れやかになったところで……また五人の少女たちの接待を受け、途中から甘酒に切り替えて、あまり騒ぎすぎることなく、みんなで風情を楽しんだのだった。
もう、俺も完全に彼女たちの裸には慣れた。
考えてみれば、この時代は混浴は当たり前だし、俺の方が変に意識しすぎていたのだ。
この旅を通じての最大の目標である、少女達の『自身を買い取られたことに対する俺への引け目』の払拭も、ほぼ達成できたようだし。
この調子なら、最終目的地点での
『富士山を見ながら、貸切切り露天風呂で完全に打ち解ける』
も、クリア出来そうだ。
――だが、そこでは予想以上に少女たちが弾けすぎて、これまでの人生最大の羞恥と、想像を絶するめくるめく快楽を同時に味わい、なんていうか、まあヤバイ事になってしまうのだった。





