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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第5章 ハーレム完成!?
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第八十四話 前田邸復活

 凜さんは、涙を流した後、俺に抱きついてきた。


 いつもなら慌てて逃げるようにその場を離れているところだが、この日は、俺も凜さんの肩を抱き締めた。

 泣いている彼女が可哀想に思えたから、とかではなく……純粋にそうしたかったからだ。


 これが優に対する浮気になるのかと言われれば、そうかもしれない。

 しかしそれは自分の中の勝手な線引きであって……彼女達に対して感情に差を付けること自体が失礼なのではないか……優も、そう言っていたではないか。

 けれど、それがまた自分に対する言い訳なのではないか……。


 そんなふうに、複雑な思いがループし、自分でもどうしていいのか分からなくなってしまう。

 しかし、今凜さんの肩を抱いていることは、偽らざる自分の本心を表現しており、そして楽しかったこの一年の思いが積み重なった結果だ。


 俺は、凜さんを……いや、前田邸に集っていた少女達を、誰一人として手放したくない――。


 ――その日は、凜さんはそれ以上迫ってこなかった。

 ひょっとしたら、凜さん自身が、これ以上は冗談では済まなくなると自重したのかもしれない。

 ただ、もしこれが、誰かが言っていた「じらす」作戦だったのだとしたら……もう、俺は凜さんの術中に完全にはまったことになる。


 『前田邸』の補修工事は、その週の内に完了した。

 壊されていた部分は戸板や床板、壁の一部など、すぐに修繕が可能な表面部分のみであったので、人数さえ揃えれば、比較的簡単に直ったようだ。


 ただ、庭の花々が元のように咲き乱れる状態になるまでは、しばらく時間がかかりそうだ。


 この知らせは優によって既に江戸の『明炎大社』にもたらされていた。

 そして数日後、ナツ、ユキ、ハルの三人が一時的に俺の家に時空間転移され、久しぶりに前田邸の女性陣全員が揃うこととなった。


 同じ時代での空間移動はできないため、一度現代を経由しないといけない。そのために俺の家に集まってから、翌日、改めて新装前田邸へ移動するという段取りとなっていた。


『明炎大社』ではそれに対して『天女見習いを天界へ返す』という式典を展開、三時間ごとに一人ずつ行われる時空間移動の公開を実施した。

 数百人の氏子達の前で、大々的に行われたものだから……目の前で少女二人がかき消える、という摩訶不思議な現象が起こった境内では、大変な歓声が上がったという。


 この日は木曜日だったので、俺は学校に行っていた。

 夏休み前で、期末テストもまだだが、秋に実施される体育祭の打ち合わせが入り、帰りが遅くなった。


 現代であれば日が暮れても外灯があるので、真っ暗になる事はない。

 しかし俺はそれよりも、「彼女達」に会う時間が短くなってしまうことの方を懸念していた。


 歩みを速めた甲斐があって、まだ日が残っている内に彼女達の「仮の住処」となっているはずの、この地域でもそれほど大きくはない民家にたどり着いた。


 玄関の扉を開けると、

「おかえり、タクっ!」

「おかえりなさいませ、ご主人様っ!」

 顔がそっくりな二人の少女が、そろって挨拶をしてくる。


 服装は白の着物に赤い袴と、結構派手だ。そして揃った顔のかわいらしさが際だっている。


 ハルとユキの双子。二人とも数え年で十五歳、誕生日は初春だということだから、満年齢に換算すると十四歳になっていた。

 この時期の少女は、一年弱の期間でも驚くほど成長する。


 背も、出会った頃は俺の胸までぐらいだったが、肩ぐらいの高さまで……つまり、優とさほど変わらないぐらいに高くなっていた。

 髪も伸び、その可愛らしい顔からは幼さが消えつつある。

 もう、子供とは言えないユキが、俺に抱きついてきた。

 さすがに照れる、というか、どぎまぎしてしまった。


 ハルは以前と同様、一歩引いた場所から笑顔で俺を出迎えてくれる。

 彼女は、顔こそユキとそっくりだが、なんていうか、「おしとやかなお嬢様」風に成長しているように見えた。


「タクヤ殿……おかえりなさい」

 その言葉の方向に目をやり、「えっ……」と思わず一言つぶやき、そして驚愕した。

 にっこりと微笑むような視線を投げかけていたのは、ナツだったのだ。


 彼女はもう、満年齢で十六歳になっている。

 ちょっと男勝りというか、ボーイッシュな顔つきは変わっていないが……なんていうか、優しげな雰囲気を醸し出していたのだ。


「……どうした? なんかおかしいのか?」

 ……気のせいか。普通に以前と同じ口調だ。

「いや、ちょっと雰囲気が変わったような気がして。でも、やっぱりナツだ。また会えて嬉しいよ」


「そ、そうか……いや、実は明炎大社で礼儀作法を一通り習って……タクヤ殿にも敬語で話をしようか、と、ユキと二人で考えもしたのだが……優から、今まで通りの方が喜ぶはずだと言われて、そうしているんだが……」


「ああ、その方がいいや。それでも、ずいぶん変わった印象を受ける。なんか大人びたって言うか……すごく良くなっている」

「そ、そうか……なら、良かった……」

 彼女は少し赤くなって、二人の妹を連れて自分達の部屋へと帰っていった。

 もう俺は、ナツに対して苦手意識を持っていなかった。


「あっ、おかえりなさい、拓也さん。今、お母さんと食事の準備してるんですけど………もう少しだけ待ってもらえますか」


 来たっ!

 満面の笑みで玄関先まで出てきてくれたのは、俺が一番気に入っている女の子、「お優」、略称「ユウ」だ。


 数え歳で十八、満年齢で十七歳。俺と同い年だ。

 ナツより少し小柄で、俺より二十センチほど低い。

 それでも江戸時代としては標準的。


 その名の通り、すごく優しくて、気が利く。

 俺の彼女であり、江戸時代においては『花嫁』だ。

 たまに俺が無茶なことをすると怒ったり、ちょっと拗ねたりするが、それもまた魅力の一つだ。


「……拓也さん?」

 はっ! いけない、見とれてしまっていた。

 ええと、食事、もう少し待ってと言われていたんだな。


「ええと、じゃあ……自分の部屋に戻って、ちょっとテスト勉強でもやっとくよ」

「そうでしたね。拓也さんは、こちらではまだ学生ですもんね……ところで拓也さん、姉さんが……」


 そこまで聞いて、ぎくっとする。この前、凜さんと二人で抱き合ったこと、ばらされてしまったんじゃないだろうか。

「今日はみんなで、前田邸復活の前夜祭を盛大に行おうということで、相当張り切っているんですよ。お料理作るのも手伝ってくれて……」


 ……ふう、そんなことだったか。うん、まあ良かった。

 そういえば、今日は叔父さん、来ないみたいな話だったけど……うーん、凜さんとうまく行かなかったのかな。可哀想だから、聞かないでおいてあげよう……。


 その夜の宴は、母とアキも加わり、賑やかに、本当に楽しく行われた。

 特にアキは、自分も明炎大社で修行していた身なので、三姉妹や優と話が合い、大盛り上がりだった。


 こうして、一夜の楽しい時間を過ごし……翌日、俺が学校に行っている間に、彼女たちは全員江戸時代の前田邸へと帰っていった。

 そして夕方、学校から帰宅した俺は、急いで『前田邸』へとタイムトラベルを実施。


 そこには、少女達の歓声が聞こえる、あの懐かしい(といっても、一ヶ月程度だが)光景が蘇っていた。


 凜さんと優は、既に夕食の準備に取りかかっている。

 源ノ助さんは、しばらく庭を眺めていたらしいが、今は離れの自室にこもっている。


 ユキとハルは、すっかり元気になった番犬のポチと追いかけっこをしていた。

 ただ、そこにナツの姿が無いのが気がかりだった。


 家の中を探してみると……彼女は自分達の部屋に、ひとりでぼーっと座り込んで、延々壁を眺めていた。

 表情も、なんというか、やる気をなくして呆然としているような印象だ。


 なんか様子がおかしい……そう思った俺は、それとなく彼女に何かあったのか聞いてみた。


「ああ……タクヤか。いや、ちょっと……嬉しいというか、めでたいというか……そんなことがあったから、ちょっと喜んでいるんだ……」


 ……やっぱりおかしい。全然嬉しそうでないし、俺の呼び方も「タクヤ殿」から「タクヤ」に戻っていた。


「……なんかよく分からないけど、嬉しいなら、何があったか教えてくれないか」

「……実は……『前田屋』の方にも行ってみたんだ。源ノ助さんから、近いうちに営業再開するって聞いたから」


「ああ、そうだな。良平も江戸の『月星楼』から呼び戻したよ。もう帰ってきてると思うけど」

「そう。もう『前田屋』で会った。それで、奴のことなんだが……」


 そこで一旦、言葉を切り、悲しそうな表情になり、そしてぽつりと一言、

「……良平に、土下座で謝られた」

 とつぶやいた。


「へっ? あいつが? 何やらかしたんだ?」

 良平は鰻料理専門店『前田屋』の若き料理長であり、そして俺に『百両貯めたら、ナツを譲って欲しい』と詰め寄るぐらいに、ナツに入れ込んでいたのだが……。


「……江戸で、恋人ができたらしい」


 ――俺は絶句した――。


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「身売りっ娘」書影
― 新着の感想 ―
[一言] 明炎大社への謝礼は江戸患いの妙薬を渡せば? ビタミンB1誘導体を脚気は当時の江戸では猛威を振るう 難病で年間相当数の死者を出してたので大層喜ぶよ? 詳しくは漫画仁をお読み下さい!
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