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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第4章 呪われた財宝
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第七十八話 現代での共同生活 その2

 その夜、俺と優は、現代の俺の部屋で一緒に寝ることになった。


 現代において一緒に寝泊まりするのは初めてだし、同じ布団で夜を明かすこと自体、江戸時代で行方不明になった妹のアキを探しに出た時以来だ。


 あのときは旅籠(はたご)の一室で、隣の部屋とは襖を一枚隔てただけだった。


 今日は二人きりとはいえ、薄い壁を隔てた隣室ではアキが寝ている。

 まさかアキが聞き耳を立てているとは思えないが、あんまり変なことはできない。


 ちなみに、アキは凜さんが『(めかけ)』と言ったことについてぎゃあぎゃあ騒いでいたが、『家族同然』という意味で、手を出したりしたわけではないと説明し、なんとか納得してもらっていた。


 それにしても……やっぱり、優はかわいい。

 そんな子がすぐ隣で、肩をくっつけるように寝ている……それだけで、幸せな気分だった。


 そっと彼女の顔を覗いてみる。

 すると彼女はまだ起きており、想像と違い、その表情は憂いを含んでいた。


「優……なんか気になる事があるのか?」

「ええ……実は、みんな明るく振る舞っているけど、昨日の事、相当怖かったみたいで……」


「……そうか……そうだよな、あんな暗くて狭いところで、いつ見つかるかも分からない中、じっと我慢していたんだよな……」

「はい……一番最初にこっちに移転したハルちゃんでさえ、みんなのことが心配で震えてたって言ってましたから……ユキちゃん、ナツちゃんも相当……」

 それ以上、言葉が続かなかった。


 俺は責任を感じていた。

 こんな事になったのも、俺が興味本位で安易に『宝探し』なんかに出たせいだ。


 巨額の財宝が絡んでいる以上、どんな人間の『欲望』が牙を向いてくるかもしれないと、よく考える必要があったのだ。

 あるいは、あの廃坑に存在した『呪いの血文字』は、このような事態になる事を見越しての、何者かの警告だったのかもしれない。


「俺、みんなに何がしてあげられるかな……」

「……分からないですけど、でも、今でも十分、いろんなことしてあげられていると思います。あっちの世界でも、私たちに衣・食・住の他に、仕事のお世話までしていただいているんですから……」


「……いや、そうじゃなくて、今回の件で落ち込んでいるみんなが立ち直るような、喜ぶような事……」

「でしたら、直接みんなに聞いてみたらいいんじゃないですか?」


「……そうか、そうすればいいのか……ちなみに優、君は何か、欲しい物とかあるのかい?」

「私ですか……私はもう、持っています。他のみんなが持っていなくて、私だけ持っている……この『らぷたー』です」

 優はそう言って、俺に左腕の装置を見せた。


「これを持っていたおかげで、みんなを助けてあげることができました。元々、私だけ仙界に来られるのはずるい、って言われてましたし……だから、私はもういいです。後は、みんなが心から笑顔になってくれればそれだけで嬉しいです……」


「そっか……じゃあ、明日、みんなに聞いてみるとするか……」

 しかし、それに対する返事はなかった。

 もう優は、すやすやと寝息を立てていた。


(……相当、疲れていたんだな……)

 そう考える俺もかなり疲労しており……十秒後には深い眠りに落ちていた。


 翌朝目を覚ますと、既に優は起きて朝食の準備を手伝っているようだった。

 この日は平日、俺もアキも登校しなければならなかった。


 ――放課後、家に帰ると、江戸時代の五人はずっとリビングでテレビを見ていた。

 その表情はかなりかったるそうだ。何もせずずっと家の中にいる事に飽きているのだ。


 ゲームとかもあるけど、プレイ方法なんか分からないだろうし、現代のテレビ番組を見たってほとんどわけが分からないという。


 マンガとかは置いてあるけど、現代の文字はうまく読めないらしい。

 その他のDVDなんかの機械類は壊してしまいそうで怖くて触れないという。


 退屈そうな、優を除く四人に、それぞれ何か欲しい物が無いか聞いてみた。

 今回だけ特別に、こっちの世界でしか手に入らない物でも構わないと言ったのだが……。


 まず、元気なユキは

「空を自由に飛び回れる機械が欲しい」

 と言ってきた。


「いや、ごめん、それはさすがにこっちでもまだ実現してないんだ。一応、『飛行機』っていう乗り物はあるけど、一人の人間が好きなように飛び回れるっていうのは……うーん、少なくとも江戸時代に持って行ける物はないなあ」


「じゃあ、じゃあ……えっと、あの鷹の見た風景が見えるやつ。私も『さつえい』したい!」


「ああ、あのオオタカに小型カメラを付けて撮影したやつか……うーん、それならできるかもしれないけど……オオタカを用意しないといけないな。『鷹匠』として慣れるまでが大変だろうし……いや、お蜜さんに教えてもらえば……ユキ、ちょっと考えさせてくれ。なんとか考えてみるから、楽しみに待っていてくれ」


 そう伝えると、彼女は嬉しそうに俺に抱きついてきた。

 うん、ちょっと大変そうだけどなんとかしてあげたいな。


 次にハル。

「私は……あの、窓の外見たら、『じてんしゃ』が勝手に走っていたので、それが欲しいですぅ!」


「自転車が勝手に? ああ、原付かオートバイのことかな……うーん、それも難しいなあ。免許がいるし、危ないし、第一重量がありすぎて江戸時代に持って行けないなあ……一番軽い物なら、優なら持ち込めるかな……ごめんこれもなんとか考えてみる。楽しみにしといてくれ」


 すると彼女も、やはり満面の笑みで俺に抱きついてきた。

 次にナツ。


「私は……そうだなあ、本当になんでもいいのか?」

「ああ、怖い思いをさせてしまったお詫びだ。ただし、そんなに重くない物で、普通に手に入る物に限られるけど」


「……じゃあ、遠慮無く言わせてもらうと……私は、『真剣』が欲しいっ!」

 …………。

「なんだ、その呆れたような目はっ!?」


「……いや、まさか女の子が、『真剣』を欲しがるとは思わなかったから。……うーん、真剣、か。重さはクリアできると思うけど、法律的にいろいろと問題がありそうだなあ。値段も高い、かな? 模造刀なら……」

「いや、偽物なら私はいらない」


「うーん、かなり難しそうだ。でも、なんとか頑張ってみるから……」

「まあ、期待しないで待っているよ。そんなに無理しなくてもいいからな」

 さすがにナツは抱きついて来なかったが……ちょっと嬉しそうではあった。


 最後に凜さん。

「私が欲しいのは……そうですね、薬が欲しいです」

「薬? どこか悪いんですか?」

「いいえ、そうじゃなくて、好きな相手を振り向かせる『惚れ薬』があれば嬉しいなって」


「……凜さんらしいなあ。でも、残念ながらそんな薬、こっちの世界でも存在しないんです。もし売っているならば、俺が欲しいぐらいだ」

「あら? ……拓也さん、どなたにお使いになるつもり?」

 しまった、と思ったが、時既に遅し。


「……まさか、浮気とか考えていらっしゃるんじゃないでしょうね? ひどい……」

 これはまずい。ねちねち言われそうだ。


「い、いや……そ、そう、たとえば優とケンカしちゃったりすることがあって、嫌いになられてしまったら使うことがあるかなって……他の人に使ったりしないし……いや、さっきも言ったように、そもそもそんな薬、ありませんから」

 しどろもどろになりながらも、なんとかごまかした。


「……いいですわ。分かりました。では、やはり私が欲しいのは、拓也さんご自身……」

「り、凜さん、代わりの何か探しますので、期待して待っていてくださいっ!」


 俺は強引に話を終わらせた。

 凜さんはちょっと不満そうだったが、後で聞いてみるとこのやりとり自体、結構楽しかったという。


 結局、誰一人として希望の物をすぐには用意できなかった。

 そこで、次の休みにどこかに連れて行ってあげることにした。


 遊園地も考えたのだが、ちょっと刺激が強すぎるかな、と思い直した。

 彼女たちは恐らく癒しを望んでいるはずだ、と考え、近くの動物園に行くことにした。


 土曜日、レンタカーを借り、母の運転で「ふれあい動物園」へ。

 もちろん、妹のアキも同乗している。


 この動物園では普通の檻に入れられた『見るだけ』の動物のほかに、その名の通り『触れられる』動物たちもたくさん存在した。


 彼女たちは車での移動の段階から凄く興奮していたが、動物園に到着すると、久しぶりの屋外と言うこともあってテンションが異常に高い。


 ヒヨコやモルモット、子犬や兎といった小さな動物、ヤギとか羊といったちょっと大きめの動物に、実際に触ってその毛並みや体温を感じることができる。


 亀なんかも触れられるが、意外にもナツがは虫類を苦手としており、ちょっと腰が引けている様子が面白かった。


 あと、江戸時代の女の子にも『アルパカ』が大人気。

 そのモフモフの毛皮を触って大はしゃぎ。


 また、アキも含めて全員、ポニーに初騎乗。ちょっと怖がっていたが、なんとか歩けていた。


 ちなみに、ナツと俺はサラブレットの騎乗にも挑戦。

 なぜかナツの馬が暴走し、職員をパニックに陥れたが、当のナツは怖がるどころか、

「初めて馬に乗れた、感動したっ!」

 と興奮、大喜びだった。


 この動物園には、もちろん普通の動物園同様、日本の野生には存在しない動物も飼育されている。


 猛獣の虎やライオンを見てその迫力と勇ましさに歓声をあげ、象やキリンのあまりの大きさに絶句する少女たち。


 ドーム型の鳥類が飼育されているコーナーでは、ピンクのフラミンゴに感動。

鳥の中でも最大の『ダチョウ』に驚愕していた。


 ちょっと休憩時にアイスクリームを買って食べたのだが、そんな物でも初体験で興味津々、歓声を上げているのが印象的だった。


 いろんな場所で記念写真を撮り、思い出にも残った。


 帰りの途中、『天ぷら』と『鰻』の専門店を訪れ、現代のこれらの料理を試食。

 その味に、やはりみんな感銘を受けているようだった。


 そして現代での共同生活は、この日が最後だった。


 その夜、俺はみんなを集め、今後の事について話を始めた。

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「身売りっ娘」書影
― 新着の感想 ―
[一言] 研ぎの入った刀は江戸時代の質屋の方が入手簡単だよ? 鷹の代わりにドローンで良いのでは?ドローンなら 不審者の帰りの行動を追うのに好都合でしょう?そろそろ武器として爆弾作れば?手作り火薬は テ…
感想一覧
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