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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第4章 呪われた財宝
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第五十八話 料理と財宝

 俺は三郎さんを、『前田邸』の奥の客間に通した。


 優も一緒に旅をした彼の事を歓迎。他の女の子達も、妹のアキを救出するために手助けしてくれた恩人と聞いて、最上級の『お客様』扱いだ。


 なお、お蜜さんは別の用事が入っており、今日は来ていないが、また近々会うことになるだろう、という話だった。


 客間では、旅館の宴会のときに出されるような小さなお膳が二つ用意され、そこに料理と「お酒」が置かれている。

 ちなみに俺は未成年で、『酒が飲めない』と言っているので、ノンアルコールの甘酒だ。


 女性の多いこの家にあってこれほど歓迎を受けた、普段無口な三郎さん、かなり照れながらも喜んでくれていた。


 そして出された料理の「オムレツ」を見て、使われている玉子の量にまず驚き、さらに一口食べてその味にまた驚いたようだった。


「こんなうまい物、食べたことない……」

「まあ、この時代の人はほとんどそうでしょうね。中のタマネギも、まだ存在しなかったはずだし……俺達の世界では、ごく普通に食べられるけど。玉子も、いまよりずっと庶民的な食べ物ですよ」

「なるほど……それに、この白い飯のツヤ……」


 そのご飯を箸で口に運び、咀嚼そしゃくし、そして目を見開いた。

「これは……なんて甘くうまい飯なんだ……」

 そのセリフを聞いて、俺も思わずニヤリとしてしまう。


「それが三百年後の白米です。ちょっと上等な米だけど……それでも、庶民でも毎日食べられるご飯ですよ」


 あと、焼き魚こそ江戸時代のものだが、他にも『野菜炒め』と『果物』がついている。


 特に果物は現代の「温州ミカン」と「ふじ」で、味においては世界一と言われるそれを、三郎さんは絶賛した。


「……ここの住人は、毎日これほどうまい物が食べられるのか?」

「いや、今日はたまたま俺が食事に誘われていたから。食材は以前から持ち込んでいたもので、料理店『前田屋』であたらしい献立を用意できないか、みんないろいろ試していて、その成果を見る意味もあるので。だから三郎さんが味の評価をしてくれるのも、すごく参考になるんです。遠慮せず、食べて感想を言ってください」


 これは本当のことで、レシピこそ俺が現代から持ち込んだものだが、この時代の人の口に合うよう味を調整したのは女性陣だ。三郎さんや源ノ助さんでないと正しい評価ができない。


 さらに、酒は源ノ助さんに味見してもらうために持ってきていた『大吟醸 雪富士』だ。

 フルーティーな味わいで、かつキリリとした清冽な後味……らしい。

 実は三郎さん、これを一番大絶賛し、もっと飲みたそうにしていたのだが、仕事の話が先だった。


 俺は優達に客間に近づかないよう指示し、いよいよ三郎さんから本題を聞くことになった。


 話は、去年の夏に遡る。


 この村に比較的近い阿東湾の海上で、夕暮れ時、ある商取引が密かに行われていたという。

 金額は約三千両、商品は、なにかヤバそうなものだったらしい(詳細は三郎さんも知らない)。


 夕刻は漁師の舟もまず通らず、陸の上と違っていきなり役人に踏み込まれたりする心配がないので、たまにそうやって秘密裏に取引が行われる事があるそうだ。


 ところが、その商取引の後、急な時化しけに襲われて二艘の小舟が転覆、七人の船員と共に荷物も海に投げ出された。

 船員は全員、命からがら陸までたどり着いたらしいが、積み荷は海中に沈んでしまった。


『商品』の方は、なんかもうあきらめるしかないような物だったらしいが、せめて三千両の金銀だけでも回収したい。


 それが水深の深い海だったらあきらめもつくのだが、阿東湾の水深は平均すると十から十五間、現代の尺度で言うと二十から三十メートル弱なので、『なんとかなるのではないか』と、依頼者はあきらめきれていないのだという。


 ただ、運が悪いことに、その時化の後すぐに大嵐が来て海底も荒らされ、船の残骸は跡形もなく流されてしまった。


 積み荷の金、銀はたぶん泥の中に埋まったままだろうということで、潜りの達者な『海女さん』を集めて捜索を行ったものの、やはり素潜りでは水深が深すぎるようで、小判の一枚たりとも見つからなかったという。


 依頼主は「さすがにもう無理だろう」と考えていたが、たまたま三郎さんが『船外機』を見せたところ大いに驚き、これほどの技術をもっている者ならば、なんとか見つける事が出来るのではないか、という話になり、それで俺の所に話が来たらしい。


 ちなみに、三郎さんとお蜜さんは、燃料を満載した例の小舟で江戸から阿東湾まで帰ってきていた。


 うーん……。


 スマホの百科事典でいろいろ調べてみると、スキューバダイビングならば慣れればそのぐらいの深さ、潜れるらしい。


 ただ、俺が自分で潜ることになると思われるので、講習を受けるのは必須だろうな。

 機材を揃えるために、ライセンスもいるだろうし。


 それに、大体の場所しか分からないという話だし、泥の中に埋まっているのならば、金属探知機なんかも欲しいところだ。

 せめて現代の『宝探し』の技術がフルに使えれば……。

 と、ここで俺はある事実に気づき、そして思わず立ち上がってしまった。


 何年か前のテレビ番組で、『川底に沈んだ小判は、その重量のため、どんな大水でも流されることはまずない』ということが紹介されていた。


 それが事実ならば……三百年間、海底の同じ位置に金銀が留まっている可能性が高い。

 この沈没した小舟の話、公にはなっていないらしいし……。


 俺がいる江戸時代と、『現代』とはパラレルワールドであるため、こっちで財宝を取得しても現代のそれが消滅したりすることはない。

 興奮を抑えながら、俺はある段取りを立てた。


1.まず現代に戻り、阿東湾で『財宝が海底から発見された歴史がないか』検証する。


2.なければ、現代で最新の機器を用いて『沈んだ財宝』を捜し、発見したならば、海岸線の地形などを元に場所を特定しておく。


3.2.で確定した場所で、江戸時代にてスキューバダイビングを実施、最小限の装備で宝を捜索、発見する。


 まあ、一人では大変かもしれないので、場合によっては海女さんに協力してもらおう。

 ちなみに、この時代の海女さん、ほとんど裸に近い姿だったらしい……別にそれが目的じゃないけど。決して。


 これにより、俺が得られるメリットとしては、もし両方の時代で財宝を発見できたならば、


1.『江戸時代で入手した知識』が正しいことが証明され、タイムトラベルの信憑性が上がる。


2.現代において沈没船の財宝を発見したならば、最低でも二割ぐらいはもらえるはず。そうなると、『江戸時代の小判の換金』が行いにくくなっている現在、非常に有益な収入となる。


3.江戸時代においても、かなりの報酬が約束される(俺に分配されるのは、回収した金額の一割五分らしい)


 とりあえず、いろいろ段取りと時間が必要だけど、決して不可能ではなく、それどころか俺に取ってもかなり『有益な』話になりそうだと三郎さんに伝え、彼もその答えに満足げだった。


 そしてその後は、源ノ助さんも加わっての宴会となり、さらに女性陣も参加、かなり遅くまで飲み明かしたのだった……俺は甘酒だったけど。


 現代に戻った俺は、叔父にこの件を話した。


 ところが、段取りの『1』はともかく、『2』の「現代で最新の機器を用いて沈んだ財宝を捜す」というのが非常に難しいという。


 何か古文書が残っているならともかく、単に『江戸時代で聞いてきた』では、協力してくれる人はいないだろう、と言うのだ。

 


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