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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第4章 呪われた財宝
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第五十七話 訪問者

 アキが現代に帰ってきてから、三日が過ぎた。


 この日の夕刻、前田邸での食事に誘われていた俺は、いろいろお土産を持って庭に出現、ポチに靴を噛まれながら玄関の引き戸を開けた。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「お帰りなさいませっ、ご主人様っ」

「お帰りなさいませー、タクヤさまっ!」


 微妙に俺の呼称が異なるが、綺麗に声のタイミングが揃っていた。

 玄関から一段上がったところに、正座、三つ指をついてお辞儀している三人の女の子。

 凜さん、ユキ、ハルだった。


「あ……ああ、ただいま。凜さん、どうしたんですか、そんなに改まって」

「旦那様、なにをおっしゃいます。あなたはこの家の主人ではありませんか」

「いや、まあ、そうだけど……なんか今までと違うなって」

「ええ、この二人、礼儀作法を学びたいっていうものですから。私もそんなに詳しくはないですけど、以前ご奉公に出ていたときには、こうやってその家の旦那様をお迎えしていたんですよ」

「へえ、凜さん、働きに出ていたんだ」

「ええ。優も一年間、遠い親戚の呉服店にご奉公に出ていましたの」


 ……なるほど、それで凜さんも優も、言葉使いが丁寧なんだな。


「ユキちゃんもハルちゃんも、武士のお父さんに育てられて、女性としての作法には無頓着なものですから……ナツちゃんもそうなんですけど、こうやって拓也さんに挨拶することを恥ずかしがって……今、お風呂を沸かしにいっていますわ」

 うーん、男勝りなナツがこんなことするの、ちょっと想像できない。


「でも、ナツちゃんもある程度は女の子らしくしないと……拓也さんにお相手してもらえませんのに」

「……お相手って……」

「えっ? もちろん、夜のお相手ですよ。(めかけ)としての勤めですわ」

「いや、だから、俺はそんなつもりは……」


「あら、拓也さんも恥ずかしがっちゃって……でも、ナツちゃんも前に、拓也さんの子供だったら産みたいみたいな事、話してましたし……好かれているんだから、いいのではありませんか?」

「ナツが? 俺の子供? ……いや、いくらなんでも、それはないだろう」

「でも、前に一度、『抱いて欲しい』って言われたこと、あったんでしょう?」


 ……そういえばそんなことが、あったような、なかったような。


「……まあ、ナツはともかく、ユキもハルもまだ子供だろう? 妾とか、そんな話は早すぎる」

「旦那様、なにをおっしゃいますやら。二人とも、もう大人の女性。子供の産める体になってますよ」


 ……そうなんだ……。


「……私、ご主人様の子供だったら、産みたいです……」

 ハルが目をうるませ、ぽっと頬を赤くしている。

 いや、でもそれはちょっと……。


「私も、タクの……ううん、タクヤ様の子供、産みたいっ!」

 ユキは全く恥ずかしがらず、ストレートに要求してくる。

 でもこの双子、満年齢だと13歳だ。


「いや、慕ってくれる気持ちはうれしいけど、まだ早すぎるよ」

「そうかしら……確かに、まだ若すぎるかもしれませんね。でも、私だともう旬を過ぎてますわよね?」

「まさか。凜さんならまったく問題ない……」


 ここではっと我に返った。

 あぶない、あやうく凜さんの術中にはまるところだった。目をかがやかせて嬉しそうにこちらを見ているではないか。


 凜さんは満年齢で18歳、俺達の時代ならば、結婚とか考えるならずっと若い方だ。


「……ところで、優は?」

「……優なら、今、食事の支度をしていますわ」

 ……なるほど、『嫁』がいないところで俺を籠絡(ろうらく)しようとしていたか。気を付けなければ。


「あの娘、『私がいると、拓也さんをお誘いしにくいでしょう』って言ってくれて……」

 ……優、なんていうか、お人好しすぎる……。


 そのとき、

「拓也殿っ、お客様ですぞっ!」

 と、庭で源ノ助さんの大きな声が響いた。


 ポチが盛大に吠えているのも聞こえる。

 凜さんのちょっと残念そうな顔を尻目に、逆に俺はほっとしながら庭に向かう。

 引き戸を開けると、源ノ助さんが立っており、なにやら真剣な面持ちだ。


「貴方の知り合いという若い男が尋ねてきております……しかし気を付けてください、相当の手練れですぞっ!」

 小声でこっそり話しかけてくる。


 玄関から一歩足を踏み出し、庭に立っているその男の顔を見て、俺は思わず笑顔を浮かべた。


「三郎さんっ! ……大丈夫、あの人はアキ救出を手伝ってくれた恩人ですっ!」

 源ノ助さんを安心させ、すぐに三郎さんの元に駆け寄った。

 彼も笑顔で、三日ぶりの再会を喜んだ。


 江戸で別れた後、『前田邸』で落ち合うことは事前に取り決めていたが、彼は『再会の挨拶』のためだけにこの前田邸を訪れたわけではなく、新たな仕事を持ってきていた。


 それは彼の忍術を持ってしても困難な依頼で、俺の仙術ならばひょっとしたら、と考えたのだという。


 その内容とは、『沈没船の財宝引き上げ』。


 規模はそれほど大きくないのだが……その詳細を聞いて、俺は鳥肌が立つような思いだった。


 うまく立ち回れば、現代、過去の二回財宝を取得することができ、かつ、江戸時代へのタイムトラベルの証明となるかもしれない、と……。


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「身売りっ娘」書影
― 新着の感想 ―
[一言] 三郎・蜜さんには特に蜜さんには抗生物質と 何故抗生物質かは、任務上男の相手をするので 当時流行ってた性病梅毒は抗生物質でないと 治療困難ですので!21世紀の抗生物質は 耐性菌でも退治する強者…
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