新しいお嫁さん
「拓也さんが、本当に男女が合意して結ばれることがどれだけ尊いことか、身をもって教えてあげればいいではありませんか」
そう話す凛の言葉には、説得力があった。
「……如月本人は、どう思っているだろうか。あんなことがあったばかりなんだ。俺だったらその心の傷を癒やせる、なんて言うのは単なる想像だと思う。こういうのは、まず時間をおかないといけないだろう」
「いいえ……本人から聞いたのですよ。このままだと、自分は駄目になる。でも、拓也さんなら大丈夫かもしれない……そもそも、自分は村の掟で、そうなることを知っていたし、またそれを望んでもいた。だから、やっぱり最初は拓也さんでなければいけないんじゃないかって。そういう定めだったんではないかって」
「……如月が、そう言ったのか……」
俺は、しばらく思案に耽った。
「……彼女が本当に、そういう関係を望むならば、そして本当にそれしか彼女を救う方法がないならば、俺はそれ相当の覚悟を決める。でも、それならば、今の嫁達全員の了承が必要だし、如月にも別の覚悟を決めてもらわなければいけない」
「別の覚悟?」
「ああ。それこそ、俺の勝手な判断なんだけど……如月を、俺の新しい嫁に加える」
その一言は、さすがに凛も予想していなかったようで、目を見開いて驚いていた。
「俺の勝手な解釈だけど……そういう行為は……ましてや、彼女にとって初めてなんだったら、それこそ夫婦になってからでないと駄目だと思うんだ。子供ができる可能性だってあるわけだし、責任を負わないといけないだろう」
男女として結ばれるのは、夫婦になってから……それは俺にとって、今まで自分の中で決めてきたルールだった。
現に、今まで俺は今まで六人の女性とそういう関係になったが、この時代で嫁にした後の話だった。
まあ、六人も嫁にした時点で、現代の感覚からすればすでに常軌を逸しているのかもしれないが、全てに必然性が有り、誰かを嫁にしないという選択はなかった。
「……では、如月さんを七人目のお嫁さんに、そして皐月ちゃんも八人目のお嫁さんにするおつもりなのですね?」
「……そうか、皐月もか……そうだよな、彼女も心に傷を負っているんだったよな……まあ、まだ彼女は何年か先になるだろうけど、必要があればそうなるだろうな……」
そうすると、嫁が八人だ。
俺は阿東藩において、藩主様から特権として何人嫁にしても構わないと言われている。
そのうちの一人は、その藩主様の実の娘だ。
今や将軍様とも面識のある俺は、それだけの存在として認められているのだ。
「……でも、そうなるとまた話が変わってきますね……如月さんと皐月ちゃんの気持ちも聞かないと……阿東藩にずっと住みたいと思いますでしょうか……」
たしかに、それはまた別問題だった。
それに、冷静に考えれば、そういう関係になるのならば自分の嫁にするっていうのも一人よがりな考えだろう……いや、究極の自己満足だ。
周囲の目だって、
「やっぱり前田拓也は、美人を多数、我が物にしたいだけだ」
となるかもしれない……あの二人も、相当な美少女なのだ。
今の六人の嫁達だって、複雑な心境になることだろう。
「……凜、俺、相当無茶なことを言っているのかな……」
自分でも何が正解か分からなくなって、彼女にそう尋ねてみた。
「いえ、貴方がいい意味でそういう方だということは、少なくとも今のお嫁さん達は皆知っていますよ。窮地に陥っている懇意になった女性を、なんとかして救おうとする……だから私たちのことを、まとめて面倒みてくださっているのでしょう? お嫁さんにならなくても、何人も、我が身を危険にさらしてでも助けてきている……立派なことだと思いますよ」
「……けど、世間では俺のことを『無類の女好き』って呼んでいるんだろう?」
「うふふっ、そうですね……でも、言わせておけば良いじゃありませんか。それに、実は私たち、結構優越感があるのですよ……阿東藩に『女子寮』を作って何十人も住まわせていますけど、お嫁さんになれているのは私たち六人だけなのですからね」
凛のその笑顔に、救われた気がした。
翌日、その話を如月、皐月の姉妹にした凛は、まず如月が二人で話をしたいということを伝えてきた。
そして如月と一緒に、阿東藩の、海が見える場所まで出かけて、二人だけで話をすることになった。





