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後処理

 山賊団「山黒爺」の中でも武闘派だった、シナド率いる一派は、既に多くの物が捕えられていた上に、首領のシナド本人が捕縛されたことにより完全に瓦解した。


 指揮を執る物がいなくなった以上、残っていた者達も、前田拓也の罠やカラクリによって次々と捕まり、中には投降してきた者達もいた。


 シナドは数時間ほど気を失っており、目覚めたときには既に覚悟を決めている様子だったらしい。

 拓也自身は関わっていないのだが、厳しい取り調べに対しても決して口を割ることは無かったという。


 しかし、その手下達となると話は別だ。

 全て上層部に脅されたことにして、次々と秘密を自白していった。

 そのおかげで、山賊団に捕虜となっていた者達も次々に解放された。


 その中には、睦月の片腕とも呼べる存在の、クロウの妹も含まれていた。


 クロウは、奥宇奈谷の秘密情報の一部をシナド側に漏らしていた。

 しかしそれは妹を人質に取られていたからであり、そのことを、暗に睦月に知らせていた。


 睦月は、細心の注意を払い、全く気づいていないフリをして、敢えてクロウが情報を流すことを黙認していたのだ。

 また、奥宇奈谷に睦月が残るように提案したのも、クロウだった。


 結果的に、クロウの助言通りにしたおかげで、睦月はシナドを足止めすることができ、そして前田拓也の参戦が間に合ったのだ。


 そしてシナドが捕えられ、クロウの妹が帰ってきた。

 山賊団に捕虜となっていた間、つらい目にも遭ってきたようだが、彼女は気丈に耐え続け、そしてクロウと笑顔で再開したのだった。


 残る山賊団も、前田拓也から捕縛用の仙術道具 (相手の動きを封じるペイントガン)等を借り受けた松丸藩士や奥宇奈谷の狩人集によって捕えられるか、完全に逃げ出したとのことだった。


 こうして、『奥宇奈谷大戦』は終結した。

 これでようやく、奥宇奈谷と別の村や町をつなぐ隧道が有効活用される時が来たのだ。


 その知らせは、「阿東藩の大仙人、前田拓也の活躍」として、やはり尾ひれが付く形で大々的に伝聞された。


 もちろん、阿東藩にも、もっと大げさな形で伝わった。

 たった一人で五百人の山賊団を一夜にしてなぎ倒したと瓦版が発売されたときには、さすがに前田拓也は閉口したものだった。


 まあ、けれど、これで一件落着、万事解決……と彼は思ったのだが、もう一つ、大きな問題が残っていた。


 それは、この戦いに巻き込まれ、心に大きな傷を負った如月と皐月のことだった。

 如月と皐月の二人は阿東藩の女子寮で保護されている。


 山賊達に乱暴される従姉妹を見て、男の人を極端に怖がるようになってしまった姉妹。

 彼女達の閉ざされた心を開くには、どうすればいいのだろうか――。


  残念ながら、俺だけではその答えを導き出すことはできなかった。

 年頃の女性の、そういう心の傷の深さ、癒し方を、男の俺は考えることすら不可能なのだ。


 そこで、阿東藩の前田邸に戻ったとき、嫁の中でも最年長の凛に相談してみた。

 すると彼女は、とんでもないことを言ってきた。


「拓也さんが、本当に男女が合意して結ばれることがどれだけ尊いことか、身をもって教えてあげればいいではありませんか」


 と……。

 さすがに、それはダメだろう、と反論したが、


「なぜ駄目なのですか?」


 と逆に聞かれてしまった。


「だって、彼女達はそういう行為を無理矢理されているところを見てしまって、嫌悪感どころか恐怖を抱いているのに……」


「そうですよ? このままでは一生、彼女達は誰とも結ばれることはできないでしょうね。よっぽど優しくて、気を許せる人がお相手しない限りは……私はそれが拓也さんを置いて他にいないと言っているのですよ?」


 俺に対して諭すようにそう語りかける凛の目は、本気だった。

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「身売りっ娘」書影
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