拓也の回想 その20 ~ ギミック ~
睦月と二人で作戦を練ってから、七日後。
この日は月も出ておらず、ほぼ真っ暗な状態だった。
身につけているのは、前回と同じ上下とも黒基調のフード付き迷彩服に、やはり黒の軽量ヘルメット、そしてスニーカーまで黒。
さらに念入りに黒い手袋もはめているのも、黒のボディバックを背負っているのも、最初にこの村を偵察した時と同じだ。
もっと付け加えるならば、その場所までも同じ、例の廃村だ。
奴らは一度、ここを完全に引き払い、その気配を全く消していた。
ところが、二日前に俺が様子を見に来たときには、また奴らはこの場所をねぐらとして利用していたのだ。
ひょっとしたら、「一度探索した場所は二度は来ない」という、捜索側の心理を逆利用したのか、あるいは、逆に俺たちをおびき出して、罠や待ち伏せで返り討ちにしようという算段なのかもしれない……現に俺は、スマホを取りに戻ったときに、巧妙な罠によって殺されかけた。
しかし、こちらも準備では負けていない。
奥宇奈谷の狩人集に加え、同村から剣術に長ける男を十数人派遣してもらっている。
さらに、松丸藩士七人も参加してもらった。
これで、武装した総勢三十人近い男達が待機している。
彼らは、俺が
「山賊団の今のねぐらを特定した」
と話したときは、まだ半信半疑だったのだが、実際にドローンで上空から撮影した動画をタブレット端末で見せたところ、
「これが噂の仙術か! 拓也殿は本物の仙人様だったか!」
とか、
「これで阿東藩の海賊達を一夜で全滅させたのか!」
とか、相当驚いていた。
現代の知識があればどうってことない映像なのだが、この時代の人に見せれば、当然このような反応になる。
もちろん、俺はそれを面白がって見せびらかしたわけではない。本来ならば、見せたくない技術だ。
しかし、俺の「仙術」を信用してもらえなければ、山賊団と戦うなどという命がけの行為には、なかなか参加してくれないだろう。
それにもう一つ。
撮影だけではなく、「空から攻撃できる」ということを知っておいてもらいたかったのだ。
阿東藩の海賊退治で、それは実践していたのだが、この松丸藩までは相当尾ひれがついた噂となっており、当然それを信じない者も大勢いた。
また、信じたとしても「空から火を降らせる」などという手法は、山火事が心配で山賊団には使えない。
そこで俺が提案したのが、「雷を降らせる」だった。
厳密には、「雷の力を宿した、ある物体」なのだが……。
当然、それも最初は信じていなかったのだが、それを用いて、わずか一晩ででイノシシを数頭捕獲したのだから、全員コロッと騙され……いや、信頼されるようになった。
ちなみに、このギミックを考案し、作成してくれたのは、帝都大学准教授で、天才とも変人とも称される叔父だ。
時空間移動装置「ラプター」の発明者であり、それと比べれば、上空からイノシシを捕らえるための罠を作ることなど、造作もないらしい。
実際には、人間に使うことになるのだが……山賊団を捕らえるためだと説明すると、最初はその使用を渋っていた。
いかに犯罪者とはいえ、人間なのだから、イノシシを身動きできなくするほどの威力を持つ仕掛けを使うのはいかがなものか、というもっともな理由を説明された。
しかし、
「その山賊団に若い娘がひどい目に遭わされている、なんとしてもこれ以上の被害を防がなければいけない」
と説明すると、
「そういう事情があるならば仕方がない!」
と、急に態度を変えて、わずか三日でこのギミックを七セットも作成してくれたのだ。
現代の日本では、人間はもちろん、多分イノシシに使っても、狩猟法か何かに引っかかる特別な仕掛け。
俺は今夜、ついにそれを山賊団に対して使用する――その覚悟を決めたのだった。
 





