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拓也の回想 その16 ~クロウの秘密~

 江戸時代に置いてきてしまったスマホを回収するだけなのに、危うく殺されかけた俺。

 正直、山賊団「山黒爺」を甘く見ていた部分があった。


 奴らは、単なる荒くれ者の集まりではなく、計画的に物事を進めるしたたかさ、恐ろしさを持ち合わせている。

 全ての者がそうだとは思わないが、一人以上、ものすごく頭のいい人物がいる。

 松丸藩の役人が、誰も捕らえられていないことからもそれが分かる。


 川上村において、睦月も巧妙に誘い出され、そして罠にはまって崖下に転落、戦闘不能に陥れられた。

 そして今回の件。

 まさか、俺の時空間移動について知っているとは思えないが……たとえば、それが隠密行動が得意な「(しのび)」対策の罠だったと考えるならば、それは納得できる。


 幸いにも、念のための防刃ベストが役に立ったわけだが、久しぶりに紙一重で生死の狭間に立たされていたことになる。


 あわよくば、どこかに墜落しているであろう超小型ドローンも回収するつもりだったが、今回の件で諦めることにした。

 スマホと違って、金額は高いのだが、それほど重要なデータを保持しているわけでもなく、お金さえ出せばまた手に入る……叔父によるカスタマイズは必要だが。


 まだ例の廃村に潜伏していることは、今回の一件で確定している。

 ……いや、二回連続で奴らにとっての侵入者……つまり「俺」を取り逃がしているので、気味悪がって逃走したかもしれないが……そう考えると、結局のところ、現在どこにいるのか分からなくなってしまう。


 こうなってくると、密かに計画していた奇襲作戦が実行できない。

 翌日の午前中、今後の方針について、奥宇奈谷に戻っている睦月たち狩人集に相談することにした。


 場所は、長老の屋敷だ。

 まず、睦月の容態について。

 かなり良くなってきて、すでに戦える状態に近づいていたようだ。

 山賊団との戦いについても、参加すると張り切っていた。


 しかし、それを彼の右腕のクロウが強硬に反対した。

 まだ足の状態は完全ではない、このままでは文字通り足を引っ張るだけだ、と

 それに対して、睦月 (仲間内での呼び方はハグレ)は、ムキになって反論するのか、と思いきや、以外にも冷静に


「……そうだな……残念だが、今回はお前たちに任せる」


 と、あっさり参戦を断念した。


 ひょっとしたら、本当に戦えないほど足を痛めていたのかもしれない。

 その心境の変化に、なにか釈然としないものを感じたのだが……クロウは、俺に任せておけ、と、真剣に睦月の目を見ながら言ったのが印象的だった。


 二人は、幼なじみだということだが……それだけ睦月が、クロウのことを信頼しているのだろう。

 それとも、何かもっと深い考えがあってのことだろうか。


 少し不審がる俺に、


「拓也殿……後でちょっと話がある。如月と皐月のことだ。二人だけで話がしたい」


 と言ってきた。

 今、阿東藩で一時避難しているあの二人のこととあれば、クロウを含む他の狩人集は何も言わない。

 俺は、奥の客間へと通された。


 二人だけになって、まず最初に言ったのが、


「すまないな。ああでも言わないと、二人で話ができないからな……あんたが、俺が戦いに参加しないとあっさり言ったことを不審がっているのは分かっている」


 睦月は、ある程度人の心が読める。つまり、俺の疑念点にも気付いていたのだ。


「あんたは、頭がいい……他の狩人集はごまかせても、あんただけはそううまく行かない気がした。どのみち、『山黒爺』との戦いを事実上指揮するのはあんたになるはずだ。だから、先に言っておく……クロウは、何か重大なことを隠している」


「……重大なこと?」


 意外な言葉に、驚いた。


「ああ。それが何なのかまでは分からない……だが、俺はそれを気付いていないふりをしなければいけない」


「……けど、それって、すごくまずいことじゃないのか?」


「ああ……だが、あいつのことだ。俺が気付いていることぐらい、分かっているだろう」


「……意味が分からない」


 混乱してしまう。


「つまり、こういうことだ……『クロウは何か隠してはいるが、それで俺たちを陥れるつもりはない』」


「……やっぱりわからない」


「……まあ、そうだろうな……それは、奴自身の、たとえば体調の問題かもしれない。あるいは、誰かへの義理のためなのかもしれない。何かに縛られて、自分の思うように行動できないもどかしさ……そういうものを感じている」


「……そういわれれば、分かるような気もする」


「ああ……ただし、それに気付いているのは、おそらく俺だけだ。奴も、そのことをなんとなく分かっているだろう。それをふまえて、今回の奴の言動を考えてみた。クロウは言った……『まだ足の状態は完全ではない、このままでは文字通り足を引っ張るだけだ』と。けれど、実際のところは、俺の足はもう戦える状態にまで回復しているんだ……そして奴は、本心ではこう言っているように聞こえた。『足の状態など関係なく、お前はこの奥宇奈谷に残れ』と」


「……それは、どういう理由で?」


「それは、俺にも分からない。ただ、俺の身を案じて、というわけでもないし、本当に足手まといになるように考えているようでもなかった。まるで、俺がこの奥宇奈谷に残る必要がある、とでも言っているようだった……おそらく、何かに備えて」


「……何か? それは一体……」


「それが分かれば世話はないんだがな……とにかく、クロウは、絶対に俺や他の狩人集を裏切るような真似はしない。そういうやつだ。だから、もし頭のいいあんたが、何か違和感を感じたとしても……それは追求しないでやってくれないか?」


「……わかった」


 まだ、釈然としないものは残っている。

 しかし、さっきまでよりは幾分、すっきりした。

 とりあえず、今日のところはこれで満足しよう。


「……あと、もう一つ話したいことがある」


「まだあるのか?」


「ああ……けど、それはきちんとさっき言ったことでもある。……如月と、皐月のことだ」


 ズクン、と、俺の胸が痛むのが分かった。

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「身売りっ娘」書影
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