拓也の回想 その14 ~拓也のミス~
「せんかいって、だいすき!」
少しの間眠って、再び目を覚ましたお宮は、追加で食べた阿東まんじゅうとお茶でおなかいっぱいになったようで、上機嫌だ。
さっきまで「ひとごろし!」と叫んだ俺に対しても懐いてくれるようになった。
こうなると、なかなか可愛らしく思えてしまい、しばらく一緒に過ごしたい気持ちも出てくるのだが、この子のことを心配している家族がいる。
「ラプター」の待機時間は過ぎたので、名残惜しそうな表情のアキに見送られながら、俺とお宮は江戸時代、片山村の外れ、藪の中に出現した。
そこから、子供の足で徒歩五分。
ようやく東の空が白み始めたその時間に、お宮は自宅へとたどり着いた。
この時代、農家の朝は早く、まだ夜が明ける前に活動を始めている。
そこに元気よく、お宮が帰ってきた。
「……お宮、無事だったの!」
大声を上げ、目を見開いて驚いたのは、彼女の母親だった。
「うん。こわかったけど、おいしかった!」
意味不明の言葉を発しながら、彼女は母親に抱きついた。
俺は呆れ気味に、お宮のあとからゆっくりと近づいていく。
彼女の母親とは、一度顔を合わせただけであまり話をしておらず、まだ暗い時間帯なので俺のことを警戒していたようだったが、
「あのおにーちゃんがたすけてくれたんだよ! おまんじゅうももらった!」
と、にこやかに俺のことを紹介してくれた。
それを聞いた母親は、俺が
「攫われた女の子を助けに行きます!」
と宣言していたのを思い出したようで、
「あ……あの、川上村からいらした方ですよね……ありがとうございますっ、ありがとうございますっ!」
と、何度も、俺が恐縮するほど頭を下げてくれた。
それを聞きつけたようで、父親も、祖父……つまり村長も出てきて、母親と同じように何度も頭を下げて感謝してくれた。
日が昇ってからは、松丸藩士たちに
「一体、どうやってあの子を助け出したのですが?」
と聞かれたので、
「今回は緊急事態だったので、特別な仙術を使いました。人の命がかかるような事態でないと、使ってはいけないという決まりのある技です」
というふうにもっともらしく答えたところ、
「さすが、仙人と言われるだけのことはありますね!」
と、彼らまでが深くお辞儀して称えてくれた。
まんざらでもない気持ちだったが……。
「いや、だからといって喜んでばかりはいられない! 山賊たちは、お宮がいなくなったことに気付いている。なんらかの仕返し、対抗措置をとってくるかもしれない」
気を引き締めるように、俺は忠告した。
そうは言っても、無事女の子を助け出したことは大きい。
今なら松丸藩士も来てくれているし、山賊団の性格からして、再度この村を襲うような可能性はほぼ無いはずだ。
懸念点というか、俺の落ち度なのだが、お宮を連れて緊急で時空間移動した際に、灯りとして使用していたスマホを置いてきてしまったのは痛い。
それに、上空でホバリングさせていた超小型のドローンも、バッテリーが尽きて落下してしまっているはずだ。
まあ、それらが盗賊団の手に渡ったとしても、スマホはロックがかかっているので操作はできないし、ドローンに至ってはその使い方を把握することすらできないだろうから、その点は安心なのだが、両方ともいろいろカスタマイズしていたのでかなり痛い。
もう一度、あの廃村を訪れることはあると思うので、そのときに探してみる。
とりあえず、今は一度奥宇奈谷を訪れ、睦月たちに現状の報告と、今後の「山黒爺」との戦いに向けて備えることにしたのだった。





