表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/381

拓也を待ち続ける嫁達 ~優の場合~

 前田拓也には、現在六人の新妻がいる。


 彼は阿東藩主に特別に複数の嫁を持つ権限を与えられ、さらにそれを実現できるだけの経済力と、彼女達全員から慕われる人柄も持ち合わせていた。


 中でも、一番早く正式な花嫁となり、現時点で一人だけ彼の子供 (女の子:舞)を産んだ女性が優だった。

 そして今でも、最も愛され、そして最も拓也に尽くしていると、他の嫁達から認められているのも優だ。


 彼女は、特別な事情により、「江戸時代から現代に自由に時空間移動できる」能力を与えられた唯一の人物だ。


 「現代から江戸時代に自由に時空間移動できる」能力を持つ拓也と、対をなす存在だ。

 また、体重が軽いこともあり、時空間移動装置「ラプター」の重量制限である約80キログラムまでには余裕があるために、他の小柄な女性を連れて瞬間移動できる、という特徴を持つ。


 優もまた、他の嫁達と同様、拓也に多大な恩を感じている一人だった。

 身売りされそうになったところを彼に救われ、しかし一月後には別の人物に買い取られそうになり、さらにそれを拓也の機転により、三百五十両という大金で引き取ってもらったのだ。


 当時 (もちろん今でも)、二人は相思相愛であり、それらの事が重なって、優は拓也のために一生を捧げる覚悟を決めていた。


 だから今回、少々危険な旅である、「山賊達に襲われた村」への同行、そしてそこで身動きできなくなっていた奥宇奈谷出身の姉妹、如月と皐月を救出する手伝いをすることにも、何らためらわず同意した。


 女性の身では危険な山道も、彼と一緒ならば、彼の役に立てるならば、それは彼女にとって幸せなことだった。

 そして助け出した如月と皐月は、優の目から見ても可憐な美少女だった。


 最初、二人と初めて出会ったとき、特に如月は、村のしきたりにより「拓也と一夜限りの嫁」になる定めであり、本人も納得していると聞いた。

 にもかかわらず、拓也は手を出していないという。


 相変わらず生真面目な性格の拓也に対し、その義理堅さに敬意を感じると共に、如月に対しては、多少同情していた。

 待ち焦がれた運命の相手だと思っていた彼に、結果的には受け入れられなかったのだから……。


 そして川上村で、彼女達の身は無事だったものの、従姉妹がひどい目に遭っているところを目撃し、心に深い傷を負っていると聞いて、さらに同情してしまった。


 もし、順序が逆で、如月の方が自分より先に出会っていたなら……。

 彼は、おそらく如月と結ばれていただろう。

 そして自分たちは、彼と出会うこともなく、身売りされ、今日もどこかで涙を流していたことだろう……。


 自分が、どれほど運が良かったかを知っている。

 だからこそ、彼のためにできることは、何だってやろうと考えていた。

 では、今後、あの姉妹……特に、如月に関してはどうすれば良いだろうか。


 今現在、心に傷を負った彼女は、男性とまともに話をすることも、近寄ることさえできないでいるという。

 唯一、彼とだけは、普通に接することができるらしい。


 それならば……彼女が心の傷を癒やすためには、彼に受け入れられていないということも含めて……彼と一夜を過ごすことが、彼女にとって最も効果的なのではないだろうか。


 もちろん、葛藤はある。

 最愛の人が、別の女性と一夜を過ごす……それをなんとも思わないほど、彼女の心は強くはない……むしろ、嫁達の中でも繊細な方だ。

 そして、彼自身が、それを心から望んでいるわけでもないと思う。


 しかし……。


 優は考える。

 果たして、前田拓也という傑出した人物を、自分たちが独占してしまっていいのだろうか、と。


 前田邸にて、拓也の六人の嫁たちが集まって、話し合いをした。

 他の新妻たちも、皆、考えることは同じのようだった。

 そして優は、切り出した。


「……私が、説得します。二人を、なんとしても助けてあげてくださいって……」


 と――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「身売りっ娘」書影
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ