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(番外編) 山賊団の若き首領

 松丸藩の山奥に潜む山賊団『山黒爺(やまんぐろじい)』は、現在、三つの勢力に別れている。


 もともとは一つの集団で、その首領の通り名が『山黒爺』であり、それがそのまま集団の名前となっていた。


 つまりは、それぐらいその首領のカリスマ性が強かったことを意味する。

 集団の人数は、百に迫っていたという。


 そして彼らは、山賊としては比較的「真っ当」であり、余程のことがない限り旅人を殺傷するようなことはなかった。


 また、金品を奪うと言っても、旅人の身ぐるみ剥がすほどではなく、比較的金を多く持っている者からは一定の額を、そうでないものからは、その者の持つ金の半分だけを奪い、見逃していたのだという。


 そしてその首領は、ならず者達をよく統制していた。

 配下の者達からは慕われ、暴走する者もおらず、最低限生きていくことができていたのだ。


 松丸藩も、ある程度彼らの活動を黙認していたという。

 しかし、その首領が、数年前に病により急死した。

 まだ四十歳過ぎだった。


 するとその後継の座を巡って争いが起こり、また、その方針の違いによって『山黒爺』は三つに分裂してしまったのだ。


 一つは、前首領の右腕として活躍していた、同じぐらいの歳の男で、彼は「赤目」と呼ばれている。


 赤目は前首領の方針を引き継ぎ、殺生を嫌い、地味ながら組織をよくまとめ、過去の実績からも正当な後継者と目されていた。


 しかし、それを良しとしない者もいた。

 その一人が、「ムジナ」とあだ名される狡猾な人物で、彼は二十人ほどの仲間を引き連れ、もっと「贅沢な生活」をするためにどこかへ移動してしまったという。


 そしてもう一人、「赤目」と真っ向から対立し、もっと過激な方向に導こうとする男が現れた。それが、「シナド」と呼ばれる、まだ十代の青年だった。


 彼の元には、若手を中心に三十人近い者が集った。

 その集団の特徴は、「徹底的な略奪」だった。


 旅する商人に出会えば、身ぐるみ剥がす。

 抵抗されれば殺す。


 農村を襲えば、持ち帰られるだけ持ち帰る。

 そこでも、抵抗する者は皆殺し。


 自分たちが反撃される可能性もあるが、その分、得られる成果は大きく、派手に暴れ回っていた。

 それだけの横暴が許され、そしてその若さで集団の頭として持ち上げられる理由。

 それは、彼が大柄で圧倒的な剣の腕を備えていたこと、そして前領主の実の息子であったことが要因だった。


 ――今、盗賊団「山黒爺」の分派の一つが、今後の活動について話し合いを行っていた。

 拠点の一つである廃寺に、全員が集まっている。

 すでに夜は更け、蝋燭ろうそくの明かり一つが灯るのみだ。


「……奥宇奈谷の方から、奇妙な音だと?」


 頬に、まるで雷光が走ったかのような疵のある青年が、いぶかしげにそう聞いた。


「ああ、まるで岩を砕くような轟音……ひょっとしたら、例の崖崩れからの復旧が進んでいるのかもしれねぇ」


 幾分年上に見える小太りの男がそう返す。


「……そうするとやっかいだな。また刀剣の類いが、周辺の村に流出するやもしれぬ。今はまだ表だって刃向かってきていないハグレ達も、勢いづくだろう……それにあの村の男達が本気で打って出てきたなら、手強い」


「そうだな……あの周囲の村には、今まで無茶しすぎて、恨みも買っているだろうしなあ……」


「……そういえば、変な噂も耳にしたな。奇妙な商人が、奥宇奈谷を目指していたとか……そいつが関係あるのか?」


「いや、そいつは分からねえ……けど、奥宇奈谷への道が元通りになるのは近いかもしれねえな……」


 小太りの男の言葉に、周囲の者達は表情を引き締めた。


「……そうなれば、いっそ、俺たちの方から攻め込むか?」


 大柄な青年の言葉に、全員、ぎょっとして、その特徴的な疵のある男……シナドの方を見た。


「手っ取り早く奥宇奈谷を俺たちが落としてしまえばいい。あの村には、器量の良い娘が揃っているっていう噂だろう」


 自分たちの首領の言葉に、男達は苦笑いを浮かべる。


「……しかし、さっきも言ったように、奥宇奈谷の男どもは強いっていう話じゃないですか。ハグレたちも黙っていないでしょうし……」


 この中でも若手の、細身の少年がそう口にした。


「俺が直々に打って出る。おまえたちは攪乱だけしてくれればいい……それとも、俺がやられるとでも思うか?」


「い、いえ……若が自ら出るんでしたら、もう勝ったも同然です!」


 少年の怯えたような台詞に、男達から笑いが漏れた。


「俺の本気を見せてやるよ……ただし、娘達は俺が最初に楽しませてもらう。それに、気に入った者がいたら、ずっと俺の傍らに置く……それで文句ないな?」


 シナドが、周囲を睨むようにそう言った。


「……好きにするがいいさ。おめえに敵う奴なんか、そうそういねえ……奥宇奈谷の南雲だって、おめえの相手にもならねえだろう。ただ……」


「……ただ?」


 小太りの男の言葉に、シナドがピクリと反応する。


「……そうだな、阿東藩の仙人と言われる奴だけは、警戒しねえといけねえな……松丸藩の役人とつるんでいるっていう噂だしな」


「……神出鬼没で、強大な仙術を使い、海賊団を滅ぼしたっていう例の奴か……前田拓也っていう名前だったな……ふっ、面白い。俺がそいつの首、刎ねてやるよ」


 シナドのおぞましい笑みに、一同、寒気すら感じていた――。

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「身売りっ娘」書影
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