表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
307/381

第306話 反乱や一揆の危惧

 南雲さんに、俺に危害を加える意思はない……それは俺も如月も理解していた。


 しかし、ある程度人の心が読める如月でも、それは何か企みがあるのか、やましいことを企てていないか、ウソをついていないか、が見分けられる程度で、考えていることがすべて分かるわけではないのだという。


 そしてこの時の彼は、


『何か重要な事を、俺と二人だけで話したいと考えているようだ』


 と感じたという……それも、かなりの覚悟を決めて。


 その決意の迫力に、如月は気圧された。

 弟子である少年の八雲も、滅多に見ることのない気迫であり、声が出せなかったという。


 しかし、俺は気圧されなかった。

 何か重要な考えがあるのだと、その思いを受け止めた。


 南雲さんによれば、これまでの言動と、自分がかけた威圧に全く動じぬ俺を見て、この者ならば信用して大丈夫そうだと判断したのだという。


 そして、如月と八雲は外に出た。

 俺と南雲さんの二人っきりだ。

 その状況になったところで、さらに南雲さんは周囲を警戒し、他に人の気配がないことを確認した。


「……拓也殿、正直に話してくれ……あの小屋で、何を見た?」


「想像より遙かに数の多い、刀剣や槍の類いを見ました」


「それを見て、どう思った?」


「……なぜこんなに数が必要なのか、と思いました」


 俺は正直に答える。

 ここで変にごまかすと、追求されてボロが出て、より困窮する事態になってしまう。


「ふむ……しかし、それを他人に話すつもりはない、ということだったな」


「はい。余計なことを言って、余計な疑いを持たれるべきではありません」


「ほう……俺が心配していることは分かっているようだな」


「そうですね……ただ、別の意味で心配ではあります」


 ここまで、表面上の言葉には表れていない駆け引きが続いている。

 どこまで理解しているのか。

 どこまで相手から情報を引き出せるのか。

 それも互いの魂胆を、なるべく悟られないままで。


 しかし、俺にとっては最後の事項は、不要だった。


「別の意味、とは?」


「あれだけの武器が、この奥宇奈谷に、災厄をもたらすことにはならないか、ということです……どこかに売却するつもりだったとしても、あるいは、この奥宇奈谷を守るためだったとしても、多すぎる武器は不幸を招く恐れがあります」


「……この奥宇奈谷を守るためだとしても?」


「そうですね……俺がこの村を案内してもらい、あちこち見て回った限りでは、この村は天然の堅固な城、と言っても差し支えないものでした。三方を険しい崖に囲まれ、残る一方も深い谷に、かずら橋がいくつか架かるだけです。万が一、敵が攻め込むような事態になったとしても、その『かずら』を切って落とせば足止めになる。それに、そこに続く道も細い。数人の猛者が門番を務めるだけで、それ以上敵が侵入してくることは防げるでしょう……もっとも、そんな『敵』が存在するかどうかは分からないのですが。だとすれば、あれだけの武器を作成しているのは、明らかに生産過剰だ。まるで、どこかに攻め込んでいくかのように思えてしまいます」


「……やはりな……おまえは見かけによらず、胆力だけでなく頭も良さそうだ」


 それってつまり、俺は気弱で頭が悪そうな外見をしているっていうことだろうか。

 いや、しかし、そんなことを気にしている場合ではない。


「まさか、本当に攻め込んでいくつもりではないですよね?」


「……ああ、そんなことはない。どこに、何の目的で攻め込むというのだ?」


 南雲さんは、表情を変えずそう言った。

 しかし、それが本心であるかどうか、判断がつかない。


 如月がいれば、あるいはウソをついているかどうか判断できたのかもしれないが……俺には、「怪しい」ぐらいにしか思えなかった。


「でしたら、安心しました」


 俺は、そう返事をした。

 それが本心から言った言葉なのか、今、相手にも確認するすべはない。


 どのみち、俺が他言することはないと宣言しているし、それに関しては如月のお墨付きもある。また、俺に「どこかに告げ口する」メリットがないのも事実だし、そのことは南雲さんも理解しているだろう。

 彼は、ニヤリと笑みを浮かべた。


「……前田拓也殿、か……なかなかに切れ者で、くせ者のようだな。まあ、今後は取引する機会も増えるだろう。おまえのような者が訪れるのを、俺は何年も待っていたのかもしれないな……」


 それに対して、俺は満面の笑みで、


「今後ともよろしくお願いいたします」


 と答えた。

 俺はなんとか、彼の懐に入り込むことに成功したようだ……が、その後の言葉は意外なものだった。


「それともう一つ、言っておきたいことがある……この村の『しきたり』と、如月についてだ」


 彼の口から、如月について具体的に話が出てくるとは、予想外だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「身売りっ娘」書影
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ