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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第17章 漆黒の幽霊船
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第270話 どんな手を使ってでも

「いくらなんでも、単身とは、さすがにそれは無茶だろう……死ぬ気か?」


 海留さんが、呆れたようにそう言ってくる。

 それに答えたのは、三郎さんだ。


「いや……あんたも見ただろう? 拓也さんや、嫁の一人であるお優が、一瞬で姿をかき消す様を。今まで、拓也さんはそいつでいくつもの奇跡を起こしている。一人で乗り込むと宣言した以上、何か目論見があってのことだ……つまり、俺やあんたが同行しても、足手まといにしかならないってことだ」


「……確かに、仙術が凄いのは認める。だが、それで本当に薰は助けられるのか?」


 その答えに、俺はわずかに顔をゆがめる。


 潜入だけでも、危険を伴う。

 そして運良く彼女を見つけられたとして、確実に助け出す手段が、思いつけていなかった。


 俺の体重は、着ている服も含めて、約六十キロ。それに対してラプターの転送限界重量は、約八十キロ。

 いくら薰が小柄と言っても、体重は二十キロを上回っているはずなので、同時に時空間移動することはできない。


 体重四十キロを下回る優ならば、おそらく薰と一緒でも現代へ移動することができる。しかしそのためには、優を敵の本拠地に潜入させる必要がある。

 いくら何でも危険過ぎる。それでは本末転倒だ。

 だから、俺が単身で潜入し、なんとしてでも薰を救出しなければならないのだ。


「……今すぐに、確実に、安全に助け出す方法があるわけではありません。けれど、何も行動しなければ、薰は酷い目に遭ってしまうだけだ。まずは潜入し、状況を確かめ、そして具体的な作戦を練る。最悪、潜入するだけでも、次に繋げることができるんだ……俺は絶対に、どんな手を使ってでも、薰を助けてみせる!」


 俺はもう一度、自分を鼓舞するようにそう宣言した。


「……それともう一つ……もし、助けるのが遅れて、薰が心と体に酷い傷を負ったとしたならば……俺が責任を持って、一生彼女の面倒を見ますっ!」


 それだけ言い放って、俺はゴムボートの、今付いている船外機の取り外し、そして優が新しく持ち込んだ電動船外機の取り付け作業に移った。


 他にも、揃えなければならない荷物もある。

 優や他の嫁達にも指示を出しながら、手分けして作業に取りかかった。


「……なんだ、この変わり様は……宴の時とは、全然違うじゃねえか……仙術の技も、拓也殿の気迫も……」


「……ワシも驚いた……これほどの内に秘めるものを持っていたんじゃな……」


 海留さんと徹さんが話している。

 俺としては、特に変わったつもりはないが、二人にはそう映ったようだ。


「……これが、前田拓也の本当の姿ですよ。私達が心酔する、大仙人です」


 彼等の動揺を抑えるように、静かな口調でそう話しかけているのは、嫁の一人である涼だ。


「本当の姿、だと?」


「はい、そうです。懇意になった娘が窮地に陥ったとき、この人は、自分の身の危険を顧みず、どんな手段を使っても助け出そうとするのです」


「……どんな手段を使っても、か……先程から、拓也殿も何度かそう話しておられましたのう……ワシらは、とんでもない勘違いをしておったのかもしれん。ワシらが噂に聞いておったのは、『前田拓也という男は、気に入った女子(おなご)は、どんな手段を使っても自分の物とする』じゃった……それでなぜ、これほど慕われておるのかと疑問に思っておったが……『どんな手段を使っても』とは、そういうことじゃったか……」


 徹さんが、しみじみとそう話した。


「……しかし、薰のどこに、自分の命をかけてまで助け出そうとする理由があるんだ? いや、むざむざ死ぬつもりでないことは、目を見れば分かる。けれど、相当危険を伴うこともまた分かるのだ……薰に本気で惚れ込んでいるというわけでもないだろう?」


「いえ……理屈じゃないんです。拓也さんは……前田拓也は、そういう人。さっきも申し上げましたとおり、自分が懇意になった娘が窮地に陥っている時に、決して黙って放っておけない人。それが、父や、私や、他の嫁となった娘達が心から惚れ込んだ、この人の人柄なのです」


「……父?」


「はい……私の父は、阿東藩主・郷多部元康です」


「なんだと? ……そうか、噂には聞いていたが、あんたが阿東藩主の娘だったか……」


 海留さんの、驚きを含んだ声が聞こえてきた。


「はい……けれど、今は前田拓也の嫁の一人です。そしてその事を、誇りに思っています……」


 涼の最後のひと言は、涙声になっていた。


「……なるほどな……ワシらは、やっぱり大変な思い違いをしておった。前田拓也殿は、ワシらとはそもそもの器が違う。仙人としてはもちろん、これだけの者に慕われるのは、それだけの、人間としての器がはるかに大きいんじゃ……だからこそ、将軍様にも一目おかれておるのじゃろう……」


 徹さんの、そんな声も聞こえて来た。


 いや、そうじゃない。

 俺は、そんな大層な人間じゃ無いんだ。


 海賊の大軍を目の前にして、尻尾を巻いて逃げてきた。

 もう一度、潜入するにしたって、ラプターの緊急脱出機能という命綱があるからこそ、だ。


 だが、それを言ったところで仕方がない。薰を本当に助けられるのか、と不安にさせてしまうだけだ。

 今、彼女の救出のために、知恵を絞り、全力を尽くす……俺が出来る事は、ただそれだけだった。

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「身売りっ娘」書影
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