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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第17章 漆黒の幽霊船
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第256話 黒鯱の正体

 玄関で出迎えてくれたのは、目下子育て中の優だ。

 娘の舞は、今は熟睡中とのことだった。

 他の嫁達は、それぞれ町で仕事をしている。


 彼女の案内で、全員客間に集まる。

 広さは十二畳ほどで、長い卓があり、みんな一度に座れる。


 メンバーは、阿東藩側が俺と三郎さん、お蜜さん、それにお茶係の優。

 そして松丸藩からの漂流者である、徹さんとその息子の登さん、さらにその娘の薰。

 徹さん、登さんと優は初対面だったが、それ以外はもうすでに全員顔見知りだ。


 その徹さん、登さんは、優の容姿の美しさを褒めてくれ、優は謙遜しながらも礼を言っていた。

 その様子に、薰は少し浮かない表情。

 ひょっとしたら、自分と比べて『女性らしい』優に、劣等感を感じていたのかもしれない……薰だって、きちんと化粧をして振り袖を着れば、相当な美少女になるのにな。


 お客様用のお茶とお茶菓子を、親子三人が絶賛してくれたところで本題に入る。


「拓也殿。貴殿は、我々の正体を、どこまで把握しておられる?」


 登さんが、真剣な表情で早速切り込んできた。

 俺は三郎さんと顔を見合わせ、一度頷いて、そして全て話すことにした。


「そうですね……まず、貴方達が、『黒鯱』と呼ばれる、海賊のみを襲撃する最強の海賊船と深い繋がりがあるということ。そして、『黒鯱』が阿東藩と繋がりを持ちたがっているということ。そういう意味で、商人でもあり、また阿東藩主と懇意にしている俺を足がかりにしようとしていること。そのために、俺の人となりや、仙人と呼ばれることの真偽の把握、阿東藩における影響力なんかを調査しに来た……こんなところでしょうか」


 その俺の回答に、三人とも、目を見開いて驚いた。


「いや、これは……そこまでお見通しとは恐れ入りました。大筋ではその通り、我々は『黒鯱』の乗り組み員ですじゃ。先日の海賊『蛇竜』の者達、そして『黒鯱』の噂は、他藩でも暗に知られている情報。拓也殿が他の藩と交流があるのであれば、気付いておられるかもしれぬと思っておりましたが……さすがですな……」


 確かに、松丸藩の重鎮などからそれらに関する情報は得ていたが、それだけではない。

 徹さん、登さん親子の密談を、三郎さんが盗聴していたからこそ得られた情報もかなりあるのだが、それをあえて言う必要はない。


「……それでは、『黒鯱』についてはどれだけご存じか?」


 登さんが、やや警戒を含んだ表情でそう尋ねてきた。

 無理もない、彼等の想像以上に俺が情報を掴んでいたのだ、不気味に思うだろう。


「『黒鯱』に関しては、そこまで多くの事は調べられていないのですが……かなり大きな船で、厳密には、幕府によって製造を禁止されている『軍艦』に当たる。非常に性能が高く、船足、旋回能力、時化(しけ)に対する強さなど、菱垣廻船(ひがきかいせん)などとは比べものにならない。その戦闘能力も、並の海賊船など一撃で撃沈させることのできる大砲を、少なくとも二門、積んでいる。敵を威嚇するためなのか、あえて真っ黒な塗装を施している。わざと帆を破れているように見せかけるために黒い布きれを垂らせて、偽装しているときもある。数十人が常時乗り込んでいて、外部との荷の受け渡しなどは小船を使う。性能と運用に関しては、こんなところでしょうか」


 そんな俺の回答に対して、徹さんは、


「ふむ……」


 と頷くだけだった。


「……よくそれだけ調べられましたな。その通り、我らは常時沖合に存在し、海賊団を倒す最強の船、という自負を持って活動している。商船を襲うことなど決してない。そのために、我らは正義、という信念をもって活動しておる。まずそこをご理解いただきたいのですじゃ」


「はい、それは俺もそう思っています。もし貴方達が悪党の集まりだと思っていたならば、こうして俺の本拠地に招待することなどなかったですから」


 俺は笑顔でそう返した。

 それに対して、彼等は幾分、安堵した表情になった。


「しかし、まだ完全に信用しきっているわけでもない」


 俺の一言に、また親子三人に緊張が走る。


「貴方達の正体を、完全に把握しているわけでもないのです。さっき、俺が『黒鯱』について話したのは、あくまでも船の性能と、その運用のみだ。そんな行動をしている背景や、真の目的については、まだ何にも話してはいない」


 俺はさらに切り込んでいく。


「……それでは、それらの事について、拓也殿はどのようにお考えか、話して頂いてよろしいか?」


 徹さんが、厳しい表情のままそう告げてきた。


「……これからお話しすることは、噂話の類が多く、確証が得られているものでもありません。それを前提に聞いて頂きたいのですが……」


 俺はそう前置きした上で、話を続けた。


「さきほど話した通り、『黒鯱』は、本来幕府が禁止している軍艦のはずだ。それを建造することができたということは、それなりに巨大な組織が必要だったはず。それこそ、『藩』単位の。そして、それを実行した、いえ、実行してしまった可能性のある藩が、ひとつだけ存在します。十数年前に、幕府に『謀反の疑い有り』という理由でお取りつぶしになってしまった、『海里藩』……あの『黒船』は、その海里藩で密かに建造されていた軍艦ではないですか?」


 核心を突いたであろう俺のその一言に、三人は、真剣な眼差しで、俺の目を見つめていた――。

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「身売りっ娘」書影
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