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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第1章 身売り少女の争奪戦
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第二十三話 番外編 その2 「帝都大学准教授」

本編であまり目立たなかった叔父の話です。

他の話と系統が異なりますが、後々重要な話になる……かもしれませんので、読んでいただけましたら幸いです。


帝都大学准教授の叔父は、2019年の5月、デジタル腕時計型タイムトラベル発生装置「ラプター」という世紀の大発明を行った。


 しかし、体重が九十キロを軽く超える叔父では重量制限に引っかかり、仕方なく俺が代役として三百年前の過去に飛んだ。それが全ての始まりだった。


 よほど悔しかったのか、叔父は二ヶ月間、過酷なダイエットに打ち勝ち、八十キロギリギリにまで体重を減らしてきていた。

 しかし、あともう少しが落ちない。それでこの数日、苦しんでいると言うことだった。


 叔父には、江戸時代の小判を売却してもらうことなど、大人でないとできないことをしてもらっている。

 分け前はもちろんあるのだが、自分自身が過去に行けないのは、ちょっと可哀想だなと思っていたので、彼の執念には感心させられた。


 そんな叔父に、「身売りっ娘」救出のために勝手に二十両近く払ったことを正直に告げると、

「なんでそんなことを相談もなく決めたんだ!」

 と怒っていたが、彼女たちの写メを見せると態度が一変、

「なにがなんでも救いだそうっ!」

 と協力してくれることになった。


 ちなみに、叔父は三十代後半で、独身。

 そんな彼が特に気に入ったのが「凜さん」のようだった。

 たしかに、彼女は叔父が好きそうな妖美な雰囲気を醸し出している。


 もう高校も大学も夏休みに入っているため、時間には若干余裕がある。

 三日後、「見学」との名目で彼の研究室を訪れ、叔父の容姿の変化に驚いた。


 ぼさぼさで寝癖のついた髪型は美容院で綺麗にカットされ、無精ひげは全て剃られ、分厚い丸メガネはコンタクトに変えられていた。

 百八十五センチの高身長、体重も七十八キロにまで落としていた。

 ダイエットにより絞り込まれたその筋肉質な肉体。

 もともと顔の作りはまともで、ダイエットと美容院の効果で、まるで俳優の「福○○○」の様にカッコ良くなっていたのだ。

 本気で過去の世界で凜さんを口説くつもりだな、と俺は悟った。


 俺のアドバイスで「着物」に「わらじ」、髪は後でポニーテールのようにまとめる総髪にする。むろん、それでもかっこよさはまったく変わらなかった。


 ラプターを返すように迫られ、ちょっと気が引けたのだが、本来の持ち主に「少し行ってくるだけだから」と言われれば断ることはできない。

「ラプター」を身につけた叔父は、早速ボタンを押した。


「……おかしいな、エラーが出る……二号機、三号機と同じ症状だ……」

 叔父はラプターを複数台開発していた。

 しかし、どれも一号機のようにはタイムトラベルできていなかったのだ。


 まさか壊れたのでは、とぞっとしたが、俺が腕にはめるとエラーは出ず、無事江戸時代に移行できた。


 三時間後、研究室に戻ってきた俺を見た叔父は、

「君だと荷物を持って八十キロでも移動できて、俺だと七十八キロでも移動できない……実に面白い!」

 そう言ってなにやら研究に没頭し始めたのだ。


 さらに翌日、気になって叔父の研究室に寄ってみると、ホワイトボード全面に数式がびっしりと書き込まれていた。徹夜で考えていた様だ。

「実に残念な結論に達した……」

 がっくりとした表情だ。


「拓也……少々変な質問だが、卵子が精子と結合して受精卵となるとき、何億もの精子の中でたった一匹しか受け入れられないのはなぜだと思う?」

 本当に変な質問だ。この極端な発想の飛躍が「変人」といわれるゆえんだが。


 俺が「わからない」と答えると、なぜか深く頷き、

「受精卵は一匹受け入れた時点で、防御シェルターのような機構を発動し、それ以降の精子の進入をシャットアウトするのだ。つまり、最初の一匹は特別な一匹という事になる」

 ……なんとなく、分かったような、分からないような。


「どうも、時空間移動、つまり『タイムトラベル』においても、同じ現象が起きていると推測される。つまり、三百年前に初めて移動した君は、その時空間にとって、特別な一人となったのだ。それゆえ、君だけがラプターを扱えると結論づけられる」

「……俺だけが?」

「そうだ。私は……少なくとも、君のように三百年前の世界にはいけない」

 ……なんとも可哀想に思えてしまった。


「第二周期の六百年前には行けるかもしれないが、問題は、その時代に凜さんがいないということだ……」

 ……そこが問題なんだ……。


 そうやって落ち込んでいるところに、コンコン、と研究室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 叔父がドアを開けると、五人の女子大学生がそこにいた。

 内二人は、なぜか黄色い歓声を上げている。


「あの、先生、私たち論文を書いているんですが、分からないところがあって、ちょっとアドバイスいただければと思って……あれ? お客様、ですか?」

「ああ、気にしなくていい。彼は私の甥っ子で、高校生だ」

「甥っ子さん? そういえば先生に似て、かっこいいですねっ!」

 ……俺はその言葉を聞いて、ピンと来た。


 彼女たち、叔父の容姿の変化に、敏感に反応したのだ。

 これは幸いだった。凜さんに会えなくても、こっちでいくらでも彼女ができそうだ。


「その……お邪魔じゃないですか?」

「いや、大丈夫。彼との『タイムトラベル』についての考察は、今、終わったところだ」

「ええっ、タイムトラベル? 面白そうっ!」

 女性陣はキャアキャア言っている。


 そこで、人数分椅子を用意し、タイムトラベルについてのミニ講義が始まることとなった。

 一応、俺も参加している。

 叔父はやや緊張の面持ちで、講義をスタートした。


「君たち、少々変な質問だが、卵子が精子と結合して受精卵となるとき、何億もの精子の中でたった一匹しか受け入れられないのはなぜだと思う?」


 ……。


 叔父には当分、彼女ができそうにない。



福○○○さん、スイマセン m(__)m

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