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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第14章(番外編) 捕らわれし姫君
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番外編14-11 兄妹

「……紅姫様、あなたは今、混乱していることと思います。突然現れた男の人が、自分の事を『仙人』と名乗り、見たことも無いカラクリを使って……彼の嫁を名乗る人たちが、次々にあなたに言葉を送ったのですから……最後には『鏡の精』である私が現れた。そして、自分の事を阿東藩の姫と言っている……とても信じられるものではないでしょう」


 黒い板に映る、引きつった笑みを浮かべるその娘の言葉に、紅姫は目を見張ったまま頷く。

 そう、信じられるわけがない。なんの根拠も示さないまま、一方的にそう語っているだけなのだから……。


「……ですので、せめて、私達の言葉が、少しでも信じて頂けるよう、この二人にも協力してもらうことにしました……私達が、無理にお願いしました。なので、もし気に障るようでしたらごめんなさい……」


 そう彼女が言葉にして、画面が切り替わる。

 すると、そこには小料理屋……『前田美海店』の店内が映し出され、質素な着物を来た男の子と女の子が登場した。


「……宗冬、露!」


 紅姫は、さらに大きく目を見開いて叫んだ。


「紅姉様、お久しぶりです、宗冬です。ずっと会えなくて、(ふみ)すら届けてもらうこともできず、ご心配をおかけしました……ですが、私と露は、阿東藩の前田拓也様に救って頂き、今は井原源ノ助様の道場でお世話になっています」


 まだ満年齢で十二歳ほどの子供なのだが、その男子の言葉はしっかりとしたものだった。


「紅姉様……会いたかった……私達、今、ずっと元気にしてます……」


 女の子が、涙目でそう言葉を出す。


「……露……生きていたのね……本当に、元気そう……」


 露は、満年齢で約十歳の女の子だ。

 この二人、元『岸部藩』藩主の甥と姪であり、つまり、紅姫にとっては従兄弟(いとこ)に当たる。

 『松丸藩』に吸収合併される際、事実上の他国追放となった悲運の兄妹だ。

 あてもなく歩き続け、偶然『前田美海店』の前でお腹を空かせているところを拓也に保護されたという経緯があった。


「私達は、仙人である『前田拓也』様に助けていただき、衣・食・住まで用意してくださいました。そのご恩に報いるために、武芸に、家事手伝いにと精進しています」


 兄の宗冬が、相変わらずしっかりとした口調でそう語る。


「……なぜ、私達を前田様が助けてくださったのか、未だに分からないでいます。だって、前田様の奥様方に聞いても、『あの方は、そういう方だから』としか、答えていただけないのですから……でも、皆さんの明るく、笑顔で過ごしているのを見て、本当前田様は、そういう、徳のある仙人様なのだと考えるようになりました」


 ここでようやく、彼は笑顔を浮かべた。


「今、私と露は、幸せに暮らしています。前田様に助けて頂かなければ、生きてはいませんでした。そんな恵まれている日々を送っている私達ですが、今度は紅姉様が、窮地に陥っていると伺いました……」


 宗冬は表情を曇らせる。


「紅姉様、お願いです……その方を……前田拓也様を信じてください。必ず、紅姉様にお力を貸していただけます。私と露の、心からのお願いです……」


 そう言って、彼は深々と頭を下げる。

 隣の露も、


「お願いします……」


 と、けなげに、深く、深く頭を下げた。


 ――そこで映像は終わった。


「宗冬、露……良かった、生きてたのね……」


 紅姫は、もう何も映っていないタブレットをずっと見つめたまま、泣きじゃくっていた。

 それを見た拓也もまた、涙をにじませていた――。


 ひとしきり泣いた後、紅姫は少し自分を取り戻したのか、拓也と、手鏡を通じて涼に質問をいくつも投げかけてきた。


 なぜ、この場所に拓也は現れたのか。

 どうやってこの建物の中に入れたのか。

 何が目的なのか。

 そして、『宗冬』と『露』の兄妹に、どういう経緯で会ったのか……。


 拓也と涼は、一つずつ、丁寧に話した。


 この場所に現れた理由は、紅姫を助けるためであること。

 どうやって現れたのかに対しては、『仙術』としか言いようがないこと。

 目的に対しても、彼女を助けだすことだけしか考えていないこと。

 そして、二人の兄妹については、追放され、さまよっていたところを偶然助ける形になったこと……。


 細かく、丁寧に説明していく。

 そして、


「どうして、こんな物を私に見せたの?」


 という問いに対しては、


「……時間が無くて、俺の事を少しでも信じてもらえる方法が思い浮かばなくて……みんなに相談したら、本当にみんなが、俺の事を信じてもらおうと……俺なんかが、どれだけみんなに信頼されているのかを説明したいって……それで、こんな……」


 拓也は、胸がいっぱいになって……うまく言葉を繋げられないでいた。


「……紅姫様……拓也さんのお嫁さん達、みんな、泣いていたでしょう? 限られた時間の中で、ありったけの拓也さんへの感謝、信頼、思いを伝えようとしたら……詰め込みすぎて、みんなそうなってしまった。それぐらい、本当に拓也さんの事を思っているんです。……たしかに、これだけで、今日会ったばかりの拓也さんの事を信じてって言っても、それは無理だと思います。でも、でも……それしか、思いつかなかった……」


 涼の声は、必死で……そして涙声でもあった。


「宗冬様も、露姫様も、すぐに協力してくれました。それは、拓也さんが信頼されているから……今すぐに、とは言いませんが、もうあまり時間はありません。私は、紅姫様に決断してもらいたいんです……拓也さんと一緒に、この寺を抜け出すということを」


 手鏡から聞こえてくる、涼姫の、必死のその言葉に、紅姫は左手を口に当てて驚いた。


「……紅姫様、もちろん、今日、今すぐに信じてもらえないことは分かっている。でも、それでも、信じてもらいたいんだ……そして、涼の言うとおり、俺と一緒に、ここを抜け出すことを決心してもらいたい……よく考えて、答えが決まってからでいい。その手鏡を使って、涼に呼びかけて欲しい。そうしたら、俺は君の事を迎えに来る。そして、命がけで君の事を守りながら、脱出させてみせる」


 拓也の言葉も必死だったが、紅姫は、まだ、よく理解ができていないようだった。


「……もし、もう一度……たとえば、あの二人の兄妹の様子が見たいようだったら、いつでも言ってくれればいい。また二人の様子を録画……つまり、この板の中に写して、持ってくるから」


 拓也はそう言って、笑顔を見せた。

 紅姫は、まだ、相当戸惑っているようだった。


「……お願い……私を一人にして……よく考えさせて……」


「……分かった」


 ……彼女を説得する為に、この日出来ることは全てやった。

 拓也は、笑顔のまま、その姿を、紅姫の元からかき消したのだった――。


※『宗冬』と『露』の兄妹は、スピンオフ作品『天女の店のお品書き』の『ホットケーキ』に登場していますので、もしお暇がありましたら覗いていただけましたら幸いですm(_ _)m。

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