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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第6章 改革開始と未来無き巫女
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第百六話 使命

 この日は、叔父から『ラプター』について大事な話があるということだったので、優にも俺の部屋に来てもらっていた。


 叔父は話を続けた。


「『ラプター』が使用できるようになるのは、『時空の神』から何らかの使命が与えられている者のみ……そんな気がするんだ……」


 ……正直、俺は「へっ?」と思った。

 天才物理学者と称される、帝都大学准教授。

 今まで数々の『超常現象』の謎を解き明かし、難事件を解決に導いてきた実績もある。

 そんな叔父が、『神』という単語を使ったことに違和感を覚えたのだ。


「……私は『ラプター』の開発者であるにも関わらず、江戸時代に移動することができなかった。体重制限に引っかかり、そしてダイエットした後も、『同一時代へは一人しか移動できない』という制約によって……しかしそれは、拓也、おまえには江戸時代において果たさねばならない『使命』があり、そしてそれが私にはなかっただけなのかもしれない……」

 ……なんか心なしか、元気がない。


「そして優君は拓也とは逆に、江戸時代から現代への移動に一発で成功した……これは、君が拓也の『嫁』であることを考えれば当然だ。君も『時空の神』に選ばれたのだ」

「……えっと……あの、そうなのでしたら……光栄です……」


 優も適当に話を合わせるしかできない。

 うーん、叔父さん、一体何があったのだろう。


「君たちの話を聞いた限りでは、『人身御供』とされている二人の巫女は、もともとそういう使命を与えられていたと考えられる。そして私はラプターに改良を加えて、六百年前の室町時代に、ようやく時空間移動することができるようになった。拓也と違って、その時代の人々に当初はなかなか受け入れてもらえなかったが……やがて、変わり者としてだが、住民達と打ち解けることができるようになっていった」

 叔父は現代でも変わり者だけど。


「そのうちに、私も『神の御業』が使えると評判になり……地元の豪族に重用されるようになった。しかし、その時代に深く入り込めば入り込むほど、複雑な時代背景、人間関係に翻弄される……親しくなった者が窮地に陥ったとき、何とかしてくれと言われてもできない場合がある。時には、『ラプター』なんか使わなければ、こんなつらい思いはしなくて済んだのにと考えたこともあった」

 ……それは俺も、何度か体験したことだった。


「……しかし、それでも今となっては、もう『ラプター』の使用をやめることはできない。『時空の神』に魅入られた者の定め……君たちもそうなのじゃないか?」


 確かにその通りだ。いまさら『ラプター』を手放すことなんか考えられない。

 俺はもちろん、優までもが叔父の言葉に同意した。


「……そして、私はある一人の少女を助けたいと考えていた。彼女を救うには、現在住んでいる場所から逃げ出させることぐらいしか方法はない。といっても、その時代に女性一人で逃げられる場所など存在しない。そこで彼女にも、六百年前から現代に移動できるよう設定した『ラプター』を渡したのだが……」


「……えっ、そんなの渡したの? じゃあ、その子が六人目の能力者……」

 確かに、六百年前から移動できる人間はまだ誰も存在していないはずだった。


「いや、彼女は受け取ってはくれたが……使用はしてくれなかった。『自分だけが逃げ出すわけにはいかない』と……彼女は、いわゆる『政略結婚』の駒として、顔も知らぬ別の豪族の元に、嫁に出されることが決まっているんだ……」

 叔父の表情に、悔しさがにじみ出ていた。


 ……なるほど、最近凜さんのことを何にも聞かなくなったのは、室町時代に新しく気に入った女性ができたからなんだ……でも、その娘も自分の元には来てくれない。それでなんか、ナーバスになって、『時空の神』とか『使命』とか、そんな話を持ち出したんだ。

 なんとなく、自分がモテないことの言い訳のように聞こえないでもないけど……。


「……いや、愚痴になってしまったな。結局のところ、彼女は『時空の神』に魅入られなかったということだ。あるいは、それは幸運な事なのかもしれない。君たちも体験しているだろうが、『ラプター』使用者はなかなかに大変な試練を背負う事になる。アキの件では二人共に本当につらい思いをさせてしまったし……だから、これで良かったのかもしれない」


 ……なんか自己解決したみたいだ。本当に、愚痴を聞いて欲しかっただけなんだな……。


 ――と、その時。

 俺達のすぐ脇で、フシュン、という聞き慣れた風きり音が聞こえた。


「……ええっ!」

「……うおおっ!」

「……なっ!」

 三人が、それぞれ一斉に驚きの声を上げた。


 ――そこには、小袖(こそで)の上に打掛(うちかけ)を羽織った、小柄な女性が立っていた。


 赤を基調に、白や金の刺繍の入った、かなり上等な衣装。

 彼女の年頃は、優と同じぐらいか。


 端正な顔立ちで、上品さも感じられるが……なにか切羽詰まったような表情で、きょろきょろと辺りを、そして俺達の顔を見回して……叔父の顔を見て一瞬固まり、次に涙を浮かべて……。


「……氷川(ひかわ)様っ!」

 彼女はいきなり、叔父に抱きついた。


(けい)姫っ、『ラプター』を使うなんて……何があったんだっ!」

「もう、もう氷川様に頼るしかありません……(せい)が、海円(かいえん)衆に(さら)われたようなのですっ!」


「なっ、誠姫が? ばかなっ……君を攫うならともかく、誠姫を攫って何の得があるというのだっ!」


「わかりません……ただ、宇治(うじ)の話では、農民に化けていた海円衆が、道中でいきなり襲ってきたと言うことで……」


「……とにかく、一旦、君たちの時代に戻ろう……ああ、心配するな、ここにいるのは私の親族だ。戻る方法は説明しているから分かるな? ……そう、そこを押すと……」

 瞬間、彼女の体は光に包まれ、そしてその姿をかき消した。


「……すまない、急用ができた。俺は室町時代に戻るっ!」

 それだけ言い残して、彼女を追うように姿を消した叔父の表情は、焦りの中にも、生き生きとした目の光を取り戻しているように見えた。


 ……取り残され、呆然とする俺と優。


「えっと……いまの綺麗な女の子……叔父さんの言っていた方でしょうか」

「ああ、そうだろうな……六人目の時空間移動能力者だ……でも、こんな絶妙なタイミング……間合いで『ラプター』を使用するものだろうか」


「……これも神様の意思、でしょうか……」

「……うーん……それにしても、ツッコミどころが満載だ……まず、本当に綺麗な女の子だった。叔父が惚れるのも納得できる。けど……いきなり抱きつくか?」


「それは……それだけ怖かったのでしょう。それに、叔父さんをそれだけ慕っているのかもしれません」


「……あと、なんか大変そうではあったけど……まるで内容が分からない……」

「それは、仕方ないと思いますけど……何か、私たちにお手伝い、できないでしょうか?」


「いや、それは無理だ。叔父が江戸時代に行けないのと同様に、俺達も室町時代……つまり、六百年前に行く事はできない」

「……これも『時空の神様』の試練なのでしょうか……」

 なんか、叔父の言っていたことが正しいような気もしてきた。


「あと、一つだけ気になったんだけど……なんであの子の転送先、俺の部屋になっていたんだろう?」

「……それは……」


 優も不思議そうな表情。

 うーん、謎だ。


 確かに大学の研究室だと他の誰かに見られてしまう恐れがあるし、叔父の部屋だと、一人暮らしで何日も留守にすることがあるからまずいのかもしれない。


 俺の家なら毎日誰かは帰ってくるだろうし、そうすれば放って置かれることはなかったのかもしれないが……それなら一言、俺に言っておいて欲しかった。


 っていうか、そんな深い考えなんかなくって、なんか過去からの自動転送先って、デフォルトで俺の部屋になっているような気がする。


「……まあ、あれこれ考えても仕方ないな。俺達は、自分達が出来る事をやるしかない」

 そう、まだ阿東藩の改革は、道半ばだ。


 絹織物、綿織物の工場を建設するという大きな目標もある。

 人身御供の完全廃止のためには、河川工事という大事業を成功させないといけない。


 商売もまだまだ、阿讃屋や黒田屋と比べれば駆け出しだ。

 金鉱脈の採掘はまだ始まっておらず、街道整備も急務。

 新しい農作物の栽培技術確立、普及も待ったなしの状況だ。


「私も、お手伝いします……ずっと、拓也さんと一緒に……」

 俺の傍らには、恋人であり、俺と同じ、いや、それ以上の時空間移動能力者である優がいてくれる。


「ああ……こんな旦那だけど、よろしく頼む……」

「はい……」

 こんな短い会話でも、俺は幸せを感じることができた。


「……じゃあ、早速、『前田邸』に戻るか」

 俺がそう言って、ラプターの操作を始めようとしたとき。


「あ、ちょっと待ってください……できれば、別々にじゃなく、一緒に移動したい……」

「一緒に? でも、体重制限に引っかかって……」

「いえ、そうじゃなく、同時にっていう意味です。あの言葉……」


 そこまで彼女が言うのをきいて、「そうか」と声を出した。

 かつてアキを助け出した時。

 緊急時に短い言葉で時空間移動できるように、あの単語を設定したのだった。


 俺は『行き』のための左腕を。

 優は『帰り』のための右腕を。

 笑顔で目を見つめ合いながら、ゆっくりと重ねた。

 呼吸を整え、声を合わせる。


「「バ○ス!」」


 ――俺達二人はその瞬間、白い光に包まれた――。


最終回ではありません、まだしばらく続きます(^^;。


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