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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第6章 改革開始と未来無き巫女
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第百三話 重要人物

『ラプター』の貸与は、特別な儀式、という形で水龍神社の二人の巫女、俺と優、そして宮司の五人だけの密室で執り行われた。


 最初、腕時計型のその小さなカラクリをいぶかしげに見つめ、

「これは何のまじないですか?」

 と疑問を投げかけてきた宮司だったが、優が同じ『ラプター』を操作してその姿をかき消したとき、巫女達と共に驚愕の表情を浮かべた。


 そして数分後、彼女がもう一度姿を現し、その仕組みと、危急の際に『前田邸』へ転送される事、ただし優と違って好きなときに移動することはできないと説明した。


 それでも、巫女の常磐(ときわ)は涙を流して、まだ幼い瑠璃の分まで準備していたことに対して感謝の言葉を述べた。

 瑠璃(るり)も、よく分かっていないようだったが、雰囲気に飲まれたのか涙を浮かべてお礼を言ってくれた。


 そして饒舌に俺達を絶賛してくれたのが、やはり宮司様だった。


「いや、まさか貴方(あなた)方がこのような仙術を授けてくださるとは、正直思うておりませんでした。明炎大社の宮司代理殿はおっしゃった、『想像もつかないような解決策をもたらしてくれる方だ』と。まさにその通りでしたな」


「いや……これはあくまで、応急処置であり、かつ緊急時の非常手段でしかありません。もっと根本的な解決には時間がかかります。どうかそれまでは……不安な思いをさせてしまうかもしれませんが、我々を信じて、巫女達につけた両腕の『ラプター』は、ずっと離さぬようにお願いします」


「もちろん……それにしても、この『らぷたー』というカラクリ……じつに見事なものですな」


 ラプターは、市販のデジタル腕時計をベースに作成されているため、通常時は液晶の数字が秒単位で変化している。しかもこの二人の巫女でほぼ同じ模様なのだから、この時代の人にとっては、それだけで『仙界の道具』と言って信じてもらえるものだろう。


 防水性、耐衝撃性にも優れるので、一日中身につけていても問題ない。

 むしろ、どんな事があっても絶対に離さないようにと念を押したぐらいだった。


 そして危急時に『神隠し』が行われる事は、この五人だけの絶対の秘密だった。

 ――こうして俺達は、ようやく雨の日でも安心して眠れるようになった。


 『忍』の三郎さんが前田邸を尋ねてきたのは、その数日後だった。


 内容としては、今回の『巫女を助ける』という依頼をしてきた藩の役人から、お褒めの言葉を頂いた、というものだった。


 ただ、まだ根本的な解決はしていないらしいので、引き続き任務に当たって欲しい、とも付け加えられた。それでも、途中の報酬としては破格の『銀五十匁』を頂いた。


 これは『一両』に相当する価値。まあ、移動にかかった経費も含まれるらしいが……宮司様が、よっぽど喜んでくれたのだろう。


「なあ、拓也さん……あんた、一体何をしたんだ?」

「いや……ただ、二人の巫女が安心して暮らせるよう、ちょっとした助言を行っただけですよ」


「……ふうむ……拓也さん、あんたもちょっとは成長したようだな。俺にも核心部分を話さないとはな」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる三郎さん。


「いや、そんな、誤解です。実際、根本的な解決にはまだまだ時間がかかる。本当に大したことはしていないんです」

「……なるほど、そういうことにしておこう。それに、その用心深さは今後ずっと必要だ。あんたは、自分が思っている以上に大物になっている」


「へっ……俺が?」

 三郎さんの意外な言葉に、間の抜けた声を出してしまった。


「ああ。まず、あんたはこの阿東藩の中でも最高特権を持った商人だ。これだけでも凄いことだが……」


 確かにそうかもしれない。けど、それはこの時代では極めて珍しい、大粒で丸い真珠を大量に持ち込んで、驚かせたからだ。


「同じく最高特権を持つ『阿讃屋』、『黒田屋』との親交もある」

 それはその通りで、『阿讃屋』とはずっと以前から『少女たちの仮押さえ』や『鏡の取引』を行っていて気心が知れている。


 黒田屋とは一時、優を取り合って激しく争い、セリの土壇場で逆転した経緯があるが、その後に主人の脚気(かっけ)の治療法を教えてあげ、それが完治して以降は良好な関係を築いている。


「地元の漁民達にも顔が広い」

 うん、これは海女さん達に宝探しを手伝ってもらったり、店を出してからは新鮮な魚を直接卸してもらったりしているから当然だ。


「名物料理店を出して、『食い物通り』が活気づいた」

 これは単に俺が儲けようとして、その結果人が集まるようになっただけだ。


「藩主様とも面識があり、その信頼も厚い」

 うーん、これは会ったのは茶屋での一回だけなんだけど……三郎さんがそう言うならそうなんだろう。


「『七坂八浜』での木道設置により、東海道からの往来をずっと便利にした。また、その際に阿東藩全体の大工達の重鎮である吉五郎頭領と信頼関係を築くに至った」

 ……あの人、そんなに凄い人だったんだ……。


「そして今回、この阿東藩で最大の神社仏閣である『水龍神社』の宮司とも知り合い、そしてこれも見事に信頼を得た……さらにその先には、江戸の『明炎大社』での宮司代理とつながっている」


「……まあ、確かにそういうふうに名前を並べられると、凄い人たちと知り合いではありますが……でも、それはたまたま知り合う機会があっただけで……」


「謙遜せずとも、人は真に能力のある者に集まってくるものさ。そしてそういう『やんごとなき人物』と知り合えるのは、あんたが大物であることの証でもある。それに、その人脈がまた大きな事を成すのに役立ってくれるだろう」


 ……たしかに、今回の一件も、俺が『明炎大社』と繋がっていなければ、依頼すらこなかったかもしれない。


「そういう人脈抜きにしても、あんたは大したものだ。金鉱脈を見つけた事、忘れたわけではないだろう? あれもあんたの活躍があったからこそ、だ」


「……うーん、でもあれは……うん、まあ、『金属探知機』があったから……確かに、俺が持ち込みましたが、それしかしていないですよ」


「いや、それが重要なんだ。あんたにとっちゃ大したことじゃないかもしれないが、この地方においては、まさに藩の命運を分けるような大事になるんだ。繰り返しになるが、さっきの人脈も含めて、もうあんたはこの藩で五本の指に入る大人物だと思った方がいいだろう」


「……俺が……大人物?」

 もう、乾いた笑いしか出てこなかった。


 その後、三郎さんは最近の藩全体の動向を教えてくれた。


 まず、この『阿東藩』を訪れる人が劇的に増えた、という事実。

 これは藩主様が街道の整備を重点的に実施しはじめたことによるという。


 なんでも、『七坂八浜』の大改修成功により、改めて道路整備の重要性を説かれ、今年は豊作で藩の財政に余裕ができたこともあり、古い道路を整備したり、道幅を広げたり、という土木工事に積極的になったらしい。


 また、『金鉱脈』の採掘のためには調査の拠点となる山小屋の設置や、やはり道路整備など、しなければならないことがたくさんある。

 そのために人足を募集したところ、藩内外から多くの申し込みがあったというのだ。


 どうりで最近、『食い物通り』(正式名:新町通り)が前にも増して賑やかになっていると感じたわけだ。

 ちなみに、そこに目を付けて『前田美海店』で持ち運びできる経木きょうぎに包んだ、おかかとか焼き魚の入った『握り飯』を売り出したところ、スマッシュヒット商品となっている。


 まあ、こうして藩全体が豊かになっていってくれれば、俺としても非常に嬉しい限りだ。


 三郎さんは、

「この藩の躍進全てにあんたが関係しているといっても過言ではない……あんたは自分で考えているよりずっと影響力が大きな重要人物なんだ。今後は慎重に行動した方がいいな。さっきのように秘密は秘密で隠し通すように、な……」


 三郎さんの不敵な笑みに、ほんのちょっと、自分の立場がそれほど気楽なものではなくなってきているのかもしれない、と不安になった。


 その日の夕方。


 高校の授業を終え、前田邸に行くと、

「おかえりなさいませ、ご主人様っ! 今日はずっと私と一緒ですよっ!」

 と、ハルが嬉しそうに駆け寄ってきた。

 どうやら、今日の『嫁』は彼女らしい。


 ちなみに母と妹のアキには、江戸時代で優と結婚したことは伝えているので、こっちで宿泊することは認めてもらっている。

 しかし他の四人の少女たち全員を嫁にしている事は言っていない……というか、言える訳がない。


「先にご飯にしますか、お風呂にしますか。それとも……」

 ハルが顔を赤らめて尋ねてくる。

 うっ……やばい、すごく可愛い。


 最近、ユキとハルの双子が成長し、微妙に色気まで出始めているから問題だ。

 せめて現代で女の子が結婚できる年齢、つまり満十六歳までは手を出すまいと心に決めているのだが……本当にちょっとやばいかもしれない。


 俺が先に食事をしたい、と言うと、

「じゃあ、お布団だけでも先に用意しておきますね」

 と、いそいそと奥の部屋に向かっていったのだが……。


「キャァーーーッ!」

 という耳をつんざくような悲鳴に、囲炉裏部屋で食事の準備をしていた他の少女たちと俺は何事かと顔を上げ、声の方に向かう。


 やがて腰をぬかしたハルが、ヨロヨロと這うように奥の部屋から出てきて、

「……座敷わらしがでましたぁー……」

 と涙を浮かべて話した。


「……座敷わらし?」

 彼女の怯え様を見ると、なんかちょっと奥の部屋に行くのが怖い。


「ハルちゃん、その妖怪、どんな感じだったの?」

 優もちょっと声を震わせてハルに尋ねる。


「……はい、えっと、その……小さな女の子で、おかっぱ頭で、眠そうで……あと、巫女の着物を着ていました……」


 小さな女の子で、巫女の着物……。


 俺と優は同時にある少女を思い浮かべ、思わず顔を見合わせた――。


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