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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第6章 改革開始と未来無き巫女
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第九十九話 希望に満ちた夜

 前田邸の一室で、俺と優は一つの布団の中に入っていた。


 夜も大分深まり、フクロウの鳴き声が聞こえてくる。


 俺達は、LEDランタンを灯して阿東藩の二つの地図を眺めていた。


 二人とも裸だったが、石油ストーブを点けているので寒くはない。


 地図の一つは、この時代の地形を上空から写し、加工したもの。オオタカの『嵐』に小型カメラをつけて撮影し、その映像を合成して作成した。

 そしてもう一つは、現代の同地域の航空写真だ。


 同じ場所なので大まかな地形は同じだが、河川の流れる場所は異なり、また、市街地の面積は数倍に増えている。


「……拓也さん、この線みたいなものは?」

「ああ、それは道路だ。現代に行ったとき、自動車に乗っただろう?」


「すごい……こんな山中まで……でも、途中で切れてますけど?」

「それはトンネルだよ。山に穴を開けて、貫いているんだ」


「山を……そんなことができるんですね……」

「今から三百年経てば、そうなるよ。今の俺達だけじゃ到底無理だけど」


『現代から数十キロ程度の荷物を運ぶ』事しかできない俺達にとって、この時代で大規模な土木工事を行うことなんかは不可能だ。

 しかし、現代で成功している技術や知識を持ち込むことならば可能だ。


「……うーん、やっぱり上から見ただけじゃいまいち畑にできるかどうか分からないな。実際に現地に行ってみないと……」

「でも、その土地の人が納得してくれるかどうかは分かりませんけど……」

「それは交渉次第だな……」


 今、俺達は二つの農作物に対して、新しく畑にできそうな土地を探していた。


 一つは、この時代での栽培に成功した『サツマイモ』の作付け場所。

 これは飢饉対策であり、痩せた土地でも育ち、カロリーも高いこの作物を普及させておけば、いざというときに飢えを大幅に減らすことができるはずだ。


 欠点は『こればっかり食べていると栄養的に偏ってしまうこと』と、『保存があまりできない』こと。そしてなにより、『高値で売れる』作物ではないことだ。


 大量に収穫できたなら一部を焼酎にしたりできるかもしれないが、いずれにせよ『阿東藩を経済的に豊かにする』産業とまではならないと考えている。


 そこで次の案として、『ある植物』の栽培を検討している。

 この植物は畑でなくとも、山地でも育てることができる。


 飢饉に対してはあまり役に立たないだろうが、これが軌道に乗れば大きな収益を上げる可能性があるのだ。


「それがうまくいけば、あとは『育成方法』と『生産技術』、『道具、装置』と『人手』だな……あと、『流通経路』も考えておいた方がいいか……」


『育成方法』と『生産技術』、『道具、装置』については、実は明治時代には大量生産ができるような形が出来上がっていた。

 それを百五十年も前倒しでこの阿東藩に持ち込もうというのが、『少女三百人雇用』計画のキモだ。


 ただ、明治時代のそれは完全な『工場制手工業』、いわゆる『マニュファクチュア』で、一部蒸気機関まで用いられていたという。


「……そこまでは無理でも、せめて『足踏式座繰器』を大量導入できれば……」

「え、何か言いましたか?」

「いや……なんでもない。ちょっと事業がうまくいった時の事を考えていただけだよ」


 この装置を用いれば、人手さえ集めれば製品の大量生産が可能になる。

 一カ所の『工場』に集めて分業体制を確立すればなおさらだ。それも、大した力は必要ないので、少女たちでも十分に働いていける。


「この時代、この製品は、ほとんど外国から輸入されているんだ。日本で作るよりもずっと品質が良かったから。それをこの地域で、高品質な商品を栽培・飼育・生産・加工まで全てできるようになったならば……そしてそこで少女たちが働いてくれるようになるならば、この藩はどれだけ豊かになるだろうか……そう考えると、凄くワクワクしていくる」


「ええ……最初聞いたときは信じられませんでしたが……拓也さんの時代より百年以上も前に実現していたのならば、できそうな気がしています」


「ああ。しかもその時代でも、実際に主力として働いていたのは少女達だった。だから可能なはずなんだ……でも、それだけ人を雇うということは、大きな責任を負うことにもなる。慎重に検証を重ねて、ちょっとずつ大きくしていこうと思ってる」


「だから今も、ああやってすぐ近くで様子見てるんですね」


「そう。ちょっとした温度や湿度の変化でダメになってしまうからね。『清温育』っていう手法で、これも今から百五十年後ぐらいに確立される育成法なんだけど……実際は暖房に、ストーブじゃなくて炭火を使うようになるだろうな」


「……私からすれば、やっぱりずっと未来のすごい技術なのに、拓也さんから見れば過去の知識なんですね……」


「確かにそうだけど、『知識』は『知識』でしかなくて、それを実際に試して『経験』にする必要がある……ちょっと大変だけど、優にも……」


「分かっています。大好きな故郷と、それと大好きな拓也さんのために、私も協力します……」


 微笑みながらそう言ってくれる優の事がたまらなく可愛く、愛おしく思えて……そして彼女にキスをし、抱き締めた。


 部屋の隅では、現代の通販『飼育セット』で手に入れた五令の(カイコ)達の、桑の葉を食べ、動き回るカサカサという音が微かに聞こえてきていた――。


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