序章 常闇
序章は本編とは少しはずれていますが、後々つながってきますのでご了承ください。
「船を水平に保て!」
激しく雨が体に打ち付ける。まわりにある物は水のみ。黒い、真っ黒い水が、龍のようにうねる。
「早くしろ、波に飲み込まれるぞ!」
船長の怒鳴り声が耳に入ってくる。気分が悪い。船に揺られているせいもある。だが何か違う。ここはだめだ、ここに来てはいけなかった。何かがそう告げている。
「せ、船長、もう耐えられません!」
「く、くそう、せ、せめてアラン王子だけはお守りしろっ、いいな!」
「し、しかし!」
「波だ!大津波がきたぞっ」
船員たちは絶望の表情でみんなもう動こうともしない。いや、出来ないのだ。恐怖で、自分の死が確実に迫っているという恐怖で…
恐怖?その程度でか?俺はそんなものじゃない。何かに絶対的支配を受けているとしか思えない。違う、支配ではない、これは…
「な、中へ入れ!もうそれしかない!」
「しかし、この船は沈みます!」
「そんなことは分かっている!アラン王子、早く中へお入りください、さあ、我々も…」
「もう遅いです、手遅れです!」
「間に合う、急げ!」
「つ、津波が到着しました!」
「…く、これまでか…アラン王子、最後まで守れなかったこと心残りです…」
「最後までアラン王子と共にあれて、光栄でした…」
終わらない…と、思った。俺だけは。これが最後ではない…と。死が理解できない。死ぬのが怖いとも思わない。心残りもない。だが…死ねない。死んでもいいが…死ぬことができない。俺の近くには死以外の何か、何かが満ちあふれている。やはり…ここには来てはいけなかった…
!
暗い…ここは…
やはり死んでいないのか…死後の世界なのか?
水が体に絡みつく。
さっきの海か…溺れているんだな…まだ死んでいない、やはり…
暗い…熱い…
目の前が黒く歪んでいる。熱さはそのせいだろう。
手を伸ばす。この歪みは…
指が歪みに届いた…瞬間!
その歪みはもの凄い勢いで体の中に入ってきて…
そして…世界は闇に包まれた。