8.魔王様の御考え・後
「はあ…はあ……畜生ッッ!!」
勇者たちは、勝手に疲労困憊していた。何発も上級魔術をうったせいで魔力は尽きかけだ。特に勇者の次に戦力の帝国軍隊長は、妹をとられたせいで冷静さを失っていた。魔王に届かないのだから、剣士の居る意味もない。追い詰められた勇者の精神は、限界に近かった。
「うわあああああっ!!」
とうとう、勇者は狂ったように叫んだ。いや、圧倒的な力の前で本当に狂ってしまったのかも知れない。
「うあ、はは、……はははははは!」
高笑いしながら、聖剣を構え、魔王へと突進する。魔王は迫ってきた勇者を無表情に見ただけだった。
しかし聖剣が障壁に触れた瞬間、その見えない壁は確かにたわむ。それに勇気づけられ、もう一度勇者が切りかかった。
すると障壁は、今までが嘘のようにあっさりと、まるで熱されたバターのごとくやすやすと裂け、進入を許した。魔王の前に躍り出た勇者が叫ぶ。
「魔王め、ここまでだ!」
「あら……本物の聖剣だったんだ…」
魔王が驚いた顔で勇者と対面する。勇者としては弱い一行を、国に雇われた剣豪か、金に目がくらんだ者の集まりかの自称勇者かと思っていた。そういうのは意外と多い、以前本当の勇者に会ったのはざっと百年ほど前のことだっただろうか。しかし勇者の手に握られているのは、紛れもない聖剣だった。
聖剣は人間界の武器の中で唯一、物質的に魔王にダメージを与えることの出来るシロモノだ。それを前にしても冷静な魔王は、死なないにしてもさすがに痛いだろうと顔をしかめる。勇者は猛然と斬りかかった。
たとえその身に無限に近い魔力が渦巻いているとしても、その身体の機能は人間より少し高いというだけ。とっさに魔王は後ずさって、無意識に障壁を張る。しかし勇者はたやすく壁を切り裂く。日ごろの運動不足も祟って一瞬で距離を詰められた。
聖剣は、やすやすと魔王の心臓に沈んだ。
「うっ、あああああっ……!」
魔王は、自分の胸に突き刺さった聖剣を信じられないように見下ろす。予想に反して痛みは無く、じんわりと熱を持っているかのように暖かさが広がった。
ずぼ、と無造作に剣が抜かれ、魔王は力が抜けたようにその場にひざをつく。心臓あたりにできた穴からはとめどなく魔力があふれ、魔界の地へと吸い込まれていった。
魔王がゆっくりと床へと沈む。同時に、魔王をかばうように動いた玉座が力をなくす。勇者は、緊張に弾んだ息で魔王を見下ろした。達成感はなく、やった、やったんだとその重いだけが頭に渦巻く。
魔王は怯えたように震える息を吐き出していた。その姿はもはや魔王ではなく、ただの一人の少女。弱弱しいその姿に勇者の心がちくりと痛んだが、首を振ってそれを払う。もうすぐ魔王は死ぬだろう。
勇者は勝利を感じる暇も無く、勇者はパーティーの仲間を救うべく、王座へと向かった。