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6.魔王様と勇者

「ふっ……魔王よ、貴様の運命もここまでだ!」


 勇者は憎々しげに魔王を睨みつけた。頬杖をついて勇者を眺める魔王の顔には表情が抜け落ちたようで、そのぞっとするほどの相貌も相まってまるで等身大の人形をもたせかけているようだ。


 しかしその身を取り巻く巨大で圧倒的なオーラには、誰もが畏れ、自然と頭をたれる。その姿は、魔王でしか持ち得ない圧倒的な強さ。そしてその横には、これ以上ないほどの比率に整えられた美貌の、男。

しかし魔王の従者らしいその男は、一礼をすると闇の粒子となって消えた。


 ここにいるのは、魔王と勇者らパーティーだけ。従者も付けず、魔王自らが一人きりで、勇者らを向かえようとしている。それほどに強い力を持つ魔王に、対する敵対心が揺らぐのを感じた。


 気がつけば身体にじっとりと汗をかき、あわてて今にもくずれそうな脚に力を込める。汗で滑る聖剣を握りなおした。


 勇者のみが持てる聖剣に選ばれてからというもの、国の希望を背負い、仲間を集めてここまでやって来たのだ。負けるなんてありえない。そんな選択は、勇者にはない。


 背後には勇者を信頼しきった目の仲間たちがいた。勇者に各々が頷きかけ、魔王への緊張感がさらに高まる。たとえ相手が強かろうが、勇者は仲間たちの期待に答えるべく、声を張り上げた。


「本日をもって、魔王は滅び、この城はグランダ-ル大帝国のものとなる!魔王よ、今まで我らが味わった苦しみを身を持って知るがいい!」


 言い終わるのと同時にパーティーの中の少女が呪文を唱える。その小さな両手は、勇者が稼いだほんの数秒の間に複雑な印をきり終えていた。引き摺るようなローブをものともしないで。


 巨大な氷の槍が魔王を囲むように水平に現れ、三度にも渡って執拗に魔王を王座へと縫いつける。魔王の展開するバリアを突き破り、容赦なくその華奢な身体に降り注いだ。

 魔王の動きが完全に封じられたところで、空中に現れた半透明の刃が小気味良く滑り、魔王の体を切り裂いていく。


「やったわ!」


 宮廷お抱え魔導師は、思わずといった様子で声を上げた。


 国でも一、二を争う実力を持つ彼女ぐらいしか出来ない、四連の魔術。多少のダメージにはなっただろう。勇者は反撃を予想し、身構えた。


 しかし攻撃を食らったはずの魔王は、王座に座っては居なかった。


「どうして…?!」

 刃は無意味に王座を傷つけ、それも端から修正されていく。突き刺さったはずの氷の槍は空中に刺さったかのように停止し、見えない何かを見定めるかのように微動だにしなかった。魔王の気配はまったくなく、無駄に緊張したときが流れた。


 …ぶしゅう。勇者らが警戒するその目の前で、突然氷の槍が蒸発した。瞬時に霧が発生し、王座の周りがスモークに覆われる。


「気をつけろ!」


 勇者が叫ぶ。霧が晴れ、そこには魔王がいた。王座にもたれかかり、艶やかに微笑んでいる。滑らかな女性特有の曲線を描くからだのラインにはかすかな傷すら見当たらなかった。そして、王座には…


「クロエ!!」


 仲間が叫ぶ。そこに座らされていたのは、さきほど魔法を放った少女だった。ぐったりとしている。勇者の右横に立っていたはずが、たやすく捕らえられてしまった。悔しさに、勇者がぎりりと歯を噛み締める。


「ふふ……早くしないと、椅子に命を吸い取られてしまうよ?」

 魔王は、先程までの生気の無い様子が嘘のように、楽しそうに言い放った。


「早くかかっておいでよ、この子には私から手を出すことは無い、だから、」


 だから、私を楽しませてごらん。



「さあ、たのしいたのしい、殺し合いを始めましょう」

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