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29.魔王様と一つ目の国

 野宿することにした一行は、少し早い夕食をとることにした。野宿に慣れているらしい格闘家のシェンメイの指示で手際よく鍋を火にかける。その中に、ユーリが大量の干し肉を投入した。


 側で見ていたミニアは肉だとも知らず、袋から木片のようなものが落とされたのを見て「人間は木々でさえも食べる」と静かに勘違いしていた。


「……何、それは?」


「私、お肉が大好きなんです~!おいしくな~れ~」


 歌いながらミスリルの杖で(いいのか…?)鍋をかき混ぜる。鍋の中で、本来4日はもったであろう肉が浮き沈みしていた。


「おーい、あっちで卵見つけたぞー」


 食材探しに出ていたシェンメイが紫色の卵を三つほど抱えてきた。いい匂いがする鍋を覗き込む。


「ちょっ、肉が水の量より多いんですけど!あっはっはっはっは!」


「これで勇者様に力をつけてもらうのです!」


「……グルル!!!(突っ込みたいが突っ込めないこのもどかしさ…!)」


 なにやら悶える虎姿のムンク。そこへ同じく食材集めをしていたレオが草の束片手に帰ってきた。シェンメイを見て、訝しげな顔をしている。


「…なに笑ってるんだ?」


 鍋に気づかないレオ。ミニアの隣に座り込み、シェンメイが見つけてきた卵を手に取った。


「初めて見る卵だな…食べられるのか?これ」


 隣のミニアも手に取る。………どう見ても、下級ではあるが小型竜の卵だ。気づいたムンクが目を見開く。


「グルルルッ、ガウッ!」


「なんだムンク?お腹すいたのか?」


 もふもふとのスキンシップを大事にするレオ。懐いてほしいらしい。ミニアは、やばいよそれ!中級魔族の卵だよ!と喚くムンクを横目に、いい笑顔でレオに卵を差し出した。


「ん?どうした?」



「これ、ムンクの大好物なの!調理してあげて?」


「グワワワワウン……」


 口の中に酸っぱいものが込み上げてくるムンク。同族の魔力ならしょっちゅう食べていたが、体となると別。人間が人間の赤ん坊を食べるようなものなのに、グロ大好きだったミニアは平気な様子でレオにならって卵を割ろうとしている。レオが手本を見せると、中からどろっとした紫色の身が出てきた。続いて、ミニアも。


「ほら、簡単だろう」


「ええ、料理って楽しいわ」


 なんてニコニコしている。耐え切れなくなったムンクは逃げ出した。後ろからミニアが「チッ…」と舌打ちするのが聞こえたが、構わず走った。


 …結局その後、卵は全員でおいしく頂くことに。シンプルなオムレツ(紫)なのだが焼け付くような甘さが特徴的で、男子は胸焼けをおこしたが女子には大好評だったそうな。




 そして一週間後、パーティーは国境を越え、一つ目の国に着いた。その間、野宿続きのためユーリが虫系に平気になったり、ムンクが卵の罰として何も食べさせてもらえなかったり(魔族の食事は基本魔力)、レオが母親のごとくミニアの世話をやくことが分かったりしたが全て割愛である。


「ここがタリム国かー!」


「わぁ~、真っ白なおうち!おもちゃみた~い!」


 真っ先にシェンメイが門を抜ける。続いてユーリ。もの珍しげにキョロキョロしているのは、ミニアだけでなく神殿から滅多に出ないというユーリもだった。


 タリムは海沿いの小さな集落が発展して国になった小国で、新鮮な海産物と海向こうの国との交易が盛んだ。建物はすべて白っぽい塗り壁でつくられており、海とのコントラストが美しく観光地としても有名である。


「…とりあえず、ミニアに栄養をとらせねば……!」


「…………。」


 切羽詰ったように呟くのはレオ。ミニアは初日から肉が尽きたのをいいことに、道中甘いものしか口にしていなかった。ミニアは魔力が食事なので聞こえないふりをしている。後ろからはユーリがミニアとレオの繋がれた手を凝視し、ミスリルの杖をぎりぎりと握り締めていた。


「うらやまじぃ~~……!!!」


 ミシッ。最強の金属であるミスリルから、ありえない音が聞こえる。耳のいいミニアにはしっかりと聞こえていて、(ユーリ魔族といっても通じるよ…)と思われていた。ある意味光栄。


「ミニア、何か食べたいものはあるか?なんでも買ってやるぞ」


「ケーキ」


「……甘いものは、禁止だ」


「じゃあ何もいらない」


「それは一番ダメだ」


 たわいない会話をする二人の後ろで立ち止まったユーリは、低く、低く呟いた。


「今に見てなさいよ、ミニア…!!」

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