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28.魔王様の旅立ち

 城を囲むように建てられた城下町の大通り。その真ん中を、馬車が走っていた。


 今日ばかりは商売人ですらも、商売なんかしていられないとばかりに外にでていた。そして馬車が通るたび、人々は千切れんばかりに手を振り、声援を送った。大通りの両端には一目でも馬車を見ようと人が群れ、少女たちが手にもった籠の中の花びらを振りまく。今日は記念すべき、勇者たちの旅立ちの日だった。


「…………」


 その馬車の中は、異様に静まり返っていた。

 それなりに広い馬車の中、レオは勇者の務めとして群衆に手を振る。そしてたまにミニアの方をちらりと見ては、目を瞑って眠そうなミニアの様子に話しかけるのを諦めるのだった。


 その向かいに座るミニアは、闘技場とは違い薄い馬車の壁一枚越しの間近に感じる人間たちの熱気とか、外を見れば珍しい景色が隠されて人間しか見えないこととか、その内人間たちがたくさんの肌色の肉の塊に見えてきたとかでイライラしてきて、自制するため目を瞑ってやり過ごすことにした。


 そしてミニアの隣のムンクはさすがに魔族というべきか、隣からはっきり漏れてくるミニアの怒気を感じ取って戦々恐々としていて、俺に怒りの矛先が向きませんようにだとかミニア様の怒りがここで爆発しませんようにとか、もしそうなったら後始末はウェントにお願いします!だとか自己中なことを魔神様|(魔界の神様)に願っていた。


 そして太陽が真上にあがったころ、勇者パーティーはようやく国を出ることができた。ミニアはムンクが用意した甘いものを全て、旅の間の分まで食べきっていた。これからどうするんだろうか?


「レオニード隊長、さようなら!」

「どうか、ご無事で!」


「と言うわけで、これからよろしくな!」

「私もよろしくお願いします~、勇者様っ!」


 最後に門番に見送られ、シェンメイとユーリと合流した。…ユーリの挨拶は、レオニードにだけよろしくなのだろうか?


 一行は馬車を門番に預けると、魔界へと向かって歩き始めた。魔界との境界線が近いここらは、森、草原など人間が住んでいないところにたびたび下級の魔物が出没するため、移動は全て徒歩。馬なんか喰われてしまう。そのかわり、レベル上げにはもってこいだった。


 そのため、勇者は長くて半年ほどかけて魔王城へとたどりつくのが普通なのである。


「あ~、やっぱ歩くってのもいいもんだよな~!」


「そうだな…ってシェイメイ、素振りしながら歩くのは止めてくれ!」


「いや~、今から魔族との戦いが楽しみでさ!」


 レオとシェイメイは気が合うらしい。楽しそうに話しているその後ろで、ユーリがミニアににこにこと話しかけていた。


「私たち、賢者と魔術師で気が合いそうですねっ!これから長いお付き合いですし、仲良くしましょうねっ!」



 ミニアの頭上では、ユーリの持つミスリルの杖が不安定にゆらゆら揺れていた。今にも落ちてきそうだ。


「ええ…よろしく」


「あのさ!ところで、そこのかっこいい動物は何?」


 シェンメイが素振りをしていた鎌でミニアの隣を指す。そこにはごく自然に、灰色のしまの動物がピッタリ寄り添って歩いていた。


「この子は、私の相棒よ。ムンクって言うの」


 そのまんまだそりゃ!とミニアを見上げたムンクが唸る。さすがにムンクまでパーティーに入る必要はない上ミニアを見守らなければいけないので、やむなく虎に擬態したのだ。本来は人魚なので陸の動物は何気に大変らしい。


「へえ…触らせてもらってもいいか?」


 どうやら動物好きらしいレオがムンクに近づこうとするが、ムンクは盛大に威嚇した。


「グルルルルルルル!!」


「……………(哀)」


「えー、俺は俺はー?」


 シェンメイには大人しく撫でられている。レオが深く傷ついたような顔をしたのを見てムンクは鼻で笑った。それで気がついていないんだろうが、シェンメイが物欲しげな目でムンクのことを見ているぞ。狙われてるぞ。


 歩いて歩いて、ミニアは途中からムンクの背中に乗って。やがて辺りが赤く染まった頃、適当な場所を見つけた一行はそこで野宿することにしたのだった。




そしてその頃、魔界では。


「…まさか」

「……まさか~」

「アイツ、やりおる…」


 そこには、他の側近に回された書類全てを狂ったように片していくウェントの姿があった。その書類もあと一山で終わり。


「俺たちもあの情熱を見習うべきですね」

「え~、あそこまではいらな~い!暑苦しいです~。…あっ、それより皆さん、ムンクから蝙蝠便ですよ~」


 さぼりな側近たちが全員居たため、蝙蝠を肩に乗せた黒髪をおかっぱにした少女はその場で読み上げた。


「え~っとですね、『ミニア様と共に人間界に居る。遠回りして帰るのでそれまでウェントを引き止めておくよう』ですって~」


 皆は顔を見合わせた。


「…なんと言うか、納得したわ。ミニア様、上手いこと逃げたと思ったら結局捕まってたのね」

「そのようじゃな。しかし、先代の後を継がされたミニア様にも休息は必要じゃわい」

「あ、じゃあ俺ちょっくら足止めに行って来ます!」


 マッチョが出て行った後、魔王城が激しく揺れた。暴れているらしい。


「あら、じゃあ私も行って来ようかしら。最近運動していないのよねー。」

「そんならワシも行こう。暇じゃからな」


 そうして、その部屋には一心不乱なウェントが一人残された。




 カラン…。

「お、終わった……!!ミニア様っ……!」


 全てを終わらせ、ペンを放り出したウェントが見たものは、すっかり景色が良くなった部屋|(壁が無い)とそこから見える城を中心とした半径1キロにわたる屍累々だった。


「………」


 ウェントは一応は現魔王、つまり魔力も強大で、城からは出られない。その上屍累々ということは、わざわざ魔族一体一体に魔力を注いで生き返らせるのが必要|(そのため上級魔族ほど不死身にちかい)。時間はすごくかかる。そのせいでさらに運び込まれる嘆願書や請求の書類、極めつけはまだ眼下で暴れる側近ら。



 いったいいつになったらミニアにあえるんだろうね?


 ウェントは血の涙を流しながら、吼えた。


「うがああああああああああ!!!!!!」

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