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27.魔王様、説得する

 城下町にてミニアの旅支度、つまり外套やらブーツやらを買い込み、パーティーメンバーと別れいったんレオニード宅に戻る。


 既に噂は広まっているようで、扉を開けたところでまたもやローザが飛び出してくる。そのままその日は当たり前のようにもう一泊することになった。ちゃっかりムンクも当たり前のように客扱いである。


「そんな~!ミニアちゃんってば、どうして勇者パーティーに入っちゃったの~?!」


 おそらく十人分はあるんじゃないか?という豪華な夕食|(ミニアはお菓子)の後、居間にてソファーでくつろぐ一行。ムンクはミニアの後ろで直立で待機。


 レオがローザと別れてからの経緯を全て説明したところで、ようやく口を開いたローザの第一声がそれである。レオが勇者であることには疑問を持たないらしい。さすがにレオが抗議の声を上げる。


「あ、姉上…僕については何も言うことはないんですか?」


「だって、貴方は元々強いじゃない!何となく勇者って感じするもの~。でもね、ミニアちゃんはまだこーんなに小さいの!見た目子どもでも何十年生きているか知れないあのユーリとかいうのとは違うの!」


 会って二日もたたない子どもを弟より優先するローザ、本当にレオとは家族なんだろうか?人間の家族というものに間違った観念を持ちつつ、ミニアは目の前に積まれたお菓子に手を伸ばした。ちなみにローザの膝の上である。


「もちろんレオの事は心配よ?でもね、貴方ならきっと帰ってきてくれると信じているから!」


「………姉上」


「だからっ、それ以上私の大事な人を失いたくないのよっ!」


「姉上……!」



 なんだかとってもいい話。ミニアはお構いなしにまぐまぐとクッキーを頬張る。


 二人とも涙ぐんでいるように見えるが、手と手を取り合っているのも見えるが、結局のところはミニアを倒したいというそれだけである。


 魔王(今はウェントだが)が勇者パーティーに加わっている時点でもうぐだぐだ。そしてもしレオが死んだとしても、ミニアが故郷の魔界で死ぬなんてありえないのだ。


 なので、気にすることなくミニアは口に出す。


「大丈夫よ、ロ…お姉様。私が行きたいと言ったんだから、気にしないで」


「でも!ミニアちゃんったら、勇者パーティーの過酷さを知らないからそんなこと言えるのよっ!」


 ローザが迫ってくる。とっさに身を引いたミニアは、反射的にローザの口の中に右手のクッキーを差し込んだ。


「…!もぐもぐ…もぐっ、ごっくん!こらっミニアちゃん!あのね、ミニアちゃんの実力がどんなに高いかはしらないけど、途中で死んじゃうことだって有り得るの!ご両親がとっても悲しむことになるのよ?私は行って欲しくないわ」


「なら、実力があればいいの?」


「まあ、そうなるかしら…?」


 ローザが納得しかけたその時、一瞬で室内の明かりが消えた。ローザが悲鳴を上げると、何故か静寂が訪れる。そのため、全員の耳が外から聞こえてきた低い唸り声と悲鳴を捉えた。


「きゃあああっ!何、なんなのよ~…!!」


「姉上、お静かに!この唸り声は…ウルフ?!」


 レオが呟き、立ち上がる。真っ暗闇の中、景色が見えているのは夜目のきく魔族の二人だけ。レオの顔には多少緊張の色が走っていた。


 それもそのはず、ウルフは知能が低いとはいえ下級魔族である。めったに町には近づかないが、魔力で風を生み出しどこへでも現れることが可能なのでやっかいな敵と認知されている。今回はムンクの仕込みだが。


「僕が倒してくる。皆はここで待っていてくれ」


 そう言って部屋を出て行こうとするレオに、背景と化しかけていたムンクが話しかけた。


「お待ちください。今回は、ミニア様にお任せ下さってはいかがですか?」


「…なに?」


 レオの足どりが止まった。ムンクが続ける。


「ですから、実力を知るいい機会なのでは?ミニア様も武道派貴族の端くれ、あれくらいなら簡単に倒して見せましょう」


 ミニアが振り返るとムンクと視線が合う。武道派だったなんて聞いていないと睨むと、それくらい鍛えてくださいとアイコンタクトで返ってきた。側近としての役目なのだろうが、いい迷惑だ。


「そ、そうなの、ミニアちゃん…」「簡単に倒せるのか、あれを?」


 おそるおそる尋ねてきたローザに、疑いまくりなレオ。元々プライドが高いミニアは、こう答えるしかなかった。


「ええ。それくらい、なんてことないわ」


 その後、窓から見える範囲にまで近づいてきたウルフを室内から一瞬で墨にしたミニアは、すんなりとメンバーに入ることが決定したのだった。





 ちなみに、時は少し遡って。


「ミニア様~!俺、ちょっと里帰りして鍛冶屋のじじいから良いもん貰ってきました!」


 じゃらじゃら。上機嫌なムンクは、銀の鎖に通された指輪をミニアに見せた。真紅の宝石が指輪にはまっているのをまじまじと見つめるミニア。


「何、これは?」


「これはですね~、通称『魔力ないない君』!ミニア様が多少魔力を使っても、人間共には分からないという代物ですね!例えば、ミニア様が魔力で雷を生み出したとする。そうすると、雷が生まれた瞬間にですね、人間界の魔法として変換される訳ですよ!つまりはミニア様は一見無唱和!」


 すばらしいでしょう!と胸をはるムンク。そうなの、と反応の薄いミニアに痺れを切らしたのか、跪いてミニアの手を取ると、右手の人差し指に指輪を嵌めてしまった。


「はい、これで指輪はぬけません!大丈夫ですよー、失くさないように俺の魔力も練りこんでおきましたからね!」


 固まったミニア。動かないミニアを不思議に思ったムンクがどうしました?と覗き込んだ瞬間、その類まれなる美貌にミニアの拳がめり込んだ。


「っぶあぼうっ?!」


 ぶさいくに吹っ飛ぶムンク。気持ちよくきれいな数メートルの弧を描いて顔から地面へと落ちた。


「………最低」


 ミニアは心なしか頬を赤く染め、蛆虫を見るような目でムンクを一瞥して立ち去ったのだった。


 ※『右手の薬指に指輪をはめるのは恋人同士!』…魔界の若いのの常識。ミニアちゃんはどこで知ったのでしょう?

ミニアに敬語は無理だ…ということでこれ以降は出てこないでしょう。

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