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25.魔王様と新米な勇者様

 ミニアの目の前にお菓子が盛られ、消え、盛られ、消え、盛られ、消えた時、ようやく眼下では決勝戦が始まった。円く土で固められた闘技場の端に、両者が現れる。


 片や抜けるように白い肌と銀の髪を持つ、抜群のプロポーションの女性、エリザ・ヘイト。片や一目でこの国の出だと分かる、金髪碧眼の男前、つまりレオ。決勝戦まで勝ち進んできた二人は歴代の優勝者の猛者マッチョたちとは違い、両者ともに力より速さ重視な細身。今までに無いタイプ同士の戦いに、会場の人々からそれぞれ歓声がおくられた。


 そして、二人が向き合う。背の丈をゆうに越す大剣を構えるまでもなく無造作に立つレオに、対して鞭を引いた独特の構えのエリザ。


 ミニアの隣に座る小太りの男がごくりと唾を飲む音が静まった部屋にやけに大きく響いた。その手には賭博のものであろう紙が握られている。




 そして会場に開始の笛の音が鳴り響いた瞬間、二人は斬り結んでいた。


 常人では見えないほどのスピードで切り結ぶ二人に、観衆の目で付いていける者はそうはいないだろう。ただ耳だけが鋭く響く音を拾って、その鋭さを感じているのだ。


 先の見えない戦いほどおもしろいものはないだろう。賭けに参加した人々はお小遣いのため、借金のため、果てはへそくりのためなどの理由から全力で身を乗りだし応援していた。



 そしてミニアは、切り合う二人を肴に、いつの間にか届けられたふわふわのケーキを口に運んでいた。


 中級魔族よりは強いかな?くらいには強い二人を見て、やっぱり戦いっていいわ~と、久々に魔族の血が滾ってくるのを感じた。ああ、闘いたい。戦いたい。ぐちょぐちょにしたい。


 元々魔界では日常的に小競り合いやらなんやらが起きていたし、ミニアも魔族なので戦うのは大好きなのである。…しばらく魔力に頼っていたせいで、腐れ勇者にやられるくらいには鈍っていたが。


 その時のことを思い出し、ミニアがあの時の魔力の喪失感に眉をひそめた所で、笛の音が聞こえた。見るとエリザが片膝をつき、傍らには真っ二つにされた鞭の残骸が落ちている。勝者は、レオニードだった。


「しょっ、勝者は、レオニード・ガリウス・ハルツハイム!!」


 とたんに、今まで一番の、悲鳴や喜びの声が混じった歓声が上がった。レオニードが貴族特有の流暢なお辞儀をすると、女の子の悲鳴交じりの大きな拍手が沸き起こる。そして、司会者がすかさず続けた。


「えー、優勝者には1,000,000ベルク。そして今年はなんと!皇帝直々のお言葉を賜ります」


「直々?」

「今までなかったよな?そんな事…」


 人々がざわめく中、はるか上空に備え付けられた皇帝専用の席から皇帝がバルコニーに出てきた。


「皇帝陛下の、おな~り~!」


 兵士たちが一斉に敬礼する。とたんに人々が静まり返った。特別席の貴族たちが慌てて片膝をつく中、ミニアだけは当たり前に足を組み座ったままだった。そのまま、静かに皇帝を見つめる。


 さすがは、と言うべきだろうか。皇帝はその身を飾る装飾の数々に着られる事もなく、剣を腰にさし、武道派皇帝としての王の威厳を漂わせ、そこに立っていた。


「まずは、優勝者のレオニード・ガリウス・ハルツハイムに祝辞を。おめでとう」


 レオニードが、はっ!と返事をする。皇帝は、続けて言った。


「そして、皆の者よ。私は皇帝として、悲しい事実を報告しなければならない…」




「本日、魔王によって勇者が倒された。」


 一呼吸置いた後に続いた言葉に、群集がざわめき、悲鳴が起こった。国の英雄が倒されただと、それじゃあこの国はどうなるんだとあちこちで不安げな視線が交わされる。それは、特別席でも例外ではなかった。あちこちで起こる悲鳴に、密かに予想していたミニアは眉をひそめ、呟く。


「やはりな…」


 そして皇帝は、構わず言葉を続けた。


「しかし今、勇者によって魔王は聖剣に貫かれ、衰弱しているに違いない。よって、今大会の優勝者には、新しい勇者として、魔王を倒してもらいたい」


 思わず顔を上げるレオ。そしてその瞬間、観衆は一斉に沸いた。新しい勇者の誕生に、皆が祝う。前の勇者のことなど忘れ去ったかのようだ。


 皇帝が去り、群集は家族に、知人に知らせようと急ぎ闘技場を出て行った。きっと、明日には国全体に広まっているだろう。

 そして、ミニアの周りの貴族たちも慌しく出て行く。レオニードが選ばれたおかげで、貴族の派閥の優劣も変わってくるのだろう。




 誰も居なくなった部屋で、ミニアは一人優雅にタルトを口に運ぶ。その可憐な唇からゆるゆるとフォークが引き出され、やがて嘲笑じみた笑みを形作った。


「人間にとって、勇者は消耗品なのね…滑稽だわ」


 見下ろすミニアの瞳には、呆然と立ち尽くすレオニードの姿があった。

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