2.魔王様の憂鬱
はい。というわけで魔王のミニアです。パパに無理矢理押し付けられたので、仕方なく魔王をやっています。
本当は誰かに代わって欲しいけど、前魔王の娘である私より魔力が高い奴なんてそうそう居ないわけで…すでに私が魔王になってはや二百年余り、ときどき魔王の座を狙って挑んでくる猛者たちの相手をする以外、私はずっと暇。暇なんです。
…魔王、といっても仕事はほとんど無し。というか、前魔王のパパの奔放さを誰よりもよく分かっているパパの配下たちが、私に代わって殆どの業務をこなしてくれているからだ。本当に申し訳ない。
あの有能な魔族たちが居なかったら多分、私は切れて城なんて跡形もなく壊していた、と思う。
まあ、そのお陰で私に回ってくる仕事といったら、重要な書類の判子を打つことと、たまにやって来る奴等を王座の間で倒すくらいで、それ以外はなにもやることがないのが現状です。
魔王になる前は楽しかったなぁ…パパの後を付いて色んな戦場で暴れたり、悪戯を城の周りに仕掛けたり。それで怒られたり。今では城の中に篭りっぱなしで、今みたいにこうして窓から外を眺めるだけだけど。
暇潰しになにか襲ってこないかなあなんて物騒なことを呟いてみる。何かないかしらと楽しそうなことを考えてみたけどなんにも思い浮かばなくて、やっぱり暇だった。
最初の頃は…とりあえず目に付いた魔族で遊んでいて、そのうち城の周辺に人気が無いほど減っていたのに気づいてやめた。纏めて潰したりね。破裂させたりね。楽しかったんだけど、さすがにまずいよね~と思ってその遊びはやめることにした。
…別に、そのことで止めてくださいとか泣き付かれたり怒られたりしたからじゃないけれど。本当だけど。
それにしても、本当にやることがないなぁ。だいたいの分野は極めたし、ひとつのことが長続きしない私にとって魔王という立場は限りなく苦痛なのだ。最近では私を恐れる奴が増えたのか、襲撃しにくる奴等も減りつつあるし。
今まで、というか最近までは、俺は魔王に、なる!とか叫びつつ力自慢の猛者たちに全力でぶつかって来られることで、ありあまる魔力を消費していた。
さらにその倒した奴等に魔力を吸い取っては次の猛者たちに期待する、を繰り返していた私は、その相手がいないため魔力の使い道が無く、悪循環のように溜め込んでいたのだ。
現に今、足元には身体に収まらなかった魔力がでろでろと渦巻いている。
強すぎる魔力は、周りに影響を及ぼすから危険なのに。とくに、目に見える形となったものなら、殊更に…。
「……暇だ、なぁ」
ぽつりと呟いた言葉はしかし、だれも聞くものはいない。虚しくなったわたしはため息をつき、魔力を練って結晶にし、装飾品へと変えた。いつも着ている足首までの黒いドレスを着飾ってみる。
たちまち、それらは私の身を、(自分で言っちゃうけど)ママ似の美貌を引き立てた。宝石よりも価値のある結晶は、この世のものとは思えないほどに美しい。
宝石は、身じろぎするたびにじゃらじゃら、と涼しげな音を立てた。しかしその割には、足元に渦巻く漆黒は、ほんのすこしその面積を縮めただけだった。