第1話 日常の終わり
1
「やぁ、初めまして」
目の前から一人の男とも女ともとれない人物がオレたちに恭しく礼をする。
敢えて特徴を挙げるなら’白’だろうか。
白髪で白い衣装を身に纏っている。
しかしその服装は日本、それどころか世界中探しても見つからないような服装だ。
白い人物の後ろに六人の人物が好き勝手にしている。その人物たちは形こそ似ているが色が違う衣装を纏っている。
そして今オレたちがいる空間も普通ではなかった。何もない、色すらもない。ただの空間。辺りを見渡すがどこまでも地平線のように続いている。
「てか、ここはなんなんだよ」
「まだお昼の途中だったんだけどー」
「これっていわゆる、あれなのでは?」
クラスメイトたちが口々に疑問をぶつける。
「まずは自己紹介からしようか」
白の人物は疑問を無視して話を進める。
「僕らは、キミたちをここに呼び出した神だ」
「は、神?ふざけてんの?」
「厨二は中学までにしとけよ」
「そうだ、そうだ」
「ちょっと、みんな落ち着いて」
担任の女教師の藤枝がクラスメイトに落ち着くように促す。
「うーん、やっぱり信じて貰えないかー」
「なら俺が信じさせてやるよ」
白の人物がわざとらしくがっかりする演技を見せているところに後ろでくつろいでいた黒髪の屈強な巨漢が前に出てくる。
そしてオレたちを一瞥する。
「そこのお前、ちょっと来い」
「は、俺?なんでだよ」
「お前は神を侮辱した。俺たちを神だと信じさせる為にお前には人柱になってもらう」
黒髪の巨漢はクラスメイトの加藤に指を刺して告げる。
「はっ、ふざけんな。そんなどうでもいいことよりさっさと元の教室に戻せよ」
黒髪の巨漢の宣言を加藤は鼻で笑い、要求する。
「……」
黒髪の巨漢は何も言わないがその顔に多少の怒りを見せる。
そして手を前に突き出す。
「はっ、しょうもねーな。その格好もただのコスプレだろ。ほんとくっだらねーな」
巨漢の前に移動した加藤は止まらずに罵声を浴びせる。
「あーあ、彼やっちゃったねー」
白の人物が右手で顔を覆い首を左右に振る。
「欲ノ神が命じる、汝の命は我の掌中、汝の過去は焔の彼方」
「あーはいはい。カッコいいねー」
加藤が棒読みで拍手する。
黒髪の巨漢の手が焔に包まれる。
「は?な、なんだよ……それ」
加藤も目の前で起きている事が異常だと気付いたのか動揺を露わにする。
「言っただろ、お前は人柱だ」
「ひ……ひと、人柱」
加藤が体勢を崩し後ろに後ずさる。
「だ……誰か、誰か。俺を助けろー」
少し離れたところで見ていたオレたちに加藤は助けを求める。
しかし誰も動かない。いや、動けない。
黒髪の巨漢に気圧され顔を俯かせる者、自分は関係ないと顔を逸らす者。
誰一人として動けない。
事実、オレも気圧され動けずにいた。
「あ……」
加藤の顔が絶望に染まる。
「塵すら残さず消し去る。エンディフレイアロウ」
黒髪の巨漢の手に纏わりつく焔が矢を形作る。
加藤は後ろを向きその場から逃げ出そうと走り出す。
そして焔の矢が放たれる。
その速度はおよそ人間に視認することはできない。
焔の矢が加藤の背中を捉えた瞬間、その身体が焔に包まれる。
「あ……」
「お、おい……マジかよ」
「加藤くん……」
クラスメイトたちは何が起きたのか分からなかった者、驚きに目を見開く者、悲しさを感じる者、様々な顔を見せる。
しかし、みんな理解した事がある。
加藤が死んだ……か。
オレは他のクラスメイトたちと違い何故か何も感じていない。
「これで僕たちが神だって信じたでしょ?」
白の人物がオレたちに近づいて来る。
神と信じるしかないな。
クラスメイトも頷くしか出来ないでいた。
「うんうん」
その様子に白の人物は満足そうに頷く。
「茶番は終わった。早速僕たちの話をしようか」
2
「……今の……葉、……してください」
「ん、何かな?」
「今の言葉、取り消してください」
「ちょ、先生」
「やめなよ」
藤枝先生が涙を流しながら白の人物に言い放つ。
近くにいたクラスメイトが藤枝先生を止めようとしている。
「何故かな?」
「なっ、何故って、あ、彼は、加藤くんをあの人は殺したんですよ。それに対して何か謝罪はないんですか?」
クラスメイトの制止を気に留めず藤枝先生が捲し立てるように前に出る。
藤枝先生は生徒想いのいい教師だ。
自分のことよりも常に生徒を優先で他の教師に嫌われることも厭わない。
生徒からは人気だが教師連中からは邪険に扱われている。
そんな教師だ。
今もそうだ。
自分の教え子が訳も分からず殺された。今の藤枝先生の胸中は計り知れないほど悲しみに暮れていることだろう。
だが、俺にはそれが理解出来ない。
どうしたらそこまで躍起になれる?
家族でもない、ただの他人だと言うのに。
「謝罪ね、何故僕たちが謝る必要があるのかな。彼は彼の役割を果たしただけだよ。それにキミの言う加藤くん?は神を愚弄したんだ、死ぬのは当然だよ。神を愚弄する愚か者は僕たちのゲームに必要ないからね」
「あ、あなたには人の心がないんですか」
白の人物に気圧された藤枝先生は一歩後ろに下がりながらも食い下がる。
「ふふふ、あはは、あーはははははは」
藤枝先生の言葉を聞き、白の人物は吹き出して笑う。
「あ、ははは、はぁはぁ。ごめんごめん」
呼吸を整えるように一度息を吐き出す。
その様子に藤枝先生は息を飲むことしか出来ずにいた。藤枝先生だけではない、他のクラスメイトたちも同じだった。
「人の心……ね。ああそうだよ、そうなものはないよ。だって僕は神だよ」
「ッ!?」
神とは思えない邪悪な笑顔に藤枝先生は怯えてさらに一歩後ずさる。
「うんうん、分かってくれて何よりだよ。もうこれ以上茶番をしなくて済むからね」
白の人物は笑顔になってオレたちから少し距離を取る。先程の邪悪な笑顔をした同一人物とは思えないほど纏う雰囲気が変わっていた。
「それじゃ、早速僕たちの話をしようか」
そして白の人物はオレたちをこの場に呼び出した理由を話し出す。




