長い長い脱走1日目
あなたの大切な人____
世界で一番何よりも大切な人。
全てのものを犠牲にしてでも
守れる自信はありますか?
君しか____最期まで私には【君】しか見えていなかったんだ
この世界には9つの国がある。
そのうち最も豊かな国であると呼び声高い国、【ブルーム】。
北に、無法地帯と呼ばれている【ナグレス】
東にはナグレスの支配下であった【エリュシア】
西側は海を挟んで現在、戦力が一番強いとされる【カバンクル】。
ブルームは上記のような場所に位置している国であり、代々フローレス家が治めてきたものとされている。また、フローレス家に代々使え続けているクラーク家。
その2つの家に生まれたものには生まれつき、首に紋様があると言われており____
と、まぁここまでは教科書に書いてあるとおりだ。ブルームに住んでいるものなら誰しもが知っていることだろう。
しかし、そんな豊かで栄えているブルームでは最近、民衆たちの不穏な動きが見られる。
国王の理不尽な政治。また、フローレス家長女のルミナ様が表舞台へなかなか姿を表さないことへの不満と不信感。
''ルミナ様は次の王女となるべき人なのに、民衆の前に立たないのはおかしい、なにかあったのではないか____?''
私はレイラ・クラーク。
ルミナ様に仕えるメイドだ
この国では近頃、市民の反発が酷い。
今日も舞踏会を行う予定らしいけど、民衆の反乱がいつ起こるか分からないのに開催をするのもどうかと思う。
まぁ国王が決めたことなので仕方ない。
そう自分を納得させて長い廊下をコツコツと靴を鳴らしながら歩く。
廊下の幅は約10m程。
下にはホコリ一つない真っ赤なカーペットがひかれてある。
真っ白で光沢のある壁には5mおきに窓が設置されており、ステンドグラス状になっていて、光が差し込むと様々な色の光が白い壁に映ってとても綺麗だ。
お目当ての部屋の前までくると、金属でできた重厚なドアを開ける
「ルミナ様、舞踏会の用意を」
そう言って私の目に入ってきた光景は___
姫様が窓から脱走しようとしている場面だった
「ちょっと!!?なにしてんの!!???!」
信じ難い光景を目の前につい、敬語がはずれてしまった
『!あ…』
ここは3階。下手したら30mはある高さだ。
ルミナ様は部屋の一番奥にある大きな窓から脱出を試みていたらしい。
『レイラぁ……ごめんなさい…、舞踏会が嫌すぎてぇ、、人前あんまり好きじゃないんだもん。』
「そうは言っても仕方がありません。早く準備をいたしましょう」
『うう……二人で抜け出そうよぉ、』
弱々しくつぶやかれる声
『だって…だってぇ!!美味しいものが沢山あるのに食べれないのが一番いやなのぉ!!!』
舞踏会のときはなるべくウエストを絞ってドレスを着るため、物理的にお腹に食べ物は入らない
この身分に生まれてきてしまったがためにこんなことになっているルミナ様には同情するが、私にはどうすることもできない。
「そうは言っても…、、数時間だけですし、」
『嫌なもんは嫌なのぉー!!』
ルミナ様は昔から人前に出ることを極端に嫌がっていた。何か理由があるのかと聞けば、『嫌なもんは嫌だ』と返ってくる。
「とにかく!先にメイクを終わらせてしまいましょう。着付けは後でいいですから。」
そう言いながら無理やりルミナ様を化粧台の前に座らせる。
『レイラぁ〜〜ほんとにやるのぉ?私、舞踏会中に脱走しちゃうよぉ??いいのぉ?』
「だめです。脱走も不参加も許さないと国王から命令が下っておりますので」
ぶつぶつ文句をいうルミナ様を横目に私はヘアメイクを始める。
ルミナ様の肌はきめ細やかで真っ白だ。
瞳の色は黄金色で光を反射してきらきらと輝いている。また、腰まである髪は栗色でふわふわしており、お花畑がよく似合う姫様だ。
肌に粉をブラシでのせ、アイメイクを始めようと黄金色の瞳をのぞき込んだ
薄ピンク色のシャドウを筆にとって瞼にのせる
少しずつグラデーションになるように、淡いピンク色ものせていって……
「ん、?」
(あれ、こんなに……目の縁黒かったっけ、?)
あまり顔を近づける機会がないので分からなかったが、わずかに___ほんの数ミリだが、黄金色に輝く部分が減っている気がした。
「ルミナ様、お言葉ですが……、、視界に問題はありませんか?」
ルミナ様の顔が固まった。先程までぶつぶつと舞踏会への文句を垂れ流していたときは、ころころと表情が変わっていたのに。
背中に1筋の汗が流れた
手が無意識に震える
嫌な予感がした。
そういえば最近、ここ数年でルミナ様は
壁や柱にぶつかったりする機会が増えたなと思う。また、よく目をこする仕草もしていたような____?
『っ、ぁ……大丈夫だよぉ?』
おかしいおかしい。絶対におかしい。
嫌な予感が、確実なものになっていく。
"暗瞳病"
ブルームに伝わる治療法も原因も分からない病。
次第に目が見えなくなっていく病。
一年に数ミリずつ眼球の端が暗くなっていき、完全に見えなくなったときに死ぬ病。
ルミナ様がここ数年間、民衆の前に出ることを極端に嫌がってなるべく外界へ出ようとしていなかったのは…もしかしてその病のせいなのではないか。
「ルミナ様、隠していることがあるなら…言ってください。………っ、暗瞳病なんですよね、?」
ルミナ様の表情が消えた
『そ、そんな、わけ…っ…ないじゃん?いきなりどうしたのぉ…?』
絶望感が押し寄せる。私が生涯をかけて守り抜きたいと思っていたルミナ様が…原因不明の病を患ってしまうなんて。
「ルミナ、ほんとのこと、言って」
『……そうだよぉ…、レイラには黙っておこう、そう思ったんだけど。いつからだったかなぁ、8歳ごろから、?なんとなく見えづらくなってぇ……』
「っ…、言ってよ、そんな……信じたくない…です」
私はあなたを守るためだけに生まれてきたのに。
こんなに可憐で愛おしい貴方がどうして。
暑いものが目から溢れてくる。
ルミナは困ったように、眉を下げて細くて白い指で涙を拭ってくれた。
『そんな顔しないでぇ、?大丈夫だよぉ!なんとかなるはずだからぁ、!大丈夫大丈夫』
無理して笑うルミナ様。
世界はなんて残酷なのだろう____
そう思いながら輝きを失いつつある黄金色の瞳を再び見つめる…瞬間だった
民衆の大きな声が、城の外から聞こえた
階段をドタドタとかけ上がる音
廊下を走る音
そして____
バタンッ
金属の重厚な扉を意図もたやすく開けた番人は
“国王が…国王が討たれた!!!!!!"
そう、言い放った。今…なんて?
銀色の甲冑を着た番人は息も絶え絶えに
“国王が討たれた
早く逃げなければ二人とも討ち死にする
特にルミナ様は市民の前で断頭台に上がらされることになる"
といったことを私達に大声で伝えた。
「他のメイドや使用人はもう逃げたか、捕まって血祭りに上げられている。早く逃げ出さないと
二人とも____国王軍は直ちに応戦しているが、市民の勢いが強く抑えきれない、そもそも反旗を翻して市民側に寝返ったものもいる。
誰も信用するなよ、ブルームから離れろ」
そう言い残すと、その番人はまた廊下の奥へと走っていった。
しばらく呆然としていた。きっとそれは数秒だったけれど
最も豊かな国で、平和主義なブルームで…国王が暗殺?討たれた??そんなこと歴史の教科書には書いていなかった。つまりブルームが始まって以来史上初のことで。
『……………れ…ぃ…あ!!れいらぁ!!レイラ!!!!!!!』
ゆさゆさとルミナ様に肩を揺らされてハッとする
驚いている場合ではない、早く、早く逃げなければ
『レイラ!!早く!!』
「っ、うん!!早く逃げよう、…!!」
私はまだ衝撃で足が動けずにいた
しかしルミナ様は違った
ルミナは立ち上がってクローゼットを開けるとフードのついたスローブを2着取り出した。
そのうちの一着を自分の身に纏うと、もう一着をこちらへ投げてよこし、
『これ着てぇ!それで、こっち!!付いてきて!大丈夫、大丈夫だからぁ…ね?』
私もはじかれたようにスローブを纏いフードを深くかぶると
ルミナに腕をひかれ廊下へ飛び出した。
もうすでに反乱軍の3割ほどは城の内部まで入り込んでいる様子だった
中には城に火を付けたものまでいるらしく、黒い煙がどこからか漂ってくる。
『レイラ、大丈夫?あともう少しだからぁ!』
「うん、!」
ルミナはどこへ向かっているのだろう。
腕を引かれるままついていくと、ある部屋の扉を開け放ち、部屋の側面の壁で立ち止まった。
そこは城の離れのような場所でほとんど使われていない、いわば物置のような状態の場所だった。
埃をかぶった家具が何個か。そして大きな絵画が一枚、壁に飾られている
ルミナはおもむろに足元にあった椅子を掴むと、
その部屋の印象の八割を占めているであろう、大きな油絵の技法で書かれたであろう絵画
に____椅子を振り上げた
バリッ
嫌な音がして絵画に穴が開く。その奥には…
「抜け道?」
『っそぉー!だいせいかーい!!行くよ!』
再び私の手を取り真っ暗闇の空間へ飛び出す
そこには直径1mほどである狭い石造りの螺旋階段があった
カッカッカッと二人分の足音を鳴り響かせながら螺旋階段を降りる
一体何段下ったんだろう
「これってどこに繋がってるの?」
ふと気になってルミナに聞いてみると
『え?分かんない!ちっちゃい頃に父様に聞いたっきりだからねぇー、ここ通るの今日が初なんだぁ!』
「……」
ルミナは強い。物理的にどうかは分からないけど、圧倒的に私より強い。それは生物的にかもしれないし、精神的にかもしれない
そんなルミナだからこそ守りたいそう思ったのだけれど
『あれぇ、これが最下層かな?扉開けていいと思う?』
木製の今にも壊れそうな扉。
「私が先に行く」
『ええーレイラ先?危なかったらどうするのぉ?』
「こっちのセリフ。ほら、開けるよ、?」
ギイッと嫌な音を立てて扉が開く。
そこには水が流れている通路がずっと先まで続いていた。
「水路……?」
『んーこれ辿っていったらどこに出るんだろぅ、
とりあえずこっち行ってみようよぉ!!』
「え、ちょ、待って!!なんでそっちなの?」
『?なんかこっちのほうがいい気がしたんだもん!ほらぁ!はやく!!』
そう言うとルミナは躊躇なく水路に足を突っ込んだ
『レイラも!おいでぇ?』
そう言ってこちらへ手を伸ばすルミナの瞳は暗闇を照らすように輝いていて、とても綺麗だった
まるで生きるのが楽しくて仕方ないとでもいうように
「っ…ありがと!!ルミナ!」
ルミナの手を取る
国が滅ぶか否かの緊急事態。
そんなことは頭では分かっていても。
昔のようにルミナと対等に話せて立場も何も関係なしに関われる今を楽しみつついる私がいた
ジャブジャブとどんどん水路を歩きすすめる
次第に水路の先が明るくなってきていた
道が完全に開け、外の景色が見えるようになると、そこは港町だった。
『ここぉ…何処だろう??』
「多分……西側の港町じゃないかな?」
『あー!なるほどぉー!!』
城は南側にあったため、そのまま北上してきたことになる。
ルミナの眉にシワが寄った
『……フード、深く被ってぇ』
「え、うん…?」
そう言われ言われるがままフードを深く被る
何する気……?
嫌な予感がして
「まっ…て…!??!?」
そう言うと同時に
ルミナは再び私の腕を掴んで港町へ駆け出した
(いやいやちょっとまって???!これ捕まったら二人とも殺されるんだよね??なんでこんな余裕で…むしろ楽しそうなの?)
ルミナのチラチラとみえる横顔は輝いていて
ああ、これが本来のルミナなんだろう
そう直感で思った。
いつもは「ルミナ様」という役割で縛られて城という檻から出してもらえない
きっとずっとこうやって城じゃない場所を走ってみたかったのだろう
新鮮な魚が並んでいる魚市場や大きな船が何隻も止まっている立派な船着き場を通り過ぎて
走って走って
走り続けた
ちらちらとこちらを見るものは何人かいたけれど、とくに気に留める様子もなかったため比較的走りやすかった。
、、、
何かがおかしい
比較的走りやすい、そう思ったが明らかに港町にしては
"人が少なすぎる"
確かこの町はもっと栄えていて、人口も多かったはずだ。
「これどこに向かってるの?」
『あっち!確かあそこの森を超えると国境があった気がするんだよねぇ、』
そう言ってルミナが指差した先には
森…、、
というか一度入ったら出られないという樹海が広がっていた
ブルームの地形は、小さな山や谷を除くと、
南側が高くて北側につれて徐々に低くなるものだ。
つまり、城から毎日この樹海は見えていたわけで。このブルームの約3割はこの樹海が占めているといっても過言ではないだろう。
「え、??いやいやあそこ入ったら抜け出せないと思う」
『だいじょーぶだいじょーぶ!!なんとかなるってぇ!』
「ええええ」
本当にこのまま樹海に入るのだろうか
どんどん緩やかな傾斜がある道を進んでいって
いくつもの家やお店を通り抜けて
違和感が確信に変わった
私たちは何者かにつけられているしかも複数人。
「ちょっとまってルミナ、何かおかしいよ」
『んー?』
「港町にしては人が少なすぎる、」
『あー!確かに!それは思ったんだよねぇ〜あと、何人か後ろと左右についてきてるよぉ』
「!」
やっぱり……
ルミナ様の懸賞金目当てだろうか
『……レイラ、多分だけど足音的にその道に長けている者じゃないからぁ、こっち、!!路地裏行こう』
「!うん」
ルミナに手を引かれてそのまま更に複雑な路地裏へと入った
ついてくる足音
私たちがスピードをあげるとあちら側もスピードをあげてきて
その時だった
"裏切り者の姫がここにいるぞーー!!!!!"
"今すぐ姫の首を!!!!!!!"
"次期女王の首を!!!!!"
その声を皮切りに後ろから今まで姿を隠していた者たちが次々とでてきた
武器を持って
「…?!?、!この国では武器の所有は禁止されてたはずじゃ…!?」
『……!カバンクルだ』
「!!密輸ってこと?」
ここはカバンクルに最も近い港町。
現在、カバンクルは戦力が最も強いとされており
武器の輸出入で経済を回しているようだった。
ブルームは武器の輸入に規制をかけていたはずだったのに……
西側の地域だったから比較的容易く武器を密輸できたのだろう。
『…あれぇ?結構ピンチかもぉ〜〜!!』
「結構どころじゃ、ない!!」
家の横の細い階段をどんどん下って樹海が近づいてくる
ただ、
そろそろ体力も尽きてきた
後ろから太刀を持った大男が群衆の中から頭一つ抜け出して
私たちに振りかざす一歩手前
目の前に突如扉が現れた
『「?!」』
「行き止まり、?!」
『え?』
そしてその扉はギイッと開き……
あろうことか中から手が伸びてきて
一連の流れが一瞬のうちに起こって
私たちはその手から逃れられなかった
「いやっ、」
『っ!むりむりむりむりぃ!!』
バタン
そのまま私たちは扉の奥へ吸い込まれた
まぶしい
「……ん、んん」
どこだっけ
私何して……
「!!!ルミナ!?」
バッと勢い良く体を起き上がらせる。
『んん…な、、にぃ…?』
声のする方を見るとそこにはルミナがいた
「っ、!!よかった〜〜!!!!」
『レイラぁ大げさ過ぎない、?』
クスリと笑うルミナがとにかく元気そうでよかった
しかし
ここはどこなのだろう
辺りは暗くてあまり遠くまでは見えないが
見渡しても見渡しても
本棚しか目につかない。
辺り一帯にはざっと…3、4mを越える本棚にびっしりと本が並んでいる。
中心辺りには直径10mほどの大木をくり抜いて作った、円柱のような形をしている本棚がある。
天井がとても高く、そもそもこれが最上階なのかどうかも怪しい。
また室内?だと思われる場所なのに植物が至るところに生えているのも謎だ。
「ここ、どこなんだろう?」
『捕まっちゃったのかなぁーーー、殺されちゃう…?』
「……ルミナは……もし」
キィエエエエエエエエアアアア
私の声を遮るように、甲高く、どこか不安にさせるような音が聞こえた
それは動物の鳴き声のようで。
『?……なになになになにぃ?レイラぁ??今のってレイラ?』
「違うに決まってるじゃん!!!」
私は動物が苦手だ。犬や猫、とにかく四足歩行の動物が苦手
一刻も早く立ち去りたい。ここがどこかわからないけど、動物だけは……!!!!
…もう手遅れだった
先程奇声を上げたと思われるナニカが私の肩に止まっていた。
『びっ…、くりしたぁー!!さっきの声この子ぉ??
』
「ひっ…………ぃ、、…ぁ、」
『?レイラ?なんて言ったのぉ???』
「いやあああああああああほんとむりほんとむりむりむりむりごめんなさいごめんさい!!!!」
私は半泣きになりながらナニカを払いのけようとする
『ちょ、レイラぁ、、落ち着いてぇ』
ナニカは私から振り下ろされる拳をすべて避ける
「??!?!?!?!」
なんでコレ肩から離れないの??!?!
やめてよ!!
そうは思っても声が出てこない
そうしているうちに
ナニカと目があった
美しい金色の……暗闇によく映える猛禽類の目。
「えっと…?梟…?」
ニンゲンの怖いという感情は大体未知のものに湧く。正体を知ってしまえばあまり怖くない(動物以外は)
そして、今回は鳥類だったので、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
そんなとき、
「すまないねぇ。エリーが驚かせてしまって悪かった。」
「…?!…だれ、ですか?」
エリーと呼ばれている梟が飛んできた方向から声がした
振り返ってみるとそこには、
真っ黒なコートを着ており
エリーとよく似た金色の目をもつ人間が立っていた。
髪は腰ほどまであり、コートからみえる手足は陶器のように真っ白だった。
「失敬失敬。ルミナ様が危険な目にあっていると、エリーから聞いたもんでねぇ。
王族が途絶えるわけにはいかない。少々手荒な真似だと分かっていたが、許してはくれないか」
そう言い放つ声は渋く、とてもその美貌からは考えられないほど深く、低い声だった。
「あ、あなたは一体誰なんですか…?」
「あたし?あたしはルーナだよ。隠す気もないから言うけど、あたしは魔法使いさ。」
「?!!?」
『魔法使い…?、!でも、魔法使いは、、数百年前に全員殺されたはずじゃ、!?』
「ああ。殺されたよ。すべての罪を被って、
ブルームにいる魔法使いは全員、一人残らず。」
意味がわからなかった。じゃぁここは一体……?
「、…?ここは、ブルームじゃ…?」
「あぁ、そうだった。
ここは【カバンクル】さ」
「『カバン…クル、?!!?』」
どうやら、私たちは大洋を渡った先にある、【カバンクル】に飛ばされたらしい。
「ブルームにいたらあたしもろ共殺されてしまうからねぇ。少し飛ばさせてもらったよ」
私たちは、市民の反乱に巻き込まれて。
ルミナ様の首に懸賞金がかかって。
城の抜け道から水路をつたって港町を走り抜けて。
勘付いた民衆から逃げていたら突如扉が目の前に現れて。
カバンクルに今いるってこと?
『そっかぁ、ここがカバンクルなんだねぇ』
興味深そうにうんうんと頷くルミナ。
いつもどおりふわふわした返事。
警戒するということを知らないみたいだ。
「あら、今回の姫様は随分ふわふわしてるねぇ、
あたしが仕えていたヒメサマとは大違いだ」
そう言いながらクスクス笑うルーナ。なんだかルミナのことを馬鹿にされたみたいで癪に触った
「それは……喧嘩うってますか?」
「おっと!そう怒らないでくれ、メイドさん。
ヒメサマが元気なことはいいことじゃないか。」
「そうでしょ?」
「ああ。……あたしの愛しのヒメサマはもういないからなぁ、大切にしてやれよ」
「さっきから姫様姫様って誰のことを言ってるの?」
「!そうだったねぇ。そうだったねぇ。あの大戦のことは歴史書には載っていないからニンゲンサマが知らないのも無理ない。
いいよ、この際だ。話してあげようじゃないか」
『んー?大戦ってなんのことなのぉ?』
先程まであたりをキョロキョロ見渡して落ち着きがなかったルミナはいつの間にか私の隣に座っていて
そう聞いていた
「おやぁ、?姫様も興味があるのかい?この話に。」
『えぇ、あるわぁ。』
「そうかいそうかい…メイド、いい主を持ったじゃないか」
そう言いながらルミナをどこか愛おしげに見つめる金色の瞳。ルミナのものとはまた違う、妖しさを含む、そんな色。
「遡ること10000年前____」
「その頃、世界は今みたいに平和じゃなかったんだ。教科書では大戦は世界が始まってから3回起こっていると書かれているけどねぇ。それは最初の1回目を数えていない。
つまり、この世界で起こった大戦は全部で4回なのさ。
あたしはその最初の大戦に巻き込まれた。
あたしには二人の親友がいた。フレヤとガヴァネス。二人とも国は違ったが、仕事柄よく交流する仲で、よく三人で話したものだよ。
フレヤは当時、この世界で一番強かったとあたしゃ思ってる
ガヴァネスはあたしと同じ、王族に仕えるものだった
ガヴァネスとは役職柄話が合ったし、フレヤの奇想天外な魔法も、話もどれもとても面白かったんだ
ただねぇ
この3人の仲に亀裂の入る出来事があった
それが最初の大戦なのさ。
フレヤはもともと魔族で、かなり強い魔法が使えた
一人で1国を滅ぼすことができるくらいには強かったんだ
この頃魔族って言うのは特段珍しいものではなかったんだけど、
フレヤの魔法が……強すぎだったんだろうねぇ。
ガヴァネスの母国、【ドミネラ】は【カバンクル】のフレヤをとても警戒していた。
そして……
王族に仕えていたガヴァネスは、"フレヤを殺せ"、そう命令されたんだ。
ガヴァネスは人一倍国…王族への忠誠心が強かった。
……
ガヴァネスから一度だけ相談……を受けたんだ。
"私は国からフレヤを殺すよう命じられた。私はこの国、王にすべてを捧げると誓っている"
その先はいくら鈍いあたしでも言われなくても分かった。
ガヴァネスはフレヤを殺す____
あたしゃ止められなかった。
強すぎるフレヤの力も、国への忠誠を誓うガヴァネスの気持ちも分かってしまったからだ
あたしからすればフレヤもガヴァネスもどちらも同じくらい大切でかけがえの無い親友だった
だから、どちらも裏切ることができなかったんだ
流石に殺さないとあたしはあたしたちの仲を過信しすぎていたのかもしれない。
フレヤを殺したガヴァネスはそれはもう英雄になった。
他の国もフレヤのことは警戒していて、鬱陶しく思っていたヤツが大勢いたのだろう。
フレヤを殺したガヴァネスはいろんな国から称えられ、賞賛された。
お祭り騒ぎのようだった。
そんな中私が仕えていたヒメサマが死んだ
目を離した一瞬だった。
あたしはヒメサマのことを誰より理解していた自信がある。
ヒメサマは運動能力が高くてねぇ…一人でもそこら辺の雑魚には負けない、そう思っていた。
フレヤ殺しが成功したパレードがブルームで開催されて、そこに参加している最中だった。
エリーとの視界共有をしているときに
後ろに嫌な気配を感じて
あっと思い魔法を繰り出そうとした瞬間
ヒメサマは後ろからザックリ太刀で刺されて死んだ
魔法じゃなかったんだ
ヒメサマは
絶対に防げる物理攻撃によって死んだ
そして空いたヒメサマの座に………
ガヴァネスがついた
あたしは混乱した
あたしにとって命より大切で
なんとしてでも守りたかったヒメサマは死んでしまった
なんでフレヤを殺した……親友を殺したガヴァネスが??
後に、ドミネラとブルームは裏で秘密裏に手を組んでいて、
ガヴァネスがフレヤ殺しを成功させたら、あたしの仕えていたヒメサマを殺し、
その空いた空席にガヴァネスを就任させる、そういう条約だったことを知った」
そんな……そんな、残酷なことがあるのだろうか
大切な人が、自分の前で救えるのに殺されてしまうのは……自分が死ぬことより恐ろしい
「ああ
そうそう、言い忘れてた。
はじめ見たとき思ったんだけどねぇ
ガヴァネスはアンタと同じ黄金色の瞳を持つ者だった。それでそこのメイドはフレヤにそっくりな澄んだ青い瞳をしているねぇ」
昔の親友を見るように
はたまた殺された者と殺した者を見るような
そんな金色をまとった目で
ルーナは私達を見ていた
………今の話は本当なのだろうか
私は少なくともそんな話、聞いたことがなかった。
フレヤやガヴァネス、ヒメサマ……どの単語も聞き慣れないものだったし、私が知っている大戦の始まりは10000年前なんかじゃない
8000年前だ。
混乱している頭で今の状況を考える。
つまりルーナは10000年前、二人親友がいたものの、フレヤの強すぎる力が、大戦のきっかけとなりその力はフレヤ自らをも破滅におい込んだ。
そしてその力は3人の絆をいとも容易く割いてしまったに違いない。
更にルーナがその時仕えていたヒメサマとやらは国同士の陰謀に巻き込まれ、歴史にも残らず儚く散った悲しきお姫様だったということになる。
『あの、今言ったことは本当なのぉ…?』
躊躇うようにルミナが口を開き言葉を紡ぐ
「ああ、本当だよ、信じたくない気持ちも分かるがね。そしてこの話はこの世界にとって都合の悪い物として扱われ、歴史から抹消された」
『なんで都合の悪い物なのぉ、?』
「なんでって…そりゃぁ、国一つを一人で滅ぼせる化物のような魔法使いが居たってことを隠したかったからさ。
いいか、この世界は魔法使いに厳しい。
まず数が違う。人間は人口の9割ほどを占めていて魔法使いはたった1割だ。そこで強い魔法使いがいて国一つを滅ぼすことができる…そんなこと知ったら人間は魔法使いに疑心の念を抱き、それを拭うことは不可能に等しい。
人間は得体のしれないものに恐怖を抱く。そしてそれは……人間以外の種族を滅ぼしかねない大きな大きなどす黒い感情となるだろう?
ねぇ…人間サマ?」
そういうとルーナはおもむろに私の肩をつかみ、膝立ちのままズイっと一気に距離を詰める
両手で顔を捕まれ強制的に上を向かされる
鼻と鼻が触れ合いそうになる距離
ルーナはにやりと笑うと
大きな口を開けた
視界いっぱいに
狙った獲物は逃さないとでも言いたげな猛禽類の
ギラつく金色の瞳
人間にはない剥き出しの白い牙
食べられる、そう思った
「『、っ!!」』
「ああ悪い悪い、怖がらせるつもりはないんだ。そもそも魔女は人間なんか食べない。
ただ、今あたしのことを"恐い"と思っただろう?食われる、そう思っただろう?その思いが増幅するとどうなる??」
ああ…確かに……今私はルーナのことを本能的に怖いと思った。圧倒的力を目の前に突き出され、自分の無力さを知るこの瞬間は何回経験しても不愉快だ
そして怖い
「分かったかい?今までの話、」
私は無言で頷くことしかできなかった
永遠と思われるかのような沈黙が続いて____
私は一番大事な部分を聞いていないことを思い出した。
「、!それで、どうやったらルミナの目は治るんですか?」
「あぁ……そうだったそうだった。さすができたメイドさんだ。
つい、昔話に花が咲いてしまったねぇ、すまないすまない。
単刀直入に言うと姫様の目を直接治すことはできないのさ
だから、アルテミスにあるなんでも一人一つ願い事を叶えてくれる湖【オブリヴィオ湖】に行ってみるといい。そこで暗瞳病を治してもらうよう、願うのが一番いいんじゃないかと思うねぇ」
都市伝説の本で見た湖の名前【オブリヴィオ湖】
「…オブリヴィオ湖…本当に実在するんですか?
というより、ルーナはこの病気治せないんですか?
ルーナが創り出した病気なんですよね?」
「……それはできないのさ。なにせ今はあの頃の全盛期の魔力じゃない。
あの頃の魔力を上回る魔力で魔法をかけたら治ると思うんだがねぇ……すまない、」
申し訳なさそうに長いまつげが伏せられる
程よくカールした長く、黒いまつ毛は陶器のように白い肌に伏せられて美しい
「………そうなんですね、」
重い空気が続く
そこに、ルミナの明るくふわふわとした声が響いた
『ルーナさんは行ったことがあるのぉ?』
「あぁ。何度かお邪魔させてもらったよ」
「その願いは…叶ったんですかぁ?」
「そうだねぇ…もう少しで叶いそうといったところかな」
『そうなんだぁ…、アルテミスって年中霧に覆われた場所何でしょぉ?』
「ああ、そうだよ。だからあたしがそこまで二人を飛ばしてあげる」
『いいのぉ、?!』
「ああ、、もちろんさ。姫様のためだもの。」
「…飛ばすって………どうやって?今いるカバンクルからは数千キロ離れているけれどどうするんですか」
私はそのまま浮かび上がった疑問をぶつける
私の疑問に目をぱちくりさせたルーナは
「ハッ、あたしもナメられたものだねぇ。ただその勝ち気で何者にも牙を向く姿勢は嫌いじゃない。
いいか、あたしゃ10000年以上生きてる魔法つかいさ。数千キロの距離ごとき一瞬で移動させることなんかお茶の子サイサイだよ。ほら、立った立った」
そういうとルーナは持っていた古びた木の棒…魔法の杖で私たちの肩を叩いた。
その棒に促されるように立つとやはりルーナの長身に目が惹かれる
私も160ほどで決して低いわけではない、ただルーナと並ぶと見劣りするのは確かだった。
少し…………恨めしく思う
ルーナは杖でなにかを床に書き出すと、
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
何やら怪しげな魔法を唱えだした
そして
辺りがカッと照らされると私たちの足元には所謂、"魔法陣"が広がっていた
「それじゃぁ、このままアルテミスまで飛ばすよ、その目、治るといいねぇ」
そう微笑むルーナはどこか遠い目をしていた。
どんどん魔法陣の下から眩い光と風が出てきて
目の前のルーナが見えづらくなってきた頃
隣のルミナが焦ったように、
『まってぇ、あのぉ聞き忘れててぇ、なんで…なんで私たちを助けてくれたのぉ?』
「あぁ、それはねブルームの王族が絶たれてしまうと少しばかり都合が悪いから……そして____失った親友に…似ていたからだよ
どうしても助けたくなってしまうんだ」
ルーナの瞳は
今までの冷酷で妖しさを含む金色の目ではなくて
慈愛に満ちたなにか大切なものを見る目だった
ゴオオオオオオオオ
その瞬間
辺りは白く光って
「……っ!まずい、!!結界が…!!!」
そうルーナの声が聞こえたとともに私たちの足は地面を離れていて
最後に見たルーナは目を見開き、どこか焦った様子でこちらに手を伸ばしていた。眩い白い光に包まれて浮遊感が衝撃へと変わる
「がっぁ、、、!!!!」
背中に走る衝撃
泥が跳ねて白いブラウスの襟を汚しているのを横目に見ながら私は意識を手放した
『痛ぁ〜ここどこぉ…?レイラ!レイラぁ!!おきてぇ!』
ユサユサと私を揺さぶる声で目が覚める
「んん…」
その瞬間鼻につくような、錆びた、ひどい鉄の匂い
とてもじゃないけど、霧に年中包まれ、清涼な雰囲気を醸し出すアルテミスだとは思えなかった。
「ここって……」
『ここはぁ……どこだろぅ、さっきからよくわかんない煙のせいで前見にくいなぁ』
一人で動こうとするルミナの手をつかむ
「ルミナ、あんま離れないで」
『わかってるわかってる!だいじょぉーぶ!』
私はルミナの専属のメイドでルミナが生まれたときからずっと一緒にルミナの隣で生きてきた。
ルミナは明るくてふわふわしている
声は甘く、心地の良い高さをしていて、少し語尾を伸ばす癖がある。
身長も私より小さくて150cm程だろうか
肩幅も華奢で、体は薄い。腰ほどまで伸びた栗色の髪の毛は少し癖があり緩やかにカーブを描いている。
肌は白く、きめ細かい。
そして一番目を惹かれるのは……黄金色の瞳。
"お姫様"その言葉を具現化したような存在、それがまさに私の仕えるルミナ様な訳で。
ルミナはふわふわしている。どこか現実味を感じさせないような外見、誰にでも優しくて明るい、
どんなときでも笑顔を手放さず、誰かを笑顔にすることができる性格
ただ裏を返せば____
力があまりない、危機感が殆ど無い、初対面の者にも警戒心を解きすぎる
そんな弱点は、
ときに致命傷となりルミナ自身の命をも奪うことになりえない。
だから私はルミナを守れるように、幼い頃から護身術を磨いてきた。
きっとそこら辺の人間相手なら負けることはそんなにないだろう
ただ………ここがナグレスなら話は変わってくる
そこは本物だ。
"生き地獄"そう呼ばれるその地には半端な人間は存在しない。
『あったぁー!レイラ!看板あったよぉ!』
「…なんて書かれてあるの、?」
『………ナグレスだってぇ』
最悪だ。
一番嫌なところに飛ばされた
しかもここ数時間、私たちは何も口に入れることができていない。
服もボロボロで、長いメイド服のスカートには泥が付着しておりどこかに引っ掛けたのかところどころほつれていたり、破けていた。
また、城から脱出する際や港町で追手から逃げるため走り続けた私の足は悲鳴をあげていた。
きっと、ルミナも限界が近いのだろう
顔は元気そうにしているが、足元がおぼつかない。
とにかく水だけでも調達して
ナグレスの夜を越し、せめて日が昇っているときに行動しなければ、命はないと思ったほうがいい。
夜のナグレスは本当に危険だ
ポケットから時計を取り出し、時刻を見ると夜の3時。
(「あと3時間ちょっと………」)
「ルミナ、とにかく私のそばから離れないで」
『ん、分かったぁ』
どこか気が抜ける返事は私を笑顔にさせる。
泥がついている顔を拭うと、少し照れくさそうに笑うルミナ
『泥ついてたぁ、?へへ、気づかなかったぁ…
!あ、レイラもついてる、かがんでぇ』
白くて細く、指先が少し赤くなった手が私の頬についた泥を拭った
お互い泥を拭い合い、ある程度顔が綺麗になった頃
「ルミナ、夜が明けて明るくなるにはあと3時間くらいかかるから」
『レイラぁ…、多分だけど、ナグレスには日が昇らないよ』
「、ぇ?」
『上、見て』
空を見上げると夜にも関わらず星は一つも出ていない
また、ブルームに比べ雲の位置が低いような……?
「、雲?」
『…私もずっと雲だと思っていたんだけどねぇ…これ多分煙だよ』
「けむり、、??!」
『しかもぉ、すごい息苦しくない?』
「ん、?なんか息がしにくいなーとは思ってたけど」
『多分…死の霧だよ、これ』
死の霧?私はそんな霧があることを知らない
『えっとねぇ…私、聞いたことがあって、!ナグレスのこと。舞踏会で知り合った人だったんだけどぉ、その人が"ナグレスには常時死の霧"が充満していて、ナグレスに産まれたものの寿命は30年ほどだって言ってえぇ…』
確かにナグレスの平均寿命は他の土地に比べ極端に低い
また、ホントかどうかは分からないが、ナグレスに産まれたものはナグレスから一生出ることはできない。
つまり、そのルミナが言っている人の発言を鵜呑みにするのなら
この地に産まれたものは死の霧を吸うことから逃れることはできないため、30歳くらいで死んでしまう ということだろうか
「……なるべく早くナグレスからは離れたほうがいいね、」
『私もそう思うぅ…ただちょっと疲労で眠たくなってきちゃったぁ』
そう言い私の服の袖を掴みながらコクリコクリと寝始めようとするルミナ
「ルミナ、この道のど真ん中はやめとこ、?」
辺りを見渡すとすぐそばに影のようになっている路地裏が目に入った
あそこなら誰にもバレず、数時間休むことができるかも、そう思った。
私はウトウトしているルミナを抱え路地裏へ入った
路地裏にルミナを抱え、入り込むと壁に背中を預ける
もう体力も足も限界だった。
私の腕の中ですやすや眠るルミナの柔らかい髪をそっと撫でる。
お願いだから、一刻も早くナグレスを抜け出せるよう願い、私も目を閉じかけたようとした瞬間だった。
路地裏の入り口へ誰かが近づいている。
それも二人
私の背筋に悪寒が走った。
嫌な汗が1筋、私の首元を流れる
私の脳は【逃げろ】と警笛を鳴らすも、疲労しきった体はもう言うことを聞かなかった
私はルミナに自分の着ていた真っ黒なスローブをかけ、ゆっくりと地面に寝かせる
何かあったときのために持ってきていた、手に馴染んだ短剣に手をかける
この地獄で私が勝って生き残るには一瞬で勝負を決めるしかない
(…一瞬でも判断を間違えたら二人とも死ぬ)
霧を掻き分けるように進む2つの規則正しい足跡
霧が揺れ、二人のシルエットが浮かび上がる
そこには赤い目が4つ並んでいた
一人は金髪
もう一人は…黒髪?
「おいおいおいおい………!!まじかよ!!
なんか嫌な気配がするなぁと思ってきて見れば!!こんなところで、メイドサマ?とやらに会えるなんてなぁ」
「ルイス…うるさい、声がでけぇ」
私は飄々と会話する二人の隙を見逃さない
まずはあの声も体格もでかいほうから仕留める
グッと足で地面を蹴り上げ、間合いを詰める
そのまま逆手にとったナイフをルイスと呼ばれていた男の喉元に突きつけた
……つもりだった
私の出せる最速の突きは軽々と躱されていた
「っ、!!あぶねー」
そうヘラヘラ笑いながら避けるルイス
「やっぱメイドってこういう護身術みたいなのも叩き込まれてるんだな、
カイト!いつか読んだ本と全く一緒だ!」
「ルイス…集中しろ」
何度その男の喉元を狙ってナイフを突き出しても
躱されてしまう
「くっそ…、!!当たってよ!」
「ハハ、全然当たんねーからってちょっとお口が悪いんじゃねーーの?メイドサン」
「ルイス!!」
私の足はとっくのとうに限界を迎えていた
ガクンッ
突如として足の力が抜けた
私はそのまま重力に負け、膝が地面についてしまう
「ぁっ、!!!!?」
まずいこのままじゃ死ぬ
ルイスがニタニタと笑いながらこちらへ向かってくる
「あれ、もう馬力切れ??さっきまでの威勢の良さはどうしたんだぁーー?メイドさんよ」
「…おいルイス、そこの地面にもう一人転がってる」
「あ''ぁ?ほんとじゃねーか」
そういい、ルイスは私がルミナにかけていたスローブへ手を伸ばした
「、っ!やめて!その人に触んないで!!」
「は?」
私はそう言うと、手に持った短剣でルイスの手の甲を切りつけた
「このメイド……自分の置かれた立場分かってないのか?」
ルイスは
血が出ていることも
私が切りつけたことにも
動揺することはなかった
やっぱりこの国の人たちはイカれている
私はその事実に絶望した
ルミナの矛になれると思っていた
ルミナの盾になれると思っていた
ただ現実は
何もできないただのメイドにすぎなかった
圧倒的パワーと速度、そして遥かに違う経験値。
同じ土俵で戦って勝つなんて……ハナから無理な話だったんだ
再びルイスがスローブに手を出す
もう私はそれを止める力なんかなくて
「なぁカイト!!これって………!!!」
「!!あぁ…これは……フローレス家のルミナ・フローレスだ」
「…………これ、売ったら相当な値打ちがつくよな」
ルイスがそういうとカイトはじっくりとルミナを値踏みするように見つめ
「あぁ。これは相当な値打ちがつくぞ」
そう 薄ら笑いを浮かべた
「!?…なに…すんの、?!!ルミナに手出さないで、!!」
「あ''??」
「コイツ…まだ気絶してなかったのか…おい、ルイスそいつを黙らせろ」
「言われなくてもやるっつーの!
ということで、ここでメイドサンとはおさらばだ。ンな残念そうな顔すんなって。来世では大切な人、守れるといいな」
ルイスが私の首を掴んだ
「いたっ、…はな、っはなして!!」
もうほんとに気持ちが悪い
ニタニタ同じ顔で笑って
汚い手でルミナにも触って
「…っ……離れてよ、………!!」
ギリギリと首を締め付ける力は強くなってきてミシミシと骨が音を立て始めた
「この期に及んでもその威勢の良さだけは感心するぜ…メイドサン
ただな?こっちの国ではンなもの通用しねーんだよ覚えとけ」
徐々に力が強くなり、呼吸もままならない
(いやだいやだこんなところで死ねないルミナが売り物になるなんて、そんなのだめ!!!)
強い拒否反応
それに呼応するように
私の視界は真っ青に染まった
は???
「あ、…ぉ、?」
??!?!
なにこれ……………なにこれ…、、!!熱い!!!!熱い!!!熱い!!
ドオオオオオン
大きく青い火柱があがる
ルイスは手を私の首元から離し
そのまま後ろへ飛び退いた
「?!っは…?お前魔法つかえンのかよ、!!?」
「っ…魔女か」
え?
私は呆然と立ち尽くしていた。
私は人間だ。
魔女じゃない。
私は…ニンゲン…、、!!
「っ、魔女じゃ!!ない!!!」
再び燃え上がる青い炎がルイスとカイトの進行を妨げている様子だった
私は混乱していた。ただ………
私は、この機会を逃すほど馬鹿じゃない
「!ルミナ!!」
「っおい!カイト!!あいつら逃げるぞ!!」
「大丈夫だ、……放っておけ。」
「はああああ??俺らの久しぶりの高級な獲物だぜ??いいのかよ!!!!」
「大丈夫…直に■■■■■」
私はルミナのことを抱えると無我夢中で
そのままその場をあとした
『んん……あれぇ…私寝てたぁ?』
「っ、!ルミナ!!あのね、よく聞いて
さっきルミナが寝ちゃって、その時ね、赤い目をした男二人に捕まりかけてて!!!今私たちは逃げてる最中で!!!」
矢継ぎ早で今の状況をルミナに伝える
『!そうだったの、ごめん…そんなときに寝ちゃってて』
「いいの、そんなことは!!それより早く身を隠さなきゃ…」
死ぬかもしれない、その恐怖だけで足を動かす
ナグレスの夜は本当に一つも灯りがなくて数十m先がハッキリと見えない
どこへ身を隠そうか、考えていると
『レイラぁ!あそことかどう?』
とルミナが指を指した先には
工場跡地があった
幾つもパイプが複雑に絡み合っているそこは絶好の身を隠す場所のように思えた
「!行こう」
ナグレスの夜はまだ明けない
ただ少しでも身を隠して休める場所が欲しかった
カンカンカン
自分たちの足音が響く
パイプは音が反響しやすいため、音の出処が分かりにくい
上も下もパイプだらけな空間を進みつづけ、ちょうど良さそうな場所を見つけた
「ここらへんで…一休みしよう」
『今度は私が起きとくからゆっくり寝なぁ、睡眠大切だよぉ』
私は工場の無機質で、冷たい床に寝転がった
『…レイラ、それじゃぁ寒いよ、こっち』
私の疲労はもう限界だった。
昨日の夜から今日の明け方まで一睡もせずに走り回り挙句の果まで、炎を出したのだから仕方ないことだと思う
ルミナに言われるがまま私はルミナの膝の上に頭を乗せ、寝始めた
あたたかい
それに規則正しく誰かが頭を撫でてくれているような……
優しい手つきで何度も何度も撫でられる
それが心地よくてもう起きたくないとまで思った
「ん''んん…」
体が熱い
『おはよぉ、レイラ!よく眠れたぁ?』
「…うん、眠れた…と思う」
おかしいおかしいおかしい
この体の状態は絶対おかしい
通常じゃ考えられないほど強い熱を帯びている
視界が歪む
『レイラぁ、?っ!!!!!!まって熱があ』
ガシャアアアン
ルミナの声を遮るようにした轟音
ほんっとついてない
「っ…!!」
「おやおや〜???これはこれは!!!」
「まじか!!!!ほんとにいるなんてなぁ!!!」
「おいお前ら、いいか商品は傷つけるなよ、絶対にだ」
「わかってるってアニキ……!!嬢ちゃんには傷つけない!ただなぁ…、その横の青い目をしたガキは手配書になんか書かれてなかったよなぁ?」
「………ああ、書いてなかった……お前ら、好きにしていいぞ」
「ヒューーーーー!!アニキ太っ腹〜」
拍手喝采が巻き起こる
『だ、誰なんですか?あなたたちは…』
「ああ、大丈夫大丈夫!心配ご無用!お嬢ちゃんには手は出さないよ。お嬢ちゃんはウチの大切な商品になるニンゲンだからね。」
『しょうひん…?』
「ああ、お嬢ちゃん、高額で売れるらしいからなぁ…大人しくついてきてもらうぜ」
『わたしが商品?……レイラ!レイラはどうなるの??!』
「レイラぁ?ああ、そっちの青い目のガキか。そいつはそんなに高値で売れなさそうだしなぁ、コイツラの玩具になるんじゃないか?」
『え…??そんなの……は?』
「んなこと言ってもな、嬢ちゃん。この国は弱肉強食な世界なんだ。弱者は強者に排除されるか嬲られて遊ばれる。郷に入っては郷に従って生きるのが筋だと思わねェか?」
なんなの
ほんとになんなの
私達が何をしたっていうの?
男たちの大きな声が響いて頭がガンガンする
せめて私が万全の状態だったらいいのに
熱を帯びて立っているのもやっとな体じゃ
ナイフすら持ち続けれない
ルミナの矛どころか、盾にもなれない
『…レイラ…下がっててぇ………』
覚悟を決めた顔をするルミナだったけど
正直無茶な戦いだ
この人数差はどうにもならない
「ルミナ…お願い、やめて…このまま…」
どうする?さっきの炎をまた出す?
まだ近距離戦じゃないから、炎出すくらいならできる
ただ、その後は??
ルミナを連れて逃げ切れる勝算は?
ぐるぐるぐると同じような考えが渦巻いて
気持ち悪い
「さっさと行こうぜアニキ!!まずはあのお嬢ちゃんからだ!!」
ルミナに飛びかかる覆面をかぶった人間たち
ルミナが目の前で手を縛り上げられて
痛い、痛いと泣き叫んで
必死にこちらに助けを求めてくる
なんて、そんな結末私は望んでない
私はもう形振りなんか気にしてられなかった
私が死ぬならここでいい
ただルミナを目の前で失うことだけは絶対に嫌だった
『?!…ちょ、レイ』
ルミナを強引に私の後ろへどかせる
もっと、もっともっとさっきより強い炎を…!!!!お願い!!!!!!
昂る体
熱くなる指先
そして
ゴオオオオオオオオ
青い炎が辺りに広まる
「は、おいおいおい、これじゃぁ進めねーじゃねーか、おいお前ら、そっちから回り込め!!」
「青い目のガキ、魔女だったのかよ…!!クソが」
『レイラ、!?』
「ルミナ……このまま、地下に、行こう…なるべく遠くにい」
『任せて』
ルミナは私の体を抱え
滑り出した…?
ルミナは氷のようなものを出しながら地面を滑る
……は
「…ぇあ、?」
『レイラぁ隠しててごめんねぇ…私、本当は魔女なのぉ…
昨日、父様が殺されたのも多分父様が魔法使いだったからでぇ…』
「え、?え?」
炎をまいた追手が迫ってくるのが肩越しに見える
「ルミナ、うしろ!」
『もおおおしつこーーい!!!』
ガッシャーーーン
大きな氷の柱が落ちて
先端が赤く染まっている
ルミナは人を殺すことに一切の躊躇がなかった
『レイラ、一旦降りてぇ
全員私が始末する!!!!』
私をゆっくりと地面へ下ろす
ルミナが前に手をかざすと、10本の指の先からなにやら光が集まり……それは20cmほどの針となった
ルミナは向かってくるニンゲンに
指先から生成したそれを……
心臓に突き刺した
栗色の髪の隙間からふと見えた黄金色の瞳は今まで見たことのないくらい
ギラギラと輝いていた
一瞬にして赤く、血で染まる地面
鉄が錆びた匂い
断末魔がパイプに反響して
まるで…本当の地獄のようだ
しばらくして完全に命の灯火が消えた頃
再び工場には静けさが訪れた
私は今までの出来事に茫然自失としてしばらく動けなかった
そうして
長い長い沈黙の果てに
『……レイラぁ私のこと嫌いになった?』
「、え?」
予想外の質問
『私ねぇ…ずっと隠してたの。ブルームでは魔女だってばれたら殺されちゃうから。だからこの先一生隠しておくつもりだったんだぁ 父様はバレちゃったけど私は上手くやるつもりだった…』
どこか遠い目をしながら淡々と語るルミナ
『ねぇレイラ、私のこと、きらい?』
「そんなこと…あるわけない!!」
『えへへ、そっかぁ…良かった』
「私も今日、ついさっきなんか炎が体から出てきて」
『えぇ今日初めてだったのぉ?火力強かったから、レイラも歴戦の魔法使いかと思ってたぁ』
そう笑うルミナはいつもどおりのルミナで
安堵した
「!それより、ルミナが魔女なら暗瞳病も治せるんじゃ…??」
明案だと思った
『ううん、それはできないのぉ』
いとも簡単に否定された
「、なんで?」
『レイラ、今まで魔法について学んだことないでしょぉ?今から教えるねぇ…
この世界の魔法についてのルールを』
そこでルミナが説明してくれた魔女についての話はどれも知らないものばかりだった
1、魔法使いには生まれつき、使える魔法の『階級』が決まってる
2、同じものに魔法をかけたら、強い階級のものの魔法のみがかかり弱い魔法は消滅する
3、相手の魔法の階級を知ることはできない。また自分の魔法の階級を知る事もできない。探知することも不可能。
知ることができる唯一の手段は自分の魔法が相手の魔法を上書きできたか、消されたか
そのとき相手との序列のみが分かる
4、普通の魔法使いは一生に一つの系統(火、氷、風など)しか使えない。
5 魔法を使うと体温が上がり、限界を超えると「魔力熱」で倒れてしまう
『レイラは多分…炎の系統かなぁ
あとさっきの熱はいきなり魔法ぶっ飛ばし過ぎちゃったからだと思うぅ』
「ルミナも…限界超えると熱くなるの?」
『もちろんだよぉ、最近はそんな失敗してないけどちっちゃい頃なんかもう大変だったんだからぁ!』
「そうなんだ…全然知らなかった」
『ばれたら殺されちゃうからねぇ…とくに王族の私が魔女だなんて、魔女を許さないブルームじゃ一瞬で私魔女狩りにあっちゃう』
"魔女狩り"
教科書で習ったことがある聞き覚えのある単語
3000年前ほどブルームでは強力な魔法を使える魔女が現れたらしく、大暴れし国が滅びかける原因になったらしい。
そこから魔女狩りが厳格化
その謎の魔女は一瞬のうちにどこかへ消え、今も消息不明……
ブルームではその名残で魔女狩りを続けてきており、人間10割の国を保ち続けている
そして他の国でもあまり魔女というのはいい顔をされない、差別対象となるらしい。
だから人々は自分が魔女だと堂々とは絶対に言わないし、魔法もめったに使うことはない
ここまでは私が歴史の教科書で知っていることだ。
「じゃぁ…ルーナは移動系の魔法?」
『多分そうだと思うぅ…あんまり移動とか場所っていうのは珍しいと思うんだけどぉ、きっとなにかの場所を交代させたりする魔法も使えるんじゃないかなぁ』
少しずつ熱も下がってきてフラフラしなくなってきた。
『レイラぁもう動いて大丈夫なのぉ?』
「うん、もう大丈夫!!」
『…さっきも言ったけど、魔女は差別対象なのぉ…だからあんまり外では使おうとしないでぇ』
「そんなになんだ…わかった!」
『じゃぁそろそろ…行こっかぁ』
カンカンカン
再び工場のパイプの上を通っていると
微かに光が見えた
夜が明けたみたい
相変わらず黒い煙は晴れてないけど、かすかに光が溢れでているような…気がする
「このまま次の国に行こ、ルミナ!」
『もちろんだよぉ、!!…それより私の病気に付き合わせちゃってごめんねぇ…』
「え?」
『面倒くさくないのぉ…?さっきも死にかけたのにぃ…?』
そんなわけない
私にとって世界で、一番大切なのはルミナ
ルミナしか見えてない
「そんなわけないじゃん…私にとってルミナが一番大切なんだから
ほら、はやく」
そういうと少し照れ臭そうな顔をしたルミナが私の手を取ってニッコリと笑った
私は幸せ者だ
一方で
外では私たちが出てくるのをナニモノかが虎視眈々と待ち続けていたことを
私はまだ知らない




