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逆ハーエンドの十五年後  作者: 竹 美津


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好感度バー


ギギギリ、と初恋玉砕の恨み、睨みをきかせる息子、アベル。


彼は、猫目少女ミラージュ公爵家イリスちゃんの言葉だけで、母王妃りりあを糾弾しているのではない。

他の者にも、王宮で彼が言葉を交わせる全ての者に、そ〜っと、逆ハーエンドの後、15年間のりりあたちについて聞いた。


それはそれは、直接的には、侍従も侍女も、乳母も、通りかかった文官も大臣も、やんわりと是でもなく否でもなく。


「そういう形もございますかね。りりあ様は、異世界出身の方ですから、私たちには不可解でも、きっとあちらでは、当たり前のことなのでしょう。」


とアベルに言う。


だが、アベル王子とて馬鹿ではない。侍従の支度部屋、侍女の休憩溜まり場なんかにそれとなく立ち寄って、まだ大人ならぬ身体を物陰に忍び込ませて、噂話に聞き耳たてたて。

アベル王子付き護衛の優男フランは、やめましょうヨォ〜アベル王子殿下ぁ〜!と泣きついたが、アベルは振り払って隠れた。

何で休憩室に護衛のフラン様がいるの?と不思議に聞かれて、ココにアベル王子殿下が隠れてます、とも言えず。結局アベル王子の手先になり、交代で休み中です、で、さっきの話だけどさぁ〜?なんて、本当のところを聞き出すキッカケづくりをやらせたのである。


大臣たちの補佐に、文官たちの使い走りに、縦横無尽に王宮を走り回り、隠れて、脅して、懐柔して、聞き回ったアベル王子は納得した。


母、りりあ王妃と5人の男の関係は、フツーじゃない。


彼らは対外的な仕事をちゃんとするので、割と皆、諦めてるけど。りりあの子供たちと擬似家族で、いいところだけ味わってる攻略対象者4人の家庭生活への常識は、15年あまりアップデートされていなくて。

家族持ちの部下に対する時、色々と問題も起きているのだ、と。


「忙しい私の父の代わりに、なんて言って!私たちの機嫌がいい時に、ちょろっと遊ぶくらいなことで、家族認識なんて、ありえます!?何か責任をもって接してくれてる訳じゃない!お菓子をあげすぎたり、遊びが乱暴で手を傷めさせたり、勉強させる範囲が私の学力に見合わないほど高難度だったり、お祈りで5時間も冷えた場所に薄着で放置したり!問題が起これば、即、乳母や側仕えにポイ、後は知らん顔じゃないですか!」


男4人は、あー、と顔を背けて手で覆う。

アベル王子は結構、やりたい放題の彼らの被害に遭ってきたのである。


「父上はそもそも仕事が忙しくて、全然触れ合いがないし……。時間が空いたかと思えば、この、逆ハーレムの団欒で、ずっと黙ってニコニコしてるだけだし……。」

グスン、とアベル王子は鼻をすする。


ポツリ、溢す。

「私は、りりあ王妃と5人の男たちの、幸せ確認のための、擬似家族の一部品じゃない。」


りりあは、ギュッと拳を握ったまま、黙り込んでいる。


「お菓子を食べ過ぎてお腹が痛くなった時は、カミーユ魔法院長官、あなた、どんどん食べるから大丈夫なんだと思った、お腹いっぱいなら言わなきゃダメだよ、なんて言ってましたよね。乳母は、そもそも夕飯が入らなくなるし、健康のためにも子供にお菓子ばかり食べさせるのは、良くない事だ、とお腹を撫でて悲しんでくれました。」


カミーユ魔法院長官、えーと、と冷や汗、困った顔で鼻をぽしぽし掻く。


「訓練だ!なんて私をぶん回したオーバン騎士団長、子供って柔いんだなー、って言うだけでしたね。私は1月、腕が痛くて、治った今も雨が降るとそこが痛みます。」


オーバン騎士団長、「その、その、ちょっとだけ力を入れ過ぎちまって、す、すまん。」なんて、軽く謝っている。


「ブノワ宰相、私があなたの難問に答えられないと、何だか嬉しそうでしたよね。こんな事もできないのですか、って長話でべらべら説明されたけど、私は5歳でした。あの時の問題は、高等数学だったそうですね。まんまと叩きのめされました。3年くらい、ずっと自信なかった。しょんぼりしきった私に、付き合ってくれたのは、子供教育に熱心なおじいちゃま先生でした。簡単な所から始めて、勉強が楽しくなるように、お話が分かりやすくて、はなまるをいっぱいくれて、苦手なところも頑張ったら褒めてくれて、得意を伸ばしてくれた。おじいちゃま先生は、『ブノワ宰相もノォ。アベル王子殿下は、丁々発止でやり合う研究者の大人相手じゃないんですから。困った方で。頭が良いんだか悪いんだか。』って言ってました。」


ブノワ宰相、むぐむぐ、と口を何か言いたそうにし、目を逸らす。


「シャルル次期教皇は、私に寒々しい格好でお祈りさせておいて、そのまんま忘れちゃったのですよね。もう終わりにしていいよ、と誰も言ってくれなくて、お祈り場には護衛も入れなくて、私は風邪をひきました。お熱が出た時、可哀想に……、って毛布を肩までギュッと入れ込んで、おでこの冷やし布を変えてくれたのは、やっぱりいつも私を見てくれる側仕えたちでした。『シャルル次期教皇は、教会の方。私ども一般の者と、神の祈りの世界に暮らす彼らとは、ちょっと常識が違います。子供が寒い格好をして長く放っておかれたらどうなるか、なんて、頭の片隅にもないのでしょう。今後は絶対にシャルル次期教皇とお会いする時、離れませんから、安心して下さいね。』って、側仕えのキリクが言ってくれて。今もそこにいますけど。」


側仕えキリクは、ニッコリ黒々深く笑って。アベル王子に頷いた。

彼は自分より位の高いシャルル次期教皇にも押し負けない。アベル王子大事なのである。

視線が刺さり、シャルル次期教皇は、「あー。僕、忘れっぽくて……、教会では皆がフォローしてくれるから……ゴメン。」言い訳である。


ふーす。

アベル王子は、鼻から怒り荒く息。


「そしてそのあれこれを、母りりあ王妃は、ダメよ〜なんてほわほわ言うだけで、母の本気をもって、厳しく咎めては、くれなかった。父ヘンリー王もニコニコしてるだけ。………やっと、これがおかしいんだって分かりました。」


おかしい。

15年の、逆ハーレム擬似家族は。


「私は、あなた方の、何なのですか!乳母も、おじいちゃま先生も、側仕えキリクも、『あの4人にしっかりした嫁でもできて、家庭をもって、責任をもって、失敗したら厳しく怒られ、傷つき、他にぶん投げる人もいないとなれば、成長もすると思うんだけどなあ……。』と言ってましたよ。」


男4人、耳が痛い。


「母、りりあ王妃は、子供より男が大事なんですよ!」

ギン!とりりあを睨む。


「私に何かあっても、本気で怒ってくれたりしない!………男たちに怒って、自分が嫌われるのが、怖いんだ!」





りりあは、りりあは。


「そ、そ………そんな。だって。だって。」


ぼろぼろぼろ、と涙。握り込んだ拳が震える。


「だって!仕方ないじゃないのぉー!!!カンストしたはずの好感度メーターが消えないんだものおー!!!」


と大声で叫んだ。



りりあの視界には、攻略対象者の好感度が見えていた。15年前、この世界に召喚された初めっから、ずっとそうなのだ。

それはバーの形で、数値も横に出ている。


逆ハーエンドを迎え、カンストした5人の好感度。

攻略中、5人落とすのは、あっちにほれほれこっちにほれほれ、そのバランスも難しく、気を抜くと好感度が落ちて、満遍なくあげるのは至難の業だった。

だが、りりあは、この世界の攻略法を、ゲームとしてプレイ済みだったので、ミスなくやり遂げた。

逆ハーエンドじゃなくても良かったのだけど、瘴気を金輪際湧かないように押さえ込むオールクリアエンドにするには、これが一番やりやすかったのである。この5人の力が、瘴気を抑えるのに必要だったのだ。

好感度が2人とか3人くらいイマイチだと、なかなか瘴気を抑え込めなくて、また次の聖女に託すエンドになったりする。


別に、チヤホヤされたかったなんて気持ちは、少ししかない。召喚されるのは自分が最後でいいだろう!とりりあも使命感があったのだ。


「この国が瘴気から永遠に救われて、5人と結ばれて……これでお終い、幸せに。ってなったら、攻略から解放されるんだと思ってた。だけど。」


好感度バーは、消えない。

エンド後も、やりとりすれば、上下する。


りりあは焦った。

これで、終わったのよね?

もう、脅威はないのよね?

別に。これから好感度が下がったとしても?


「だけど、怖くて……。何かこの先、悪い事が起こるんじゃないか、って。皆、段々と国の中で重要な位に就いて、普通にちゃんと繋がっていないといけない、って事もあったし、とにかく、怖くて、バーが上下するのが………。」


りりあ、わなわな、と身体震える。

「だけどね、だけど、好感度って、長く付き合った男女は、普通、下がるのよ!100%好き好き大好きずーっと、なんてありえない!馴れ合いでやってく、恋じゃなく、情で繋がってる、それってあるわよ!」


皆、段々と。

どんなにりりあがフォローしても、好感度が、90、85、76、60……と下がってゆく。目に見えて扱いが悪くなったりはしないが、みんな。

りりあは足掻いて、足掻いて、そして。

もうどうしたらいいか、実は最近、分からなくなっていたのだった。


ぼろぼろと涙を溢す。


「皆が私を好きじゃなくなってく。良いのよ、別に。私だって、ずっとときめいてる訳じゃない!あっちに良い顔して、こっちで愚痴聞いて、ちょっとしたプレゼントも欠かさず、ご機嫌が悪くなれば持ち上げて、勉強も欠かさず、運動も欠かさず、善行をして、5人の間でいつもニコニコ!もう、うんざり!話が合わないのよ!自慢話はもうたくさん!同じ女性の、おばさん同士で子供の話とか、歳くったわーって話してる方が、実は楽しいのよ!解放されんの!でもそんな時間、あんまりないの!怖くて!この国がどうにかなっちゃわないかって!」


だけど、もうイヤ!


「こんなに頑張ってきたのに、何で息子に、大事な息子に、気持ち悪いって言われなきゃなんないの!もう、もう、もう、知るか!あれこれちっさいことで、機嫌の上下、グダグダ言ってくんな!自分の嫁に言え!嫁もらえ!5人もほれほれやってられっか!私だって私だって……、精一杯なのよお〜!!!!」


うわぁあああーッ!!!!!


号泣するりりあ。


アベル王子は、しょうがないなぁ、って顔で。ふす、吐息。

4人の男たちは、ピシリと凍りついたままである。

幼い第二王子と、王女は、お母様が号泣しているので、眉を寄せて、ふにゅーと悲しい顔である。


ちなみに、第二王子と王女は、第一子アベル王子と4人の攻略対象者たちの失敗をふまえて。上手く周りがやってるので、やりたい放題のおじさんたちに、辛い目に遭わされていない。


「好感度バーとか、分かりませんけど。お国の行末が、恋愛事情でどうこうなるなら、もうなってるんじゃないですか。だって今、5人全員、好感度60%前後なのでしょ。」

息子は冷静である。


「いつエンドなの……。終わって…、終わってよ。攻略がずっと続くなんて、耐えられない……。」

グスッ、ひっく。しゃくりあげるりりあに、ヘンリー王が、ニコニコしながら言った。背中を、ぽんぽん。さすさす。


「じゃあ、今、終わろう。ここが私たちの物語の終わり。ここから先は、皆が、どうやって生きていけばいいか、手探りでそれぞれ、やっていくんだ。りりあの言う、攻略法なんかに頼らずに。」


好感度に、振り回されずに。


フッ


あ。


りりあが、大粒の涙を、ぽろり。



「………今、好感度バーが、消えたわ………。」



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