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逆ハーエンドの十五年後  作者: 竹 美津


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息子の拒絶

2〜3話で終わる(予定)の短いお話です。


「気持ち悪いんだよ……!」


パシッ、と第一王子アベル13歳が、母王妃りりあ32歳の手を弾いた。


ひゅ、と息を細く飲む。

はッとそこにいる皆の視線、やんごとなき母と息子に集中する。


ここは王宮、それも、りりあと5人の攻略対象者だった者たちの寛ぎ場、プライベート談話室。


王となった、ヘンリー。

騎士団長の、オーバン。

宰相の、ブノワ。

魔法院長官の、カミーユ。

教会の次期教皇、シャルル。


王妃りりあは、異世界の日本という国から、女子高生だった17歳当時召喚されてやってきたヒロイン、聖女である。

瘴気だのなんだの、国難を乗り越えてのち、めっちゃ頑張れば帰還の魔法もあったのだが。

このクロヴィス国について学ぶため学園に通い1年の間に、王太子だったヘンリーと、キラキラの攻略対象者たちを皆、心射止めて、いわゆる逆ハーエンドを迎えた。


公的な立場としては王太子妃となり。ヘンリー以外の攻略対象者たちは、りりあにいつまでも忠誠と真心を誓って、他の女性と結婚することもせず側に侍った。

女1人に男5人で、ずっとずっといつまでも仲良くやっていこうね〜、とキラキラニコニコやってきて15年。


りりあは子供を3人産み、そんなこんなのうちにヘンリーは王となり、他の者たちも国の中枢で、責任を負う重い立場になり。


今現在まで、ずっとこの15年、王宮のプライベート談話室で、りりあの子たちも含めて、家族のように定期的に団欒してきたのである。

今も、流麗なソファに座って、りりあの両脇に幼い第二王子と、王女が。母王妃のお膝に体を預けて、きょとんとしている。


先ほどまで、ソファの隅っこで、極力団欒に加わらないよう、苦虫を噛み潰したような顔をして。いつもなら、団欒の輪で笑っていたはずの、穏やかで性根が真っ直ぐな第一王子、アベルが、変な感じだったから。


「どうしたの、アベル。こっちへいらっしゃいな?」

母王妃りりあが手を差し出して、息子を呼んだところ。


「気持ち悪いんだよ……!」


息子に言われて傷つく言葉、きっとNo.1で激しく拒絶をした、今ココである。




「オイオイ、アベル殿下、き、気持ち悪い、って……。」

騎士団長のオーバンが。凍りつき弾かれた手を押さえた、りりあと。それを、グッと眉を顰めて睨みつけるアベル第一王子を宥めようとする。


あれだよね、男の子って、難しい時期があるもんだよね。自分もそうだったから、分かるよ。ハラハラしながらも、王として執務が忙しいヘンリーの代わりに父とも慕われてきた、攻略対象者たち他4名、口々に。


「そうですよ、アベル殿下、ご機嫌でも悪いんですか?まあ、喧嘩される事だって、ありましょうが……あまりに酷い言葉じゃありませんか。」

宰相のブノワ。


「どんな時でも、女性に乱暴な事をしてはなりませんよ。神もメッて言ってます。」

教会の次期教皇、シャルル。


「何か理由があるのだろう。カミーユおじ様に話してみないかい。」

魔法院長官の、カミーユ。


そして父のヘンリー王が、威厳を持って。

「アベル。母を打つとは、情けない。王子として、いつでも胸の張れる男でいなければならないよ。りりあに謝りなさい。」



しかし、アベル王子は。

歯をクキキと食いしばった間から、ケッ、と呪いでもあろうかと黒く息を吐き出し。

「触らないで下さい……!大人として恥ずかしい人たちの仲間に、なりたくないんです……!」


「……大人として恥ずかしい……、お母さまは王妃として、ちゃんと頑張っているわよ?それなのに、何故?」

ショック、呆然、なぜ、なぜ。


りりあは、異世界の平民出身ながらめちゃくちゃ勉強もマナーも頑張って、今ではそれなりに仕事もこなしている。子育てだって、この国と日本でのいいとこどりで、若いうちから、頑張ってやってきた。恥ずかしい事など。

うんうん、攻略対象者たち5人も。そうだぞ、りりあはどこも恥ずかしくない、と頷く。


アベル王子は、ヘェ〜、と半目である。

「ワタシを皆が大好きで困っちゃう!だったら皆で仲良くしましょ!……なんて、頭がお花畑なまま、15年も変わらず、5人の男を手玉にとって、あっちにほれほれ、こっちにほれほれ、媚を売って。17歳の女の子なら分かりますよ。恋に恋しちゃって、かっこいい男たちに囲まれて、お姫様みたいにチヤホヤされて。有頂天にもなるでしょう。だけどそれ、なんか、おばさんとおじさんがやってんのって、気持ち悪いんですよ!」


グサ。


「皆が何て言ってるか知ってますか。私は、本当に、ヘンリー王の子供なのだろうかね、って。根拠のない噂話だとは、私だって分かってますよ。王妃と王の寝室に、他の者は入れないし、王宮で王族が不倫するのは、誰も見てないなんてありえない。侍女も侍従も、護衛もそこかしこにいるんですから、秘密になんかできっこないんです。真実不倫だとしたら、今、りりあ王妃は生きてないでしょ。でもね。噂だって、火のないところに煙は立たないんですよ。」


グサ。

息子に、りりあ王妃と他人行儀に呼ばれた。


「皆で仲良く、って、貴女はヘンリー王だけじゃなく、他の4人の男性の人生を、ギュッと握って自分のものにしている。手放せば、それぞれ、自分の家庭をもち、自分の人生をやっていくことができるのに。優秀な後継者だって持てるかもしれないのに。ちゃんとした距離を置くのも、大人の嗜みですよ。人の人生を何だと思ってるのか!頼りにしてるわ、なんて言葉で縛って、男たちの方は、貴女のためなら、なんて夢に浸かって、現実が見えていない!分かりますか、周りの者が、あなたがたを何と言っているか!優秀な方々だけども仕方がない、逆ハーレムの花園に住んでいるのだから、精々夢の中でお仕事に励んでもらって。現実のなんだかんだはこっちで都合つけましょ、ですってよ!」


りりあの口はあんぐり、開いたままになった。



アベル王子は先日、婚約者候補を見定めるための茶会を開いた。

そこには、ある一定以上の位の貴族家年頃お嬢さんたちが呼ばれた。

そう。

そこには、りりあが逆ハーレムエンドを迎えるにあたって、婚約破棄騒動をやらかした相手の令嬢たち、のお子さん、もいた訳なのだ。


りりあは、悪役令嬢たちを追放にはしなかった。ヘンリーや攻略対象者たちに婚約破棄させて、謝罪させた。聖女に対する侮辱行為への慰謝料を払わせて、外聞が悪くなった彼女たちを、許してアゲルワ、したのである。だって、聖女だし。攻略対象者はゲットできたし、あんまり後味が悪いのは、好きじゃないなあー、なんて。

私って、いいヒトじゃない?なんて思っていたのだ。


公爵令嬢だったユーリカは、その頃王太子だったヘンリーに婚約破棄されて、結局格下の婿取りをした。

何と、豪商だが平民の男を。勿論、他家に養子に入れさせて身分は整えている。

そして、ユーリカは公爵家を継いで女公爵となり、娘も産んだ。


その娘、イリスちゃん8歳猫目かわい子ちゃんに、ちょっと心惹かれたアベル王子。うん、何で悪役令嬢のお子さんが、ヒロインの息子の婚約者候補の見定めお茶会に来てんだ、って話になるけれども。


以下、アベル王子とイリスちゃんの会話である。


「こんにちは。お名前を伺っても?」

「ミラージュ公爵家のイリスともうします。」


かわいいな、ポッとなったアベル王子、ちょっと積極的に押してみる。

「イリス、あなたはもし、王子妃となったら、やってみたい事はありますか?」


途端に、ええ〜っ?と顔を顰めるイリスちゃん。

「わたくし、王子妃なんかになりたくないですわ。」

「えっ……?で、でも、このお茶会は、私の婚約者候補を……。」


それそれ、ふー、とため息イリスちゃん。お手てを、ほっぺに当てて。

「王家とミラージュ公爵家は、仲良しじゃありませんわよ?それなのに、よばれちゃったのですわよ。お父さまが、どのツラ下げて呼ぶんだか、って言ってましたわ。おそらく、ミラージュ公爵家を呼ばないと、いかにもで、外聞がわるいからだろうけど、って。でもね、お父さま、ぜったい王子に気に入られるなよ!って言ってましたの。だって、あの女が姑になる家のよめになんか、ウチのかわいいイリスを出せるもんか!って。」


アベル王子、あまりのことに、目がまん丸である。

「あの女……、って。王妃に対して、それは不敬ではない?」

びっくりしすぎて、怒れもしない。ただただ、聞くのである。


「ああ、聞かれたら言ってもいい、って。どうせなんかあったら、慰謝料払えばいいんでしょ。ミラージュ公爵家、つぶせるほど小さくありませんし。お父さまが言ってらしたわ、慰謝料払ったらそれでまだ整えてないとこの領地の道のせいび事業やらせようかな、貴族会議のねまわししとくか、って。道はおくにの血管なのですって。ウチの運送事業にもいいと思うぞー、って。」


お目々まん丸だったアベル王子は、もう、イリスちゃんの隣の椅子に座って、ずっぽりじっくり聞いた。


りりあ王妃が婚約破棄させた、イリスちゃんの母ユーリカは。当時、ヘンリーの婚約者で、確かにりりあを虐めた。言葉で貶めたり、仲間外れにしたり、突き飛ばしたり。ちょっとした意地悪である。

でもね、婚約者に媚を売ってくる女だったのだ、りりあは。そして、ユーリカだって、17歳の、難しいお年頃の、女の子だったのだ。そりゃなんだかんだあるってもんだろう。


ユーリカは、ヘンリーと婚約破棄させられたこと自体は、今はもう、何とも思っていないのだという。謝罪させられたことも、慰謝料を払ったことも、外聞が悪くなったことも。

そのおかげで、今の愛する夫と、巡り逢えたのだから、と。

そう、イリスちゃんのパパとママは、凄くラブラブなのである……!


「でも、許せないことがある、って。ヘンリー王様を、ちゃんと好きなのなら、良かった。恋を貫いてくれたのなら。だけど、騎士団長オーバン様、宰相ブノワ様、魔法院長官カミーユ様、教会の次期教皇シャルル様、ひっくるめて5人、ぜーんぶ私のもの!ってした、ユーリカお母さま以外の4人のおばさまたちも、悲しくさせた。誰か1人を選ばずに。ちゃんと傷を負わずに。それは女として、誠実じゃない。許せない!って。」


イリスちゃんが言うには、4人のおばさまたちも、既に、それぞれ格下の位の貴族家と婚姻を結び、そしてそれぞれ幸せになっているのだそうである。

「だからまあいいか、といえばいいし、もうどうでもいいか、といえばいいのだけど。りりあ王妃様の息子と結婚するのは、わたくし、いやですわ。だって婚約破棄されちゃいそうですし。相手が複数でも平気そうで、なんだか信用できませんわ。じょうしきが通じなさそうですもん。だいたい、1人に決められないのは甘いんじゃありません?自分が大事なだけで、相手をいっとききずつけても、あなたは選べないって言えないのは、それって本当にその人のことだいじなのかしら。だって、歳をとって、みとってくれるひとも、家族も、いなくなるんですのよ?そういう覚悟を、自分は家庭をつくっておいて、まわりの男たちにさせる。勝手じゃありません?それに、いつまでも、チヤホヤごっこのまんなかにいるだなんて、大人の女として、なんか、気持ちわるいですわ〜。」


イリスちゃんは、たった1人を愛してくれる、お父さまみたいな人と。

「結婚したいですわ!」

なのだそうである。


アベル王子の初恋は、母、りりあのせいで、玉砕したのである。



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