第1章:最初の一撃
遥人は、目を開けた。視界に広がるのは、見慣れない風景だった。空は青く澄んでいるが、雲の形が不自然だ。まるで紙を切り抜いたような、角ばった白い塊が浮かんでいる。地面は緑に覆われているが、草の質感が妙に均一で、どこを見ても“同じ形”のブロックが並んでいた。
彼はゆっくりと体を起こした。地面は柔らかくも硬くもない。踏みしめると、カチッとした感触が足に伝わる。周囲には木が立っている。だが、それもまた奇妙だった。幹は四角く、葉は空中に浮かぶようにしてブロック状に広がっている。
「……何だ、ここは」
声に出してみても、誰も答えない。風が吹いているはずなのに、葉は揺れない。音もない。ただ、遠くで“ポン”というような、何かが跳ねるような音が聞こえた。彼はその方向を見たが、何もいない。ただ、音だけが残った。
ポケットに手を入れようとして、遥人は気づいた。服にポケットがない。スマホもない。財布もない。何も持っていない。だが、恐怖よりも先に、奇妙な静けさが彼を包んでいた。この世界は、現実とは違う。だが、夢とも思えない。肌に触れる空気は冷たく、太陽の光はまぶしい。五感は、確かに“生きている”。
彼は一歩、木に近づいた。幹に手を伸ばす。触れると、木の表面はざらついているようで、しかしどこか“滑らか”でもある。現実の木とは違う。だが、木であることには違いない。遥人は、拳を握りしめた。
「試してみるか……」
彼は、幹に向かって拳を振り下ろした。コンッという軽い音が鳴る。もう一度叩く。何度か繰り返すと、幹の一部がひび割れ、やがてポロリと落ちた。地面に転がったそれは、まるで立方体の木材のようだった。
遥人はそれを見つめた。何かがおかしい。何かが、違う。だが、確かに“壊れた”のだ。素手で木を叩いて、木が壊れた。彼はゆっくりとそのブロックに手を伸ばした。触れた瞬間、それは彼の手元に吸い込まれるように消えた。
次の瞬間、彼の視界の端に“何か”が表示された。それは、彼が今まで見たことのない“枠”だった。直感的に、それが“持ち物”であることを理解する。そこには、先ほど拾った木のブロックが並んでいた。
遥人は、息を呑んだ。何も知らないはずなのに、頭の中に“何か”が浮かぶ。木を並べる。形を変える。すると、木材ができた。さらに並べ方を変えると、作業台が現れた。
「……何だこれ。まるで、レシピみたいだ」
彼は、何も知らない世界で、何かを“思い出している”ような感覚に襲われていた。この世界には、法則がある。ルールがある。だが、それは誰も教えてくれない。自分で見つけるしかない。
遥人は、作業台を地面に置いた。カチッという音とともに、木の板が地面に固定された。彼はその前にしゃがみ込み、手を伸ばした。
「この世界は……何なんだ」
遥人の冒険は、まだ始まったばかりだった。




