最強師匠の育成日記
万物の声が聞こえるというのも、全部が全部いいものではない。
鳥同士の痴話喧嘩を仲裁しないといけないし、花の悩みも聞いてあげないといけない。
まあもちろん、そんなもの無視してしまえばいいという話ではあるのだが、シーバス・リーベルトという男は、とにかくお人好しなのだ。
生まれた時から世界最強を義務付けられ、旅が終われば人類の天敵とレッテルを貼られてしまう。
普通ならやってられないと嘆く者もいるだろう。だがそれすらも、シーバスにとっては楽しい人生の旅といえる。
それは最強という余裕からくるものかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
シーバス自身も、仮に自身が最弱になった時、例えばペンを持つことすら不可能になった時、世界がどういう風に見えるのか気になっている。
改めて、シーバスは”災厄”と呼ばれる四体の悪魔をその身に封印した。
その結果、世界は平和な日々を取り戻すことが出来た。
だが、封印というものはいつか解かれるもので、仮にシーバスが死んでしまえば、その瞬間にも、というわけである。
シーバスは分かっていた。その時は、想像以上に早く訪れると。
災厄は日々、シーバスの体から力を吸収し、その力を増している。
逆にシーバスはその影響から少しずつ、だが確実に、全盛期から離れていっていた。
この力関係が逆転した瞬間、封印は解かれ、災厄は再びこの世界に姿を表すだろう。
シーバスには必要だった。
彼の体から災厄が解き放たれた時、彼にもう何の力も残されなくなった時、彼の前に立つことの出来る存在が。
それもただ強いだけではない。叡智を纏った強者。それこそが、シーバスの求める者であった。
だからこそ、待つ必要があった。
自分を超える可能性のある、まだ何者にも染まっていない才能の原石と出会う機会を。
封印から二十年。
世界は束の間の平和に浸っていた。
土地は耕され、街には活気が戻り、国は再び栄えた。
古い世代はこの世を去り、新たな世代が生まれた。
鳥が鳴き、花が揺れている。
いつしか彼らの声も聞こえなくなってしまった。
タイムリミットは確実に近づいている。
しかしシーバスには焦りも恐怖もない。
むしろワクワクという感情が適切だろう。
初めて味わう、自分ですらどうなるのか分からない戦い。
だが、指先ではじくだけの戦いに面白さなどない。
シーバスはマントをひらりとはためかせた。
「さあ、そろそろ参りましょうか。」
これは、最強が歩む最弱への道。
そして、師匠を超えていく弟子たちの物語。
最強師匠の育成日記である。




