9. 毒壁と羽斬りの間
魔石を取り込み、罠の間を抜けた俺は、再び第2層の奥へと足を――いや、粘液を――滑らせていた。
(魔石……進化素材。どう使うかはまだわからないが、間違いなく重要なモノだ)
【ステータス】
名前:なし
種族:スライム
Lv:2
経験値:11/75
HP:15/15
MP:5/5
スキル:捕食Lv2、粘着質操作、腐食属性(小)、耐毒(初級)
所持アイテム:微細魔石(Cランク)
あと64EXP。
だが、手応えはある。
第2層には、“強くて喰い応えのある敵”が確かにいる。
だからこそ、気を抜けば即死する。
◆
先に進むと、通路が狭くなり始めた。
そして途中で二手に分かれていた。
一方は、苔と湿気の匂いが強い。
もう一方は、乾いていて風の通りが良い。
(罠があるのは……湿った方だな)
俺は湿気の方を選んだ。理由は逆説的だ。
罠がある=敵が少ない=生き延びられる可能性が高い。
獲物が多い道は、それだけ“先客”がいる。
今の俺のHPとMPでは、大群を相手にしたらひとたまりもない。
◆
進んでいくと、異変が起きた。
空気に“ぬめり”がある。
さっきまでとは別種の“毒”の気配――いや、これは……粘液?
(……毒粘液か)
確認する間もなく、次の角を曲がった瞬間――壁全体から“緑色の粘液”が噴き出した!
ズブッ!
すかさず後退し、跳ねて回避。
【被毒:0(無接触)】
毒ではなく、攻撃を目的とした“液体罠”。
触れた瞬間に焼かれ、内部から分解されるタイプだ。
粘液の分布は壁の溝に沿って構築されており、一定時間ごとに放出されるパターンがある。
(読める……なら、通れる)
俺は放出のタイミングに合わせて粘液を一気に“縮小”させ、床を這うように前進。
落ちる液体の合間をすり抜け、わずか5秒で通過した。
◆
だが――それで終わりではなかった。
次の部屋は、広く、そして高い。
空気の密度が薄い。これは、上空に“空間”がある証拠。
天井を仰ぐと、そこには――
(……飛んでる)
コウモリのような翼を持った魔物が数匹、逆さにぶら下がっていた。
体長50cm。鋭い爪。尾にナイフのような“羽”が突き刺さっている。
【種族:羽斬魔】
【Lv4】
【状態:休眠→覚醒】
(しまった……!)
踏み入った瞬間、床が“カツン”と音を立てた。
ギャアアアアアアア!
一斉に羽斬魔たちが飛び立ち、尾の刃を空中から投げつけてくる!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
シュバァン!!
3本の刃が俺の周囲に突き刺さる。地面が削れ、石が砕けた。
(やばい……空中戦は苦手!)
俺は空を飛べない。攻撃手段も接触型が主。
魔弾のような遠距離スキルは、まだ使えない。
どうするか――
そう考えたとき、思い出した。
(……毒粘液)
後方、通ってきた粘液罠のエリア。
あそこまで誘導すれば……!
俺はすぐに、床を這いながら後退。
羽斬魔たちは距離を取られまいと猛スピードで追ってくる。
扉を飛び越え、毒粘液の通路へ。
ヒュンッ!
尾の刃が追いかけてくる。だが、通路の先――
ジュブッ!!
羽斬魔の1体が、粘液の射線に入った瞬間、体が溶け始めた。
「ギャアアッ!!」
空中でバランスを崩し、地面に落下。
そこへすかさず俺が襲いかかる。
【捕食開始】
羽をもがれ、もがき苦しむ異形の体が、俺の粘液に包まれていく。
体の構造は薄く、耐久も低い。
これは――喰える!
【捕食成功】
【経験値+15】
【現在経験値:26/75】
(よし……まだいる!)
もう1体も同じように粘液地帯に突っ込ませる。
毒と衝突、そして――
【捕食成功】
【経験値+15】
【現在経験値:41/75】
俺はその場に静かに広がりながら、血のような羽を吸い込み、心の奥で小さく笑った。
(罠も敵も、使いよう)
今の俺は、“戦っている”。
捕食して、成長して、思考して、獲物を狩る。
それこそが俺の生存戦術。
そしてその先には――
(進化が待ってる)
レベルアップ、それが全て。
進化とは、その向こうにある“報酬”だ。
――To be continued…