7. 異形と罠と、初の毒
第2層の空気は、第1層とまるで違った。
ひんやりとした風が通るたび、体が無意識にすぼまる。
粘液の表面がざわつく。――空気中に、敵意がある。
(警戒してる。生き物の空気じゃない、“環境”そのものが敵だ)
ゴギャ……ゴギッ……
奥の方で、骨が砕けるような音がする。
獣の咆哮でも、虫の羽音でもない。
それはまるで、何か“歪んだもの”が蠢くような、不快な音。
(でも……行く)
もう俺は、後戻りできない。
第1層は喰い尽くした。第2層こそ、次のステージだ。
慎重に、粘液を延ばしながら進む。
暗がりに目はないが、音と震動、魔素の流れで“感じ取る”感覚は磨かれてきている。
ズ……ズ……ッ。
岩の裂け目、そこに何かがいた。
体長40cmほどの球体。
全身がトゲのような殻に覆われており、中央にひとつだけ口のような裂け目がある。
(新種……?)
――ブシュウッ!
突然、その口から液体が噴き出された!
(――毒!?)
俺は咄嗟に跳ねるように身を引いた。
だが、粘液の先端がわずかに触れてしまう。
【状態異常:毒(軽度)】
ぴりぴりと、内部から焼けるような感覚。
粘液が“濁り”始めた。明らかにおかしい。
(やばい……!)
毒という概念が、ここまで“明確”なのか。
俺の中では、生物的な腐敗程度にしか思っていなかった。
だがこれは、“スライムの構造そのもの”を破壊する猛毒だった。
【HP:15 → 12 → 10(持続ダメージ)】
一刻も早く処理しなければ死ぬ。
俺はすぐさま粘液を分離し、毒に侵された箇所を物理的に切り捨てた。
ジュウ……
焼けるような痛み。だが、これで毒の進行は止まった。
【状態異常:解除】
(……危なかった)
だが、これでわかった。この階層には――
「罠と毒」がある。
もはやただの力押しでは通用しない。
知恵が必要だ。策が必要だ。
……だが。
(だからこそ、面白い)
成長には、障害が必要だ。
捕食には、リスクがあるほど旨味が増す。
俺は、毒を吐いた球体モンスターに向かって、一気に跳ねた。
「ブシュウッ!」
再び毒を吹きかけるが、こちらはすでに動きを見切っている。
体を分割し、二方向から挟み込む!
【捕食発動:両面展開】
トゲの殻ごと、ゆっくりと――だが確実に、溶かしていく。
「ギギ……ギィイ……!」
口がひきつり、もがくように震える。
中から粘液を浸透させ、核ごと“喰らい尽くす”。
【捕食成功】
【異形種《トゲ胃虫》を撃破】
【経験値+9EXP】
【現在経験値:11/75】
(よし、悪くない……!)
しかも――
【新スキル取得:耐毒(初級)】
【スキル効果:毒系ダメージ10%軽減/反応速度向上】
(スキルまで拾えるのか……!)
毒の苦しみ、そして勝利。
この一戦だけで、俺は明らかに“進化の匂い”を手に入れた気がした。
第2層――
ここは危険で、理不尽で、死と隣り合わせだ。
だが、それでも俺は――
(もっと喰らいたい)
ここは間違いなく、“成長できる場所”だ。
――To be continued…




