4. 狩り返し
HPがようやく8まで戻った頃、俺は考えていた。
(このままじゃ、いつまで経っても同じだ)
ネズミを食って、虫を食って、レベルを上げる?
そりゃ確かに安全策だ。だが、効率が悪すぎる。
【現在経験値:21/50】
この数字が物語っている。
腐狼との戦いで失った体力、戦意、そして「自信」――
全部を取り戻すには、“あれ”を喰うしかない。
(もう一度、あの腐狼を倒す。それが俺の――狩り返しだ)
◆
スライムに、足音はない。
にじるように地を這い、粘液の一部を薄く延ばし、岩壁に張りつかせる。
まるで自分がダンジョンの一部になったように溶け込んでいく。
腐狼は警戒心の強い獣だ。
ただ突っ込んでも、逆に返り討ちにされるだけ。
だから、俺は“罠”を仕掛けた。
【作戦名:捕食トラップ】
1.俺の体の大半を岩陰に隠す
2.粘液を床に薄く伸ばし、反応領域を広げる
3.音に反応した腐狼が近づいた瞬間、脚を絡め取って分解開始
問題は、腐狼の“脚力”だ。
少しでも反応が遅れれば、逆に引きちぎられてこっちがやられる。
(仕留めるなら……一撃で)
そのために、俺は“溜め”をしていた。
粘液を一点に集中させ、瞬間的に粘度と吸着力を高める“圧縮捕食”。
通常の捕食より速度と濃度が3倍。
成功すれば、どんな敵でも“逃げられない”。
それは、俺がここ数時間――
失敗を繰り返し、虫とネズミで試行錯誤しながら編み出した“俺なりの必殺技”だった。
◆
そして、時は来た。
「グルル……」
あの低い唸り声。間違いない、腐狼だ。
このダンジョン第1層に同時に複数体も存在しない中ボス級。
前と同じ、3本爪と腐食した毛皮。
鼻を利かせ、警戒しながら岩の間を進む――
ズッ――
足を踏み込んだ。
(今!!)
【圧縮捕食:発動】
地面に薄く広げていた粘液が、一気に集中・締め付け!
「ギャッ……!?」
腐狼の前脚が床に張りついた。
引き剥がそうと暴れるが、その動きごと粘液がねじれ、内部へ浸透していく。
ズズズズ……!
【捕食進行:前脚→肩→胴体】
だが腐狼も黙っていない。
咆哮とともに身体を回転させ、無理やり粘液の一部を引きちぎった!
「ガルルッ!!」
【本体損傷:軽微】
核には触れなかった。
なら、こちらのターンは終わっていない。
飛びついた腐狼の腹部に、俺は全身を叩きつけた!
粘液を一気に硬化させ、外殻ごと包み込み、内側から分解開始!
「ギャギャギャァッ!!」
どこかで聞いたことのある叫び――
だがそれも数秒で、喉の奥から泡立つ音に変わっていった。
【捕食成功】
【腐狼(Lv5):撃破】
【経験値+18】
【現在経験値:39/50】
(……喰った)
ついにやった。
強敵を、正面から――自力で狩った。
喜びよりも先に、体の芯が震えている。
この世界の、最弱だったスライムが、ようやく“格上”を倒したのだ。
それは、単なる経験値じゃない。
“この命が、確かに何かを超えた証拠”だ。
◆
【新スキル獲得:粘着質操作(Lv1)】
【捕食スキルの追加特性:「腐食属性:小」解放】
【称号:「一つ上の捕食者」獲得】
ステータス画面が更新されていく。
レベルはまだ上がらない。でも、次の一匹で、ついに届く。
(もう“最弱”じゃない。次は――進化だ)
レベルアップ、それが全て。
その扉が、今、指先――いや、粘液先に触れようとしている。
――To be continued…