3. 最弱と、最初の敗北
【現在経験値:18/50】
あと32ポイント。
ダンジョン虫なら32匹。
ネズミなら11匹。
……単純計算だけなら、そうだ。
だが、問題は“それをやるための現実”にあった。
「キィッ!」
《ダンジョンネズミ》。また1匹見つけた。
ぬるり、と音を立てて俺は岩陰に潜む。
音も立てずに滑り込み、粘液の触手をネズミの脚へ伸ばす。
うまく引っかけ、巻きつけ――
(もらった!)
「ギィッ……!?」
引きずり込んで、体内で溶かす。
馴染んできた。反応速度も、喰らい方も。
【捕食成功】
【経験値+3】
【現在経験値:21/50】
(いいぞ、狩りのリズムができてきた)
体も少し軽くなってきた気がする。
気のせいじゃない。経験を積むたびに、微妙に粘液の反応速度が速くなっている。
だが、その油断が――あまりに致命的だった。
「グルル……」
岩の向こうから、低く唸るような声。
空気が震える。音の振動が重い。
耳がなくてもわかる。これは、さっきまでのネズミなんかとは“違う”。
(なんだ……?)
ズルリと身体を伏せて、気配の方へ集中する。
岩の影から、4本の足音――重く、鋭い爪の音が近づいてくる。
現れたのは、茶褐色の毛並みと禍々しい口元の獣。
【種族:腐狼】
【レベル:5】
【状態:空腹/狩猟中】
(やべぇ……!)
俺の3倍以上ある体格、しかもLv5。今の俺じゃ“かすり傷”ひとつすらつけられない。
粘液を振り絞って逃げようとした、そのとき――腐狼が跳んだ!
(はやっ――!?)
ずぶぅっ!!
前脚が俺の体に突き刺さる。
ぬめりが破られ、俺の体内がざっくりと切り裂かれる感覚。
【損傷:中】
【HP 10 → 3】
(くそっ……! これが“格差”ってやつか……!)
必死に粘液を伸ばして噛みついた脚を締めつけようとするが、腐狼は構わず引きちぎって離脱。
体液が飛び散り、内部の核が露出しかける。
このままじゃ、やられる。
俺は――ダンジョンの影へと逃げ込んだ。
◆
どれだけ這ったかわからない。
這い、滑り、滴りながら、俺はダンジョンの穴へと転がり落ちた。
【HP:3/10】
【経験値:21/50】
命からがら、生き延びただけ。
「……負けた」
喋れはしないが、心の中でそう呟いた。
捕食に慣れて、調子に乗っていた。
だが、あいつらは“俺を喰う側”だった。
俺が今までやってきたように、喰うだけ喰って、溶かして、血肉にして、成長している。
この世界は、俺だけのゲームじゃない。
周囲のモンスターも“成長”している。
だから――“油断”した瞬間、喰われる。
これが最底辺の現実。
これが「最弱」であることの現実。
◆
俺は、逃げ延びた穴の中で、ひたすら“回復”に専念する。
スライムには自然回復能力がある。
時間さえかければ、HPはゆっくりと戻っていく。
(……絶対に喰ってやる)
逃げることに成功したのは、ただの偶然だ。
運がなければ、今ここにいなかった。
だが、次は違う。
必ずレベルを上げる。
スキルを成長させる。
進化して――腐狼すら、一撃で喰らえる存在になる。
レベルアップ、それが全て。
次に喰うのは――あの腐狼だ。
――To be continued…




