オルゴン詐欺
〈緑風の中の私は何の色 涙次〉
【ⅰ】
さて、カンテラ。10歳の麻織に「カンテラをぢさま」と呼ばれ、付き纏はれてゐる、と前回のエンディングに、書いた。「をぢさま」‐實際彼には年齢と云ふものはない。アンドロイドだからだ。では、造り主は、どれぐらゐの年齡設定で、彼を造つたのか。鞍田文造は定かにはしなかつたのだけれど、だうやら30歳ぐらゐに見えたものが、ゆつくりと時の流れに沿ひ、今では40歳絡みに見えてゐる‐ これなら「をぢさま」呼ばゝりも頷けるだらう。
【ⅱ】
アンドロイドであるから、現實には加齢はしない譯だが、彼の人生(?)經驗が、彼の風貌に惡戲をしたのだ。それは掛かり付けドクター代はりの安保さんも認めてゐる。或ひは、鞍田の魔術が少しづゝ解けていつてゐるのかも、と。
何故年齡の話か、と云ふと「ギャレエヂM」村川佐武ちやんの事件があつたから、だ。どんな事件? 事の運びはかうだつた。
【ⅲ】
「ぢやこれ、今回の納品と請求書です」‐「ご苦勞様」‐納品、と云ふのは、特殊なクリームで、皴伸ばし、肌に張りを與へる、とか云ふ例の奴。佐武ちやん、目指せ20代の肌、を合言葉に、日々の努力は欠かさない。だがそれも、オルゴンマシーンでもあれば實現可能だらうが、そんなものは入手出來る譯が... ない、と云ひかけたのだが、だうやら日本某處で賣られてゐるらしい。価格も、靑年實業家(笑)としての顔を持つ佐武ちやんになら、支払へない、と云ふ程髙価ではない。
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〈じり貧の中よりものを産み出すは元より我の狙ふところよ 平手みき〉
【ⅳ】
オルゴンマシーン! 一體どんなものであるか、と云ふと、性心理學者、ヴィルヘルム・ライヒが發明した、身體活性化装置である。かのウイリアム・S・バロウズも愛用してゐた、と云ふ、これ實話。それを日本國内で一手に商ふ「煌魔商會」なる商社。
「何だか【魔】のにほひ、しません?」と、テオ。「あんた何でも【魔】に結び付けるのは、職業病よ、テオちやん」と佐武ちやんは云ふのだけれど...
【ⅴ】
「いやテオの云ふ事尤もだ」とはカンテラ。取り敢へず「煌魔商會」、当たつてみる事に。煌魔(と以下略する)ではオルゴン一機につき1人、営業部員を付ける、らしい。顧客がオルゴンを使ふ度、「お客さま、肌のツヤが段違ひ、でございますよ」などゝ、下にも置かない扱ひ。「それが、催眠効果を發生させてゐるんぢやないか?」‐「なる程ねえ」カンテラ・じろさん・テオで密かに話し合ふ。ぢや、佐武ちやん騙されてるんぢやないの!
【ⅵ】
急遽、佐武ちやんにストップを掛けるカンテラ一味。「あんたゝちまた【魔】とか云つて‐」‐「いや今度のは【魔】ぢやないよ。れつきとした詐欺だ」‐「え、詐欺!?」こゝでやうやく佐武ちやん聞く耳を持つ。
【ⅶ】
「やいやい、大分あこぎな商賣やつてるやうだな」カンテラ・じろさんが煌魔の事務所に踏み込んだ。「あ、あんた方は‐」‐「さうよ、泣く子も黙るカンテラ一味だ。詐欺商法、見破つたり!」カンテラすらりと拔刀。じろさん、煌魔の親玉を速やかに縛に付けた...
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〈黄金蟲カネ持ちになる暑さかな 涙次〉
カネは、佐武ちやん傷心のところ、取つたら可哀相、と云ふ事で、「詫び料」として煌魔から直に出させた。警察で彼らが白狀したのは、彼らが魔界とは何ら関係ない事、そして詐欺の恐るべき實體(オルゴンは飛んだ贋物だつた)であつた、と云ふ。
収まらないのは佐武ちやんである。オルゴン、折角ゲットしたと思つたのにー!! まあ、傳説は傳説、つー事で。今回【魔】は普通の人間の中にも存在し得る、と云ふお話でした。そんぢやまた。アデュー!!