案内人とかないよ
半額キャンペーンを実施したおかげで、客足は順調に伸びていった。
父親が心配していた、サービス劣化によるクレームは今のところ全くない。
おそらくこの先もないだろう。
冒険者における、宿屋とは残念ながらそんなものだ。
『これで今日からスープ付きのパンだ!』
と、はしゃいでいるこの人は、パンに取り憑かれているのだろうか?
それともこの世界にはパンしかないのか?
と、不安になったが、
『何言ってるの!これからはお肉も食べられるよ!』
『これも全部D兄ちゃんのおかげだね!』
と、妹が満面の笑みで返してくれた。
肉もあるという安心感と、家族の役に立てたことが嬉しくて、私もつい笑顔になってしまう。
これで我が家は安泰だ。
よし!これからも村人D(宿屋の息子)として頑張るぞ!
そう、密かに心に決めるのであった。
ーー完ーー
いやいや、
ちょっとまて。
何ENDだこれは。
危うく、心に決めてしまうところだった。
私は勇者になり世界を救うんだ。
宿屋の経営を立て直している場合ではない。
ともかくこれで、お金の問題は解決しそうだ。
この元手で装備を整え、冒険へ出かけようではないか。
だが、その前に問題がある。
勇者一行が現れると、私は村人D(宿屋の経営を立て直した息子)になってしまうのだ。
その間は思うように動けず、ただひたすら宿屋への案内をするしかなくなる。
これでは冒険など不可能だ。
どうにかせねば、、。
しばらく思案していると、不思議な現象を目の当たりにした。
先ほどまで猫を追いかけていた村人Cが、今度は犬を追いかけているではないか。
猫と犬の区別もつかないニワトリ頭なのかもしれないが、
次の瞬間にはニワトリを追いかけていた。
さすがにそこの区別はつくだろう。
でもなぜだ?
勇者一行がいる間は、私たちはウロウロして、決められた言動しかとれなくなるはずだ。
それなのに、あいつは追いかける対象を自由に変えている。
不思議に思い、自由時間に聞いてみると、
『ああ、僕はレベル10なんで』
と、答えられた。
だからなんだ?と返す前にマリアが付け加えた。
『レベルが10以上になるとある程度行動に自由が生まれるのさ』
『この子の場合、追いかける対象を変えられるってわけ』
なるほど、
今ある役割は変えられないが、その役割の中なら対象は変えられると言うわけか。
この憐れなストーカーはターゲットを変えられる。
私の場合は案内人だから、、
案内する先を変えられるのか!!
、、、
、、だからなんだっ!!
たとえ案内先が宿屋から武器屋に変えられても何の意味もない。
単にゴリラに感謝されるだけだ。
あまり有益な情報ではないなと落胆していたが、
そこで一つの疑問が生まれた。
既に武器屋へ案内するやつはいる。
村人Eだ。
他の施設を案内する村人もいる。
なら、対象を変えてしまうと役割が被るではないか。
村人Eに聞いてみた。
なんだかこいつとは既に仲間意識があった。
『俺たちってレベルが上がるとどうなるんだ?』
『レベル10になったら?そしたら選べるようになるよ』
『案内先を?』
『いや、案内するか、しないか』
『え?』
『レベル10になったら、そのまま案内人を続けるか、名前を与えられて自由になるか選べるよ』
なに!?
『まぁ、だいたいここにいる人たちは今のまま案内人を選択する人ばかりだけどね。』
『案内するだけでお金がもらえるなんて幸せ、そうそう誰も手放さないよ』
たしかに。
そんな仕事があったら、なんて楽なのだろうとは思う。
案内人をやめてしまえば、宿屋へ案内したところでお金はもらえない。
お金がないとパンすら食べられないので、
ここにいる以上、必然的に選択せざるを得ないのか。
でもそうか。
こんな方法で抜け出せるとは。
私はここから抜け出し、勇者になると決めている。
幸いなことに、宿屋の利用料金何割かは入ってくる。
これならいける。
私はレベルを10まで上げ、勇者を目指すことにした。