それいらないよ
宿屋改善計画が始動した。
と、いっても、予算はなく、やれることは限られるのだが。
まずは削れるものを削ろう。
『父さん、600マニーは高いよ』
『え?何を言ってるんだ。ウチは代々この値段で商売してるんだ。』
『今さら変えるなんて無理だね』
『なら、これから毎日パンだけで生きていける方法を考えようか』
『、、、』
『ちなみに、いくらまで下げるつもり?』
『半額』
『は、半額だってー!?』
『無理に決まってるだろ!!』
『だいたい、宿屋の維持費だってかかるんだ!』
『半額まで落としたら、いろいろできなくなるぞ!』
いろいろとはなんだろう?
宿屋の維持費なんて、光熱費や日用品の備品代くらいではないのか?
ホテルや旅館でもあるまい。
温泉や豪華な食事が必要になるとは思えない。
『いろいろって?』
『花代とか、ウェルカムドリンクとか、いろいろだよ!』
なんだそれは。
たしかにずっと気にはなっていた。
カウンターの横には大きな花が生けられている。
宿屋のくせになんだかコーヒーのような良い香りまで漂ってきているではないか。
『ドリンクはいくらで出してるの?』
『何を言ってるんだ。旅でお疲れの皆さんに飲んでもらおうと、おもてなしの心で出してるものだ』
『お金なんてもらえないよ〜』
『なら、そのおもてなしの心を今すぐ捨てて、お金を下げろ』
『それが一番のおもてなしだ』
『だいたい、冒険者が宿屋に求めるものは、安く、早く、簡単に、全回復できる場所だ』
『居心地なんて気にしてない』
『というか、そもそもほとんどいないだろ!』
『奴らは回復したらさっさと立ち去る!』
『その回復も何もしないただのドリンクを飲んだやつがいたか!?』
『その花を見て、わぁ綺麗ですねぇ、と言ってくれたやつがいたか!?』
『その花も!そのドリンクも!全部無駄!!』
そこまで言ったとき、
父の目に涙が溜まっていたので次の言葉で最後にすることにした。
私も鬼ではない。
『父さん、それいらないよ』
冒険者についていろいろ説明し、なんとか今やっていることの無駄を理解してもらえた。
奴らは魔物を倒して、チヤホヤされることしか頭にないと。
少し言い過ぎたか?
いや、村人Dになったから分かる。
あいつら、私に40回も道を尋ねておいて、誰1人礼を言わなかった。
ゆるせん。
『全部やめて、ベッドと必要最低限の備品だけ揃えれば半額でも利益は出るだろ?』
『まぁ、、全部やめれば、大丈夫だけど、、』
『でも、いきなり半額になったらおかしく思われないかな?』
『もう、20年もこの価格でやり続けてきたんだよ?』
よく潰れなかったな。
『ならこうしよう、20周年記念キャンペーン価格として半額だ』
『なるほど、、それならいいか。いつまでやるんだい?』
『一生』
『い、一生!?』
『ずっと半額キャンペーンをやるって言うのか!?』
『そうだ。どうせ奴らは気にしない。ラッキーくらいに思うだけだろ』
この世界に表示法とか誇大広告とかないだろ。
『さすがにそれはちょっと、、だましてるみたいで気が引けるよ』
『なら今後一生食べ続けるパンだ。なにか斬新な食べ方がないか一緒に考えようか』
『、、、』
『半額キャンペーン開催します。』