お金がないよ
そういうものだろ?と言われて、
今までの私なら素直に受け入れていただろう。
そういうものなら仕方ない。
役割をきちんと果たして、きちんと報酬をもらおう。
そう考えたに違いない。
だが違う。
ここは私の夢なのだ。
私が勇者でなくてはならないし、
剣とか振りたいし、魔法とか打ちたい。
すごく感謝されたいし、
王様に褒めてもらって、
あわよくば綺麗な王女といい感じにもなりたい。
村人Dで終わってたまるか。
そう決心した私は、まずは武器屋に行ってみた。
400マニーがどれだけの価値になるか分からないが、何かしら買えるかもしれない。
『いらっしゃい』
店の奥からゴリラのような男が出てきた。
『なんだ、村人かよ』
あからさまに営業スマイルを崩し、店の奥へ戻ろうとする。
『待ってください、ここで一番安い武器ってどれですか?』
『は?お前がそれを知ってどうすんだよ』
『買います』
『なんで?』
『冒険者になる為に』
『がはははは』
と、大笑いした。
ゴリラが笑い止むまでしばらく待った後。
『そのナイフだな』
『いくらですか?』
『5万マニーだ』
ご、
私の手持ちは400マニー。
単純に残り496回道案内をする計算だ。
そこまでして、ナイフ1本か。
これでは冒険者になるまでに何年かかるか分からない。
礼を伝えて店を後にした私は、とにかくお金を稼ぐ方法を考えた。
一回話しかけられる度に100マニーもらえるなら1日17回ほど話しかけられたら30日で達成できる。
だが効率が悪い。
防具や、日常生活の出費まで考えると、正攻法では不可能に思えた。
そこで、しばらく周りを観察することにした。
観察して気付いたのだが、
人によってもらえる額が違うのだ。
マリアに聞いてみると、
『そりゃ文字数だね』
『たくさん話せば話すほど、報酬は上がるよ』
なるほど。
だが、決められたセリフしか話せない我々にはどうしようできないではないか。
内心を知ってか知らずか、
『セリフを増やすこともできるよ』
と、教えてくれた。
どうやら、村人にもレベルがあり、レベルが一定にあがると、新しいスキル(セリフ)を覚えるらしい。
それを組み合わせていき、文字数を稼いでいる人もいるとのこと。
勇者らしき奴らに10回話しかけられた時、私もレベルが上がり、スキルを取得した。
肝心のその内容は、
『やぁ』だった。
やぁ、、
これではダメだ。
もっと話しかけられなければ。
私は極力、勇者達の周りをウロウロすることにした。
時には家に入る前の扉に立ち尽くしてやったりもした。
その結果、悪口も含めて30回話しかけられた。
レベルも上がり、こんなセリフも覚えた。
『旅の疲れにはぜひうちの宿を』
私は宿屋の主人だったのか!!
組み合わせるとこうだ、
『やぁ、旅の疲れにはぜひうちの宿を
宿屋まではこの道をまっすぐだよ!』
と、なった。
これで1回、200マニーもらえるようになった。
これならいける。